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イヌ肝癌のMRI造影剤取り込み低下の一因を解明~カギとなる遺伝子の変化を発見~

2026年7月8日

  • 獣医学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院獣医学研究科 田中 利幸准教授、黒川 晶平氏(博士課程4年)

概要

イヌ肝細胞癌(HCC)の診断には、造影剤(Gd-EOB-DTPA)を用いたMRI検査が用いられ、良性腫瘍では造影剤をよく取り込み、悪性腫瘍では造影剤が取り込まれにくいという特徴を利用して鑑別が行われています。しかし、イヌHCCにおけるGd-EOB-DTPAの取り込みメカニズムは、十分に解明されていません。

本研究グループは、イヌHCCおよび良性の肝細胞腺腫(HCA)において、ヒトで造影剤取り込みに関わるとされているトランスポーター1の発現変化を解析しました。その結果、イヌHCCではイヌHCAと比較して、トランスポーター「OATP1A2」の発現が有意に低下していることを明らかにしました。本研究により、イヌHCCではOATP1A2の発現低下が造影剤の取り込み低下に関与している可能性が示されました。

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本研究成果は、2026年7月6日に国際学術誌「Veterinary Record Open」にオンライン掲載されました。

ポイント

  1. イヌHCCにおいて、MRI造影剤Gd-EOB-DTPAの取り込みに関わるトランスポーターの発現変化を、バイオインフォマティクス解析※2およびリアルタイムPCR※3を用いて解析。
  2. イヌHCCでは、トランスポーター「OATP1A2」の発現が有意に低下していることを解明。
  3. OATP1A2の発現低下が造影剤の取り込み低下に関与している可能性を示唆。

<研究者コメント>

イヌ肝細胞癌に対してGd-EOB-DTPAは使用されてきましたが、肝細胞のどのトランスポーターを介していたのかは不明でした。今回の研究では関与しているトランスポーターの候補を挙げることができたので、さらに検証を続けていきたいと考えています。

研究の背景

イヌ肝細胞がん(HCC)の鑑別には、造影剤Gd-EOB-DTPAを用いたMRI検査が活用されています。Gd-EOB-DTPAは、正常の肝細胞に特異的に取り込まれる性質を持ち、肝細胞相4では腫瘍の種類による信号の違いが明瞭に現れます。実際に、イヌHCCでは造影剤をあまり取り込まず低信号(暗い像)を示す一方、過形成や肝細胞腺腫(HCA)などの良性腫瘍では、造影剤をよく取り込むため高信号(明るい像)を示すことが知られています。
ヒトにおいては、Gd-EOB-DTPAの取り込みは、有機アニオントランスポーター(OATP1B1およびOATP1B3)と、多剤耐性関連タンパク質(MRP2およびMRP3)といったトランスポーターによって担われています。これらのトランスポーターの発現は、HCCの悪性度が高くなるにつれて低下し、それに伴い腫瘍へのGd-EOB-DTPAの取り込みも減少することが報告されています。しかし、イヌにおけるGd-EOB-DTPAの取り込みメカニズムについては十分に解明されていません。
そこで本研究では、イヌHCCにおいてトランスポーター発現の低下がGd-EOB-DTPAの取り込み低下に関与していると仮説を立て、発現が低下しているトランスポーターを同定することを目的としました。

研究の内容

本研究では、まずDDBJ BioProjectリポジトリ※5から取得したイヌHCC(14例)および正常肝(4例)のRNAシーケンスデータセットを用いて、バイオインフォマティクス解析を行いました。イヌHCCと正常肝組織を比較し、OATP1〜6ファミリー、MRP2、BSEP、BCRP、OCT1、MRP3といったトランスポーター遺伝子の発現変化を評価しました。その結果、OATP3A1およびOATP5A1の発現が上昇していた一方で、OATP1A2の発現は低下していたことが明らかになりました。
次に、臨床検体として、イヌHCC8例)およびイヌHCA4例)の摘出組織からRNAを抽出し、リアルタイムPCRを用いて、OATP1A2mRNA発現量を測定し、比較しました。その結果、イヌHCCではイヌHCAと比べてOATP1A2mRNA発現が有意に低下していることが明らかになりました。
これらの結果から、イヌHCCにおいてもOATP1A2の発現低下が認められ、Gd-EOB-DTPAの取り込み低下に関与している可能性が示唆されました。

期待される効果・今後の展開

本研究により、これまで十分に明らかになっていなかったイヌHCCにおけるトランスポーターの発現変化を、遺伝子レベルで明らかにすることができました。しかしながら、Gd-EOB-DTPAによる造影所見との関連は検討していないため、今後は造影効果とOATP1A2発現との関係を明らかにする必要があります。

資金情報

本研究は、JSPS科研費(JP25K23673)の支援を受けて実施しました。

用語解説

※1 トランスポーター:細胞の膜に存在し、特定の物質を細胞の内外へ運ぶタンパク質のこと。肝臓では、薬剤や造影剤などの取り込みや排出に重要な役割を担っている。

※2 バイオインフォマティクス解析:生物学で得られるDNAやRNAなどの大量のデータを、コンピュータを用いて解析する手法の総称。遺伝子の発現量の比較やパターンの解析などにより、生物の仕組みや病気の特徴を明らかにすることができる。

※3 リアルタイムPCR:RNAから合成したDNAを増幅しながら、その量をリアルタイムで測定することで、特定の遺伝子の発現量を正確に調べることができる手法。

※4 肝細胞相:Gd-EOB-DTPAなどの造影剤を投与した後、肝細胞に造影剤が取り込まれた状態を反映するMRI撮影のタイミング。

※5 DDBJ BioProjectリポジトリ:生物学分野の研究データを整理・共有するための**「研究プロジェクト単位のメタデータ(概要情報)を管理するデータベース。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Veterinary Record Open
【論文名】 OATP1A2 mRNA downregulation in canine hepatocellular carcinoma
【著者】 Shohei Kurokawa, Tomoki Motegi, Hideo Akiyoshi, Toshiyuki Tanaka
【掲載URL https://doi.org/10.1002/vro2.70038

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院獣医学研究科
准教授 田中 利幸(たなか としゆき)
TEL:072-463-5457
E-mail:t-tanaka[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

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