最新の研究成果
熱放射を自在に操る新手法を提案 ~次世代の多機能デバイスへの応用に期待~
2026年6月25日
- 工学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院工学研究科 YeMing Qing(イエミン クィン)氏(JSPS外国人特別研究員/南京郵電大学 准教授)、村井 俊介講師、岡本 晃一教授、京都大学、中国・安徽工程大学、シンガポール工科デザイン大学、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)のチーム
概要
日本、中国、シンガポールの国際共同研究グループは、熱の放射する向きを自在に制御できる新しい光デバイスを理論的に提案しました。通常、熱の吸収と放射は相反性※1という自然界の基本法則に従っており、ある方向からの熱をよく吸収する物質は、同じ方向へ同じように熱を放射します。本研究では、磁気光学半導体※2InAs(インジウム・ヒ素)と、相変化※3材料GST※4を組み合わせたハイブリッドメタグレーティング※5を設計し、この相反性を破ることで、ほぼ垂直入射でも熱放射の方向を大きく制御できることを示しました。さらに、GSTの相変化を利用することにより、電源なしで非相反な熱放射のON/OFFの切り替えや保持ができることを明らかにしました。本成果は、高効率な次世代太陽電池や、高性能な赤外線センサーなどへの応用が期待されます。
本研究成果は、2026年6月25日に国際学術誌「Laser & Photonics Reviews」にオンライン掲載されました。
左方向に熱が放射され構造が冷却され、右方向からの熱を吸収し構造が加熱される様子。熱放射と吸収の相反性を破ることで、自在な熱制御が可能となる。
ポイント
- 熱の放射と吸収が同じになる相反性を破り、放射方向を自在に制御する新しい光デバイスを理論的に提案。
- 磁気光学半導体InAsと、相変化材料GSTを組み合わせたハイブリッドメタグレーティングを設計。わずか3°のほぼ垂直入射でも熱放射の方向を制御できることを示した。
- DVDやBlu-rayにも使われる相変化材料GSTで、熱放射のON/OFFを電源なしで記憶。
- 高効率な次世代太陽電池や高性能な赤外線センサー、省エネルギー技術への応用が期待される。
<研究者のコメント>
熱放射は一般に、受動的で対称な現象であると考えられています。本研究では、相変化フォトニクス※6と磁気光学効果を組み合わせることで、赤外線による熱放射の向きを制御し、さらにその状態を切り替え・保持できることを示しました。このコンセプトは、記憶機能を備えた次世代の熱フォトニクスデバイスを実現するための新しい基盤技術となることが期待されます。
YeMing Qing氏
研究の背景
熱放射とは、物体がその温度に応じて放出する赤外線のことです。熱放射を自在に制御する技術は、赤外線センサー、エネルギー変換、熱マネジメント、放射冷却など、幅広い分野で重要な役割を果たします。通常、物質による熱の吸収と放射は相反性に従っており、ある波長・方向から熱をよく吸収する表面は、同じ波長・方向へ同じように熱を放射します。この基本的な性質のため、熱の吸収と放射をそれぞれ独立に制御することは困難でした。もし両者を切り離して制御できれば、熱を吸収した方向とは別の方向へ熱を放射するデバイスが実現でき、熱マネジメントの高度化やエネルギー変換効率の向上、赤外線センシング、熱通信などへの応用が期待されます。
熱の吸収と放射を独立に制御するには相反性を破る必要があり、その有力な方法の一つが、磁場を加えることで光に対して非相反な性質を示す磁気光学材料を利用することです。しかし、これまで提案されてきた非相反熱放射デバイスは、多くの場合、光を大きな角度から入射させる必要があり、実用上の制約がありました。また、デバイス作製後に光学特性を変更できず、状態を電源なしで保持する不揮発な制御も実現されていませんでした。
研究の内容
本研究では、光がほぼ真上から入射する条件でも強い非相反性を示す新しい熱フォトニクスデバイスを理論的に設計・提案しました。提案したデバイスは、相変化材料Ge₂Sb₂Te₅ (GST)のグレーティング、磁気光学半導体InAsからなる導波路、および銀(Ag)反射膜で構成されています。グレーティングによって入射した赤外線を導波路内の共鳴光モードへ効率よく結合させて磁場を印加することで、光が進む方向による対称性(相反性)を破り、方向によって異なる光吸収を実現します。
シミュレーションの結果、波長約13.24 µm、入射角3°、磁場1T(テスラ)※7の条件で、約0.90という極めて大きな非相反係数を達成しました。これは、ある方向から入射した赤外線は強く吸収される一方、反対方向からの赤外線はほとんど吸収されないことを示しており、従来は困難であったほぼ垂直入射での高い非相反性を実現できることを示しています。
さらに、GST層の相変化を利用することで、非相反応答をON/OFFに切り替えできるだけでなく、その状態を電源なしで保持できる不揮発な光スイッチとして機能することを明らかにしました。
期待される効果・今後の展開
本研究は、方向制御、切り替え機能、記憶機能を兼ね備えた小型熱フォトニクスデバイスを実現するための新しい設計指針を示しました。本技術が実用化されれば、熱放射を自在に制御できるようになり、高効率な熱光発電(次世代太陽電池)、高性能な赤外線センサー、省エネルギーを実現する熱マネジメントや放射冷却技術、さらには不揮発な光メモリなどへの応用が期待されます。
ただし、本研究は理論設計と計算に基づく成果であるため、今後は提案したデバイスの実験的な作製・実証を進める必要があります。また、集積構造内でのGSTの相変化制御技術の確立や、動作に必要な磁場のさらなる低減、室温環境での安定動作の実証などが今後の重要な課題です。
資金情報
本研究は、中国国家自然科学基金(62305173)、科学研究費助成事業(JP25K01501、JP25K21709、JP25KF0265)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)およびシンガポール科学技術研究庁(A*STAR)による日星量子共同研究プログラムNEXUS(R25J4IR112、J261000052)、およびシンガポール国立研究財団(NRF-CRP30-2023-0003)の支援を受けて実施されました。
用語解説
※1相反性:光や熱が行きと帰りで同じように振る舞うという自然界の基本的な法則。本研究では、この法則を破ることで、熱の吸収と放射を独立に制御することを可能にした。
※2磁気光学半導体:磁場をかけることで光に対する性質が変化する半導体。この性質を利用すると、光の進む方向によって異なる応答を示すので、熱放射や光の流れを制御できる。
※3 相変化:気体・液体・固体のような物質の状態変化のこと。今回は固体のうち原子が規則的に並んでいる結晶と不規則に並んでいる非晶質の相変化を利用している。
※4 GST:ゲルマニウム・アンチモン・テルル合金。DVDやBlu-rayディスクの書き換えにも使われている相変化材料である。レーザーで温めると原子の並び方が規則的に並んでいる結晶と不規則に並んでいる非晶質の間を相変化し、光の反射率や屈折率が変化する。この性質を利用して0と1の情報を記録・保存でき、一度記録すると、電源がなくてもその状態を保てるのが特徴である。
※5 ハイブリッドメタグレーティング:今回の研究においては、磁気光学半導体とGST、および銀からなる回折格子構造のこと。
※6 フォトニクス:光を自在に操り、情報通信や医療、ものづくりなどに役立てる学問分野。
※7 T(テスラ):磁場の強さを表す単位で、1Tは病院のMRI装置で使われる磁石と同程度の強さ。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Laser & Photonics Reviews
【論文名】 Reconfigurable Giant Nonreciprocity at Near‐Normal Incidence via Phase‐Change Magneto‐Optical Metagratings
【著者】 YeMing Qing, Yi Shen, Jun Wu, Shunsuke Murai, Zhaogang Dong, and Koichi Okamoto
【掲載URL】 https://doi.org/10.1002/lpor.71438
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院工学研究科
講師 村井 俊介(むらい しゅんすけ)
TEL:072-247-6210
E-mail: murai[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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