最新の研究成果
リハビリでがん患者の「日常生活の力」を守る~緩和ケア病棟におけるリハビリの質向上と標準化に貢献~
2026年6月26日
- リハビリテーション学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科 西山 菜々子特任助教
概要
がん患者へのリハビリテーション(リハビリ)は生活の質(QOL)※1を支える重要な役割を担っていますが、人生の最終段階にある患者を対象とした効果検証は十分に行われていませんでした。
本研究グループは、緩和ケア病棟※2に入院するがん患者にリハビリを行う際に、セラピスト※3が大切にすべき考え方や行動を体系的に整理した手引きを作成し、この手引きに基づくリハビリの有効性をランダム化比較試験※4で検証しました。その結果、手引きに基づくリハビリは通常のリハビリに比べて、日常生活活動(ADL)※5の低下を有意に抑制し、患者の主観的な身体機能も良好で、安全性にも問題がないことが示されました。これにより、患者の状態や希望に応じたリハビリを提供するための具体的な方法が示され、ADLの低下の抑止と、緩和ケア病棟におけるリハビリの質の向上と標準化に寄与する可能性が示されました。
本研究成果は、2026年6月16日に国際学術誌「Cancer」にオンライン掲載されました。

ポイント
- 手引きに基づくリハビリは、緩和ケア病棟に入院するがん患者のADL低下を有意に抑制することが分かった。
- がん患者の主観的な身体機能も改善し、安全性も確認された。
- 緩和ケア病棟におけるリハビリの質向上と標準化に寄与する可能性を示唆。
<研究者コメント>
人は最期を迎えるまで「生きて」います。生きること、その人らしい生活、これらを支えることがリハビリの使命だと考えています。私たちは、緩和ケア病棟でリハビリを必要とするがん患者さんにも質の高いリハビリが届く社会を願い、この研究に取り組みました。本研究が、患者さんの「生きる時間」をどう支えるかを考えるきっかけになることを期待しています。

西山 菜々子特任助教
研究の背景
がん患者では、最期を迎える1~3か月前頃から、身体機能や、歩く・食べる・トイレに行く・着替えるといったADLが低下することが多く、避けがたい変化として認識されています。しかし、この時期であっても、多くの患者は「自分のことはできるだけ自分でしたい」、「自分らしく生活したい」と望んでいます。ADLの低下は、QOLを低下させるだけでなく、気持ちのつらさにもつながります。がん患者へのリハビリは、QOLを支えることを目的としますが、これまでの研究の多くは、余命が数か月以上見込めて、運動に取り組める状況の患者を対象としており、人生の最終段階にあるがん患者へのリハビリの効果を検証した研究はほとんどありませんでした。また、どのようなリハビリが最適なのか十分に分かっておらず、施設や担当者によるリハビリの質の差も課題でした。
研究の内容
本研究では、緩和ケア病棟に入院中のがん患者のADL維持を支援するため、セラピストがリハビリを実践する際に大切にすべき考え方や行動を体系的に整理した手引きを作成しました。そして、この手引きに基づいて行うリハビリが、通常のリハビリよりもADLの低下を抑える効果があるかを、日本国内19施設の緩和ケア病棟に入院中のがん患者130人を対象としたランダム化比較試験によって検証しました。対象となったのは、日常生活に一定の制限があるものの寝たきりではない、余命が3週間以上見込まれ、重度のつらい症状がない患者です。手引きに基づくリハビリを受けるグループと、通常のリハビリを受けるグループに無作為に分かれて、3週間後の患者のADLがどの程度保たれているかを、modified Barthel Index(mBI)※6という、患者のADLを観察して医療従事者が100点満点で採点する尺度で比較しました。リハビリの内容は、患者ごとに担当セラピストが選定しました。

主な結果として、3週間後のデータが得られた77人において、手引きに基づくリハビリを受けたグループのADLの変化は平均-1.31点でほとんど低下しなかったのに対し、通常のリハビリを受けたグループでは平均-15.51点でした。2つのグループの平均の差は14.21点で、医療現場で意味のある差※7とされる9.25点を上回る結果でした。また、患者自身が採点した主観的な身体機能も、手引きに基づくリハビリを受けたグループで良好でした。どちらのグループからも、リハビリに関連する重篤な有害事象※8は認められませんでした。
本研究は、緩和ケア病棟に入院するがん患者を対象に、患者の状態や希望に応じたリハビリを提供することで、ADLの低下を抑えられる可能性を示しました。緩和ケア病棟におけるリハビリの質を高め、施設や担当者によるばらつきを減らすための基礎となる成果です。
期待される効果・今後の展開
本研究の成果は、人生の最終段階にあるがん患者に対するリハビリを、緩和ケアの中でより適切に位置づけるための根拠になると考えます。手引きを用いることで、セラピストが患者の状態や希望に応じたリハビリを提供しやすくなり、どの緩和ケア病棟でも質の高いリハビリを受けられることが期待されます。また、患者やその家族にとっても、「もう何もできない」のではなく、最期に近い時期においても生活を支える方法があることを知るきっかけになってほしいと考えています。ADLをできるだけ保つことは、患者が自分らしく過ごす時間を支える上で重要です。
今後は、より多くのリハビリを必要とする患者に届けるために、この手引きを実際の医療現場でどのように広く活用していくかが課題です。ADLの低下を抑えるだけでなく、自宅退院を促す効果があるのか、費用対効果はどうなのか、緩和ケア病棟以外の療養場所で応用できるのかなども検討する必要があります。あわせて、セラピストへの教育体制や、多職種チームとして患者を支える仕組みづくりも今後の重要な課題です。
資金情報
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)より、「統合医療」に係る医療の質向上・科学的根拠収集研究事業JP18lk0310054(2018年度)、JP19lk0310060 (2019-2021年度)および革新的がん医療実用化研究事業JP22ck0106756(2022-2024年度)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 生活の質(QOL):Quality of Lifeの略。病気や治療の影響がある中で、どのくらい自分らしく、納得して生活できているかを示す考え方である。
※2 緩和ケア病棟:がんによる痛み、息苦しさ、不安などのつらさを和らげ、患者と家族がその人らしく過ごせるよう支える病棟である。病気を治すことを目的とした治療が難しくなった場合でも、症状を和らげ、日々の生活を支える医療やケアが行われる。
※3 セラピスト:本研究では、リハビリを専門に行う医療職のうち、作業療法士と理学療法士を指す。
※4 ランダム化比較試験:研究に参加する人を、くじ引きのような方法で無作為に複数のグループに分け、治療や支援の効果を公平に比べる研究方法である。
※5 日常生活活動(ADL):Activities of Daily Livingの略。食べる、移動する、トイレに行く、着替える、入浴するなど、日常生活に必要な基本的な活動を指す。
※6 modified Barthel Index(mBI):食事、移動、トイレ、更衣などの10種の日常生活活動を評価する尺度。0点~100点で示され、点数が高いほど自分でできる活動が多いことを意味する。
※7 医療現場で意味のある差:点数の差が、統計上の違いだけでなく、実際の医療や生活の場面でも重要な違いと考えられる大きさを指す。本研究では、mBIの9.25点を目安とした。
※8 有害事象:治療やリハビリの実施中に起こる、健康上の好ましくない出来事である。その出来事が治療やリハビリによって起こったかどうかは、別に判断される。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Cancer
【論文名】 Efficacy of a structured rehabilitation program for patients with terminal cancer: A multicenter randomized controlled trial
【著者】 Nanako Nishiyama, Yoshinobu Matsuda, Noriko Fujiwara, Keiichi Narita, Shunsuke Oyamada, Keisuke Ariyoshi, Yukiko Hosono, Kazuaki Kushi, Katsuaki Ichimaru, Ritsuko Yabuki, Keisuke Kaneishi, Kiriko Abe, Takahiro Fujihara, Yoshihito Kono, Kozue Suzuki, Tae Kinoshita, Takeshi Sasara, Masato Nakajima, Hironori Mawatari, Hiroki Sugawara, Kentaro Nobutani, Yuriko Shindoh, Koichiro Kobayashi, Takashi Yamaguchi, Ryuji Iwaki, Yosuke Kitazoe, Yoshiaki Kanai, Junya Ueno, Tesshin Fukumi, Ryouhei Ishii, Nobuhisa Nakajima
【掲載URL】 https://doi.org/10.1002/cncr.70485
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科
特任助教 西山 菜々子(にしやま ななこ)
TEL:06-6167-1278
E-mail:nnk.nishiyama[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:橋本
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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