最新の研究成果

超音波マイクロバブルで癌を破砕する特定臨床研究を開始~切開も穿刺も行わない無侵襲的なアプローチ、癌治療の新たな選択肢として期待~

2026年6月30日

  • 医学研究科
  • プレスリリース

大阪公立大学大学院医学研究科 肝胆膵外科学の石沢 武彰教授らの研究グループは、超音波マイクロバブルを用いた無侵襲的な(切開も穿刺も伴わない)肝癌破砕治療「Histotripsy(ヒストトリプシー)」の安全性や治療成績の確認を目的とする、日本初となる特定臨床研究を開始しました。

本研究では、ヒストトリプシー装置(製造 HistoSonics, Inc. 、グンゼメディカル株式会社が国内製造販売認可申請中、薬事未承認)を活用し、体外から照射する超音波を肝内の一点に収束させ、そこで発生するマイクロバブルにより、肝細胞癌と転移性肝癌の破砕治療を行います。本治療はメスによる切開や針の穿刺、放射線被ばくを伴わず、入院期間が短い(1泊の計画)ため、高齢者や重篤な併存疾患を抱える患者、早期の社会復帰を希望する患者に新たな治療選択肢を提供できる可能性があります。

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当院でのトレーニングの様子

研究の背景

肝細胞癌は肝炎や脂肪肝を背景に発生します。根治には手術や経皮的焼灼療法が行われますが、本邦では患者の高齢化が顕著であり、十分な治療を実施できないことが増えています。また、大腸癌などの肝転移に対しては手術による切除が最も効果的ですが、再発率も高いため、繰り返しの治療が必要になることが多くあります。したがって、肝癌に対しては、近年普及している腹腔鏡やロボット手術による低侵襲手術よりも更に身体的なダメージの少ない治療法が求められています。

研究概要

1.特定臨床研究について
本特定臨床研究は、肝細胞癌および転移性肝癌に対するヒストトリプシーの短期の有効性と安全性、実行可能性を評価するものです。対象は腹部ダイナミックCTまたはMRIで肝細胞癌または転移性肝癌と診断され、かつ最大径3cm以内の治療可能病変があり、研究参加への同意取得時点で20歳以上、90歳未満の方です。予定症例数は2例、研究期間は2028年6月30日までです。

2.研究の内容
無気泡水を満たしたメンブレンキットを患者の体表に密着させ、ヒストトリプシー装置による超音波検査で対象病変の位置を確認し治療範囲を決定します。次に、開始ボタンを押して同装置から超音波パルスを発信し、径4×8×8mm大のマイクロバブルを球状に集積させることで、治療範囲内の組織を破砕・液状化させます。治療時間は組織の固さや治療範囲の広さにより変動しますが、1セッション当たり15~30分です。病変の破砕・液状化の進行はモニター上で確認します。セッション終了後は、超音波検査で腫瘍の遺残や出血の有無を確認して終了します。治療後の検査に異常がなければ、翌日に退院となります。すべて全身麻酔下で実施します。

 (治療シミュレーションの様子)

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実験用生態モデルを切断

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シミュレーション後
中の肉片(組織)は液状化している

3.海外での症例実績
ヒストトリプシー装置は2021年、米国FDAに「画期的医療機器」に指定され、2023年には正式な市販承認を得ています。欧州でもCEマーキング(安全、健康、環境保護に関するEU基準に適合している製品であることを示す表示制度)の取得手続きが進み、アジア地域では台湾やシンガポールなどでの承認取得が計画されています。
ヒストトリプシー装置の有効性に関して、米国承認の根拠となった多施設研究(#HOPE4LIVER, 肝細胞癌19例、 転移性肝癌 28例)では、治療後1年の局所制御率(治療部位で再発の所見がない率)は90%、肝細胞癌、転移性肝癌に対する1年全生存率(治療1年後に生存している率)はそれぞれ73.3%、48.6%と報告されています。治療後30日以内の有害事象(機器の使用に伴う合併症)は6例(肝不全、門脈血栓、術後塞栓症、治療後疼痛、敗血症、胸膜痛、各1例)であり、この期間の患者さんの死亡はありませんでした[1]。その後に報告された国際多施設研究では、ヒストトリプシーを実施した230症例中、重篤な合併症は3例(1.3%)でした。この3例は進行した肝細胞癌、胆管癌、あるいは大腸癌転移に対して姑息治療(治癒目的でなく、癌の増大を制御するために行う治療)としてヒストトリプシーを実施した患者さんであり、元々あった癌の進行により全例が死亡しています。ヒストトリプシーの合併症としては、上記の合併症のほか、皮膚の発赤や急性腎不全、腹水の増加が報告されています[2]。これまでに、米国を中心とした100以上の医療施設で2000例を超える治療実績がありますが(未公表データ)、日本での実施例はまだありません。

[1] Ziemlewicz TJ, et al. The #HOPE4LIVER Single-arm Pivotal Trial for Histotripsy of Primary and Metastatic Liver Tumors: One-year Update of Clinical Outcomes. Ann Surg 2025;282:908-16.

[2] Wehrle CJ, et al. The first international experience with histotripsy: a safety analysis of 230 cases. J Gastrointest Surg 2025;29:102000.

今後の展望

本研究による初期導入の結果が良好であれば、国が国内での製造・販売承認、保険適用を検討するための基礎データになる予定です。肝細胞癌・肝転移の患者に、より低侵襲で早期の社会復帰を実現する新規治療を広く提供する道が開くことが期待されます。

資金情報

本研究はグンゼメディカル株式会社からの物品及び研究資金提供(臨床研究実施計画番号:jRCTs052250263)を受けて実施しています。

用語解説

※Histotripsy(ヒストトリプシー):皮膚に密着させた装置から照射する高圧(15-25 MPa)の超音波パルス(<10msec)を、体内の一点(φ4-8mm)に収束させることで発生させたマイクロバブルで腫瘍を包み込み、気泡が急速に膨張・縮小する際に起きる衝撃波のエネルギーで破砕・液状化させる治療法。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院医学研究科
肝胆膵外科学 教授 石沢 武彰(いしざわ たけあき)
E-mail:tish-osk[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:西野
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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