最新の研究成果

食べ過ぎを防ぐ脳の仕組みを解明~ミトコンドリアの働きを保つタンパク質が脂質摂取時の食欲と体重を制御~

2026年7月1日

  • 生活科学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院生活科学研究科 松村 成暢教授藤谷 美菜客員研究員(米国テキサス大学サウスウェスタン医療センター研究員)、藤川 哲兵客員准教授(米国テキサス大学サウスウェスタン医療センター准教授)、大阪大学大学院医学系研究科 佐々木 勉特任教授

概要

本研究グループは、マウスに油脂を自由に摂取させた結果、雄では視床下部およびMC4R(メラノコルチン4受容体)※1ニューロンが集まるPVH(視床下部室傍核)※2でOPA1(Optic atrophy 1)※3というタンパク質が増える一方、雌では変化が見られないことを明らかにしました。さらに、このOPA1を特定の神経細胞で欠損させると、食べ過ぎや油脂の強い好みが生じて肥満になりやすくなり、その影響は特に雌で強く現れました。また、肥満治療薬の食欲抑制効果も雌では弱まり、神経細胞のエネルギー機能が食欲制御に重要である可能性が示されました。

本研究成果は、2026年5月21日に国際学術誌「FASEB Journal」にオンライン掲載されました。

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図:雄のマウスに油脂を摂取させるとOPA1が増加

ポイント

  1. マウスに油脂を自由に摂取させると、雄では視床下部およびMC4Rニューロンが集まるPVHOPA1というタンパク質が増加する一方、雌では変化が見られないことが分かった。
  2. OPA1が低下・欠損すると、MC4Rニューロンの働きが弱まり、過食や油脂嗜好の増加、肥満を引き起こすが、その影響は特に雌で強く現れた。
  3. 以上の結果により、MC4Rニューロンの食欲調節機能にOPA1が関与し、さらにOPA1によるこの機能調節に性差があることが示唆された。

<研究者のコメント>

私たちは「何を食べると脳はどう変わるのか」を長年研究しています。今回、脳のミトコンドリアが脂質に応答して食欲を調節するという、新しい役割を見いだしました。食べ物は単なるエネルギー源ではなく、脳の働きを変え、その結果として食行動を左右している可能性があります。「食べ物が脳を変え、脳が食べ方を変える」という新しい視点から、肥満の予防や治療につながると考えています。

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松村 成暢教授

研究の背景

肥満は糖尿病や心血管疾患など様々な生活習慣病の原因となる世界的な健康課題です。私たちは油脂を多く含む食品を「おいしい」と感じやすく、一度食べ始めると食欲のブレーキが効きにくくなることがあります。しかし、脳が脂質をどのように感知し、食欲や体重を調節しているのか、その仕組みはほとんど分かっていませんでした。

視床下部に存在するMC4Rニューロンは、食欲を抑え体重を維持する上で最も重要な神経細胞の一つです。一方、神経細胞の活動には大量のエネルギーが必要であり、その供給を担うミトコンドリアの機能維持が不可欠です。ミトコンドリア内膜の融合を担うタンパク質OPA1は、神経細胞のエネルギー産生を支える重要な因子ですが、MC4Rニューロンにおける役割や、脂質摂取との関係はこれまで明らかになっていませんでした。

研究の内容

本研究では、まず通常のマウスに大好きな油脂を自由に摂取させたところ、雄では視床下部およびMC4Rニューロンが集まるPVHでOPA1の発現増加が認められましたが、雌マウスでは同様の変化は観察されませんでした。次に、MC4Rニューロンの中のOPA1を欠損させたマウスを作製して解析した結果、加齢に伴う体重増加と肥満の進行、標準飼料条件下における摂食量の増加が確認されました。さらに、油脂と標準飼料を自由に選択できる条件下では、特に油脂の摂取量が増大し、それに伴う体重増加がより顕著となることが明らかになりました。これらの影響は雌においてより強く現れることも特徴的でした。
 

加えて、肥満症治療薬として用いられているMC4R作動薬(セトメラノチド)を通常のマウスとOPA1欠損マウスそれぞれに投与したところ、雄ではともに正常に食欲が抑制された一方、雌ではOPA1欠損マウスのみ食欲抑制効果が弱くなりました。これは、MC4Rニューロンのミトコンドリア機能が低下すると、食欲を抑える神経回路の働きが十分に発揮されなくなる可能性を示しています。

期待される効果・今後の展開

本研究は、脳内ミトコンドリアが食欲や油脂欲求を制御する新しい分子メカニズムを示したものです。これまで肥満研究ではホルモンや神経伝達物質に注目した研究が中心でしたが、本研究は「神経細胞内のエネルギー代謝」という新たな視点から肥満の発症機構を理解する手掛かりを提供します。

また、雌雄でOPA1の応答や肥満の起こり方が異なることから、性差を考慮した肥満治療や個別化医療の基盤となる知見としても期待されます。

今後は、OPA1がどのような分子機構によってMC4Rニューロンの機能を維持しているのかを詳しく解明するとともに、食事内容によって脳のミトコンドリア機能がどのように変化するのかを明らかにすることで、肥満や過食の予防・治療につながる新たな創薬標的や栄養学的介入法の開発につながることが期待されます。

資金情報

本研究は、科研費基盤研究(B)の(23H02164、26K01702)、(公財)飯島藤十郎記念食品科学振興財団学術研究助成からの支援を受けて実施しました。

用語解説

※1  MC4R(メラノコルチン4受容体)
脳の視床下部に多く存在する食欲を抑える受容体です。食後に活性化されることで「もう十分食
べた」という満腹のシグナルを伝え、食べ過ぎを防ぐ重要な役割を担っています。MC4Rの機能低下は、ヒトでも重度の肥満の原因となることが知られています。

※2  PVH(Paraventricular Hypothalamic Nucleus:視床下部室傍核)
視床下部にある神経核の一つで、食欲やエネルギー代謝、自律神経、ストレス応答などを統合的に制御する脳の重要な中枢です。MC4Rを発現するニューロンが多く存在し、満腹シグナルを伝える中心的な役割を果たしています。

※3  OPA1(Optic Atrophy 1)
ミトコンドリアの内膜で働くタンパク質で、ミトコンドリア同士を融合させ、その形態やエネルギー産生機能を維持する役割を担います。本研究では、MC4RニューロンにおけるOPA1が、脂質摂取時の食欲や体重調節に重要であることを明らかにしました。

掲載誌情報

【発表雑誌】 FASEB Journal
【論文名】 OPA1 in MC4R Neurons Regulates Dietary Fat Intake and Body Weight in Mice
【著者】 Shigenobu Matsumura*, Mizuki Fujiwara, Soyoka Horie, Miona Marutani, Eri Nousou, 
Nanase Iki, Yuka Yamato, Yui Otonashi, Tsutomu Sasaki, Mina Fujitani, and Teppei Fujikawa

【掲載URL】 https://doi.org/10.1096/fj.202600452R

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院生活科学研究科
教授 松村 成暢(まつむら しげのぶ)
TEL:06-6167-1359
E-mail:smatsumura[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:橋本
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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