最新の研究成果

レーザーで多元素合金微粒子を作製し、偏析の原因解明と波長による組成操作を実現

2026年7月14日

  • 理学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院理学研究科 中前 佑哉氏研究当時:大学院生)、八ツ橋 知幸教授、本学大学院工学研究科 渡邉 充哉助教瀧川 順庸教授、本学総合技術部 石本 雅嗣氏

概要

サブミクロン粒子(SMPs)1は、太陽電池や化粧品などに用いられる重要な粒子素材です。本研究グループは、水中での液中レーザーアブレーション法※2により、ハイエントロピー合金3とミディアムエントロピー合金※4のSMPsを作製しました。また、特定の元素が酸化されることが、元素の空間的な偏りを引き起こす主な原因であること、紫外レーザーを用いて特定の元素の割合を操作できることを明らかにしました。

本研究成果は、2026年6月1日に国際学術誌「Journal of Alloys and Compounds」にオンライン掲載されました。

pr20260714_yatsu01図1 液中レーザーアブレーション法の様子(左)と
粒子生成機構の模式図(右)

ポイント

  1. 紫外レーザー、可視レーザー、近赤外レーザーを用い、水中での液中レーザーアブレーション法によりハイエントロピー合金とミディアムエントロピー合金のSMPs作製した。
  2. 作製したSMPsを分析したところ、酸化されやすい元素が粒子表面に偏析することが判明した。これらの元素が酸化されることが、元素の空間的な偏りを引き起こす主な原因であることが示された。
  3. 液中レーザーアブレーション法において、紫外レーザーを用いることで特定の元素の割合を操作できることを明らかにした。

<研究者のコメント>

近赤外レーザーを用いる液中レーザーアブレーション法では、原料とほぼ同じ組成の粒子が生じることが一般に知られています。しかし、今回、あえて紫外レーザーを用いたところ、粒子中の特定の元素の割合を操作できる可能性を見出すことができました。

pr20260714_yatsu04中前 佑哉氏

研究の背景

サブミクロン粒子(SMPs)は大きさが可視光の波長※5相当であることから光の散乱体として働き、また、ナノ材料に関する規制を受けないため、太陽電池や化粧品などに用いられる重要な粒子素材です。しかし、複数の金属を混合したサブミクロン合金粒子を作製するのは、全く交じり合わない金属の組み合わせがあるため非常に困難です。近年、金属をほぼ等量ずつ混合することで、金属の組み合わせを格段に増やせることが分かってきました。これはハイエントロピー合金と呼ばれ、そのナノ粒子※6が光学・磁気・触媒材料として期待されるため、作製法の提案が盛んに行われています。そのうち液中レーザーアブレーション法は、簡便で、原料以外の試薬を必要とせず、原料と微粒子の分離が容易であり、条件によってはSMPsの作製も可能です。しかし、目的とする元素組成の合金原料を事前に用意する必要があり、原料の合金組成と異なる組成の粒子を作ることが難しいという課題がありました。

研究の内容

本研究では、初めにSMPsの元となる原料として、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)のうちから各元素を等しく含む3元合金(FeCoNi)、4元合金(CrFeCoNi)、5元合金(CrMnFeCoNi)を、電着※7またはアーク溶解※8により用意しました。そして、紫外レーザー、可視レーザー、近赤外レーザーを用い、水中においてハイエントロピー合金およびミディアムエントロピー合金SMPsを作製しました。

次に、透過型電子顕微鏡※9による観測で、SMPs中の元素の分布はさまざまな形態を示すことが分かりました(図2)。元素の空間的な分布に基づいて(A)コアシェル型、(B)三日月型偏析、(C)均一分布、(D)相分離の4タイプに分類したところ、粒子のサイズが小さいときはCタイプが多く、サイズが大きくなると主にA、B、Dタイプが多くなることを確認しました(図2右下)。さらに、この変化は粒子のサイズが約200ナノメートル(nm)で起こることが分かりました。また、AタイプのFeCoNi粒子ではFeが外側に、CrFeCoNi粒子ではCrが外側に、CrMnFeCoNi粒子ではCrとMnが外側に分布していました。そして、いずれの粒子でもCoとNiは内側のみに分布していることが観察されました。用いた5つの元素の融点、沸点、原子半径はそれぞれ異なりますが、これらの物性をもとに元素の空間的な偏り(偏析)を説明することはできません。これに対し、粒子の表面に偏析した元素Cr、Mn、FeはCo、Niに比べて動きやすく、酸化されやすいという特徴があります。これらの元素が粒子の表面で酸化されると、水となじみやすくなるため粒子の表面エネルギー※10が減少し、それが駆動力となって粒子内に元素の空間的な分布の偏りが生じたと考えられます。

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図2 元素の空間分布と粒子タイプの模式図

液中レーザーアブレーション法では、液中に粒子が生じるとレーザー光が散乱されて遮られるため粒子の作製効率が低下します。そのため、一般には散乱の度合いが小さい近赤外レーザーがよく用いられます。しかし、本研究では近赤外レーザーや可視レーザーだけでなく、紫外レーザーを用いたところ、元素の割合が大きく変化することが分かりました。原料と比べるとFeCoNiの場合はFe、CrFeCoNiの場合はCrとFe、CrMnFeCoNiの場合はCr、Mn、Feの割合が増え、CoとNiはいずれにおいても減少しました。この傾向は可視レーザーを用いた場合にも見られましたが、紫外レーザーで最も大きく、近赤外レーザーではほぼ起こりませんでした(図3)。さらに、この組成の変化は粒子のサイズが約200 nmを境に小さい粒子で顕著に起こることが分かりました。前述の元素分布の結果とあわせると、紫外レーザーを用いて作製した比較的小さい粒子の元素分布は均一(Cタイプ)であるにも関わらず、特定の元素の割合が増減することが判明しました

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図3 CrFeCoNi粒子における元素組成の変化

期待される効果・今後の展開

ハイエントロピー合金粒子研究の初期は、無数の元素が均一に混合した固溶体と呼ばれる状態を作ることが注目されていましたが、機能を発揮するためには、単に構成元素の数を増やすだけでなく、特定の元素を、特定の部位に、特定の割合で偏析させることも必要です。本研究は、レーザー光の波長選択による元素組成・構造操作の道筋を示したといえます。今後は光による組成変化の原因の究明と制御可能な範囲を明らかにすること、また、粒径制御技術との融合が望まれます。

資金情報

本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業(JP24K08204、JP21K04833、JP21H00152)の支援を受けて実施しました。

用語解説

※1 サブミクロン粒子(SMPs):百万分の1メートル(1ミクロンあるいは1マイクロメートル(μm))よりも小さく、おおよそ0.1 μm程度までの粒子。

※2 液中レーザーアブレーション法:液体中に浸漬した固体原料にレーザーを照射して微粒子を作る技術。

※3 ハイエントロピー合金:定義は完全に定まっていないが、5種類以上の金属をほぼ均等な割合で均一に混合した合金。

※4 ミディアムエントロピー合金:定義は完全に定まっていないが、3あるいは4種類の金属をほぼ均等な割合で均一に混合した合金。

※5 可視光の波長:一般的に約380780 nmの範囲。1ナノメートル(nm)は10億分の1メートル。

※6 ナノ粒子:1 nmから百nm程度のサイズの粒子。

※7 電着:溶液中に流した電気を利用して、金属などを物体の表面に付着・析出させる技術

※8 アーク溶解:電気放電(アーク放電)によって発生する超高温の熱を利用して金属を溶かす技術。

※9 透過型電子顕微鏡:電子線を試料に透過させ、その内部構造をナノメートル規模の高倍率で観察する装置。

※10 表面エネルギー:物質の表面が持つ余剰エネルギー。粒子が生成される際には表面エネルギーを最も低く抑えようとする力が働く。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Journal of Alloys and Compounds
【論文名】 Fabrication of high- and medium-entropy transition-metal alloy submicrometer particles by ultraviolet, visible, and near-infrared subnanosecond laser ablation in aerated water
【著者】 Yuya Nakamae, Atsuya Watanabe, Yorinobu Takigawa, Masatsugu Ishimoto, Naoki Suyama, Kenji Sakota, Tomoyuki Yatsuhashi*

【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.jallcom.2026.188970

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院理学研究科
教授 八ツ橋 知幸(やつはし ともゆき)
TEL:06-6605-2554
E-mail:tomo[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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