最新の研究成果
3D VRナビ課題の評価が1年後の脳萎縮を予測 ― 認知機能が正常な段階で、認知症の超早期変化を捉える新規手法 ―
2026年6月25日
- 医学研究科
- プレスリリース
概要
藤田医科大学脳神経内科学の川畑和也講師、島さゆり准教授、渡辺宏久教授をはじめとする学習院大学、滋賀医科大学、量子科学技術研究開発機構(QST)、大阪公立大学、東京都立大学、名古屋大学の共同研究グループは、3D仮想現実(VR)ゴーグルを使って経路統合能※1を測定し、その成績から海馬傍回※2の菲薄化※3を高い精度で判別できること(AUC※4 0.87、感度88%、特異度86%)、および血漿中のアルツハイマー病(AD)関連バイオマーカー(p-tau181※5・GFAP※6)の上昇とも相関することを明らかにしました。また、移動中の向きのズレを示す「角度エラー」は加齢との関連が弱く、初期の病理変化をより特異的に反映する行動指標となる可能性が示されました。
本研究成果は、国際学術誌「Alzheimer's Research & Therapy」(2026年4月20日公開)に原著論文として掲載されました。

ポイント
- VR課題の成績が、認知機能が正常な段階で、1年間という短期間で生じる大脳皮質の菲薄化・体積減少を予測できることを、縦断研究として世界で初めて示しました。
- 萎縮の部位は、海馬傍回・後帯状皮質※7・中側頭回など、ADの初期に変性しやすい領域と一致しました。海馬傍回では、VR課題の成績だけで、高い精度で「萎縮が進みやすい人」を見分けることができました。
- VR課題の成績は、血液中のAD関連バイオマーカー(p-tau181・GFAP)の上昇とも関連しており、脳内の分子レベルの変化を反映している可能性が示されました。
- 向きのズレを表す「角度エラー」は、単なる加齢の影響ではなく、初期の病理変化をより特異的に反映する指標となる可能性が示されました。
- APOE ε4※8保有状況や加齢の影響を統計的に除いても結果は変わらず、経路統合能の評価が独立した予測指標であることが確認されました。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Alzheimer's Research & Therapy
【論文タイトル】 VR-based path integration predicts individual risk of rapid cortical decline: a one-year longitudinal study in cognitively unimpaired adults
【著者】 川畑和也1,2、島さゆり1,2、大嶽れい子1,2、Epifanio Bagarinao3(エピファニオ バガリナオ)、水谷泰彰1,2、建部陽嗣4、小池力4,5、笠井淳史6、植田晃広1、伊藤瑞規1,2、畑純一7、石垣診祐8、外山宏9、徳田隆彦4,10、高島明彦5、渡辺宏久1,2
【所属】
- 藤田医科大学 医学部脳神経内科学
- 藤田医科大学 精神・神経病態解明センター
- 名古屋大学 脳とこころの研究センター
- 量子科学技術研究開発機構
- 学習院大学 理学部生命科学科
- MIG株式会社
- 東京都立大学大学院 人間健康科学研究科
- 滋賀医科大学 神経難病研究センター
- 藤田医科大学岡崎医療センター 放射線科
- 大阪公立大学大学院医学研究科 健康長寿医科学講座
【掲載URL】https://doi.org/10.1186/s13195-026-02056-x
資金情報
本研究はAMED脳とこころの研究推進プログラム・脳神経科学統合プログラム「最初期アルツハイマー病を検出する脳ナビゲーションタスクの開発とその神経回路基盤解明に関する研究開発」(JP21wm0425016)、医学系研究支援プログラム「がん・神経・感染症における横断的研究推進による研究力向上計画」(JP256f0137005、JP266f0137005、JP276f0137005)、および認知症研究開発事業「多施設連携プラットフォーム(MABB)を基盤にした各種認知症性疾患に対する日本発の包括的な診断・層別化バイオマーカーシステムの確立」(JP22dk0207055)の支援を受けて行われました。
用語解説
※1 経路統合能:自分の移動した距離や方向を記憶し、出発地点や目的地点へ戻る能力。目印に頼らず、歩行中の視覚・前庭・体の動きの感覚を脳が自動的に統合することで実現される。内側嗅内野の格子細胞が中心的な役割を担う。
※2 海馬傍回:記憶・空間認知に重要な脳部位。ADの初期から変性しやすく、経路統合能にも深く関わる。
※3 菲薄化:組織や構造の厚みが薄くなること。脳画像解析では、主に大脳皮質などの厚み、すなわち皮質厚が低下している状態または変化を指す。
※4 AUC(ROC曲線下面積):検査や指標が対象をどの程度識別できるかを示す指標。1.0は完全な識別、0.5は偶然と同程度の識別を意味する。AUC 0.87は、比較的高い識別能を示す。
※5 p-tau181(リン酸化タウたんぱく):ADでは脳内でタウたんぱくが異常にリン酸化・蓄積する。p-tau181は血液中で測定でき、アルツハイマー病の早期指標として注目されている。
※6 GFAP(グリア線維性酸性たんぱく質):脳の神経細胞を支えるアストロサイトが傷ついたときに血液中に放出されるたんぱく質。神経変性の早期指標として注目されている。
※7 後帯状皮質:デフォルトモードネットワークの中心的ハブ。前臨床期ADにおいても早期から萎縮・代謝低下が報告されている。
※8 APOE ε4:ADの主要な遺伝的リスク因子。この遺伝子を持つ人はアルツハイマー病を発症するリスクが高いことが知られている。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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