最新の研究成果
昆虫は植物の光毒性からどのように身を守るのか?~糞殻をまとう幼虫に新たな防御機構の可能性~
2026年7月10日
- 国際基幹教育機構
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学国際基幹教育機構 奥崎 穣准教授、小林 康一教授
概要
クロロフィルは植物の光合成に必須である一方、光を受けると活性酸素を生じさせる光毒性を持っています。植物はクロロフィルを必要時に無害化していますが、葉を食べる昆虫が光毒性にどのように対処しているのかはほとんど明らかになっていません。
本研究グループは、糞で作った殻(糞殻)の中で生活するツツジコブハムシ幼虫の体内に、クロロフィルやその分解産物で光毒性を有するフェオフォルビドが存在することを明らかにしました。しかし、糞殻を除去した幼虫にクロロフィルが吸収する波長帯の光を照射しても、顕著な成長阻害は確認されませんでした。これらの結果から、ツツジコブハムシ幼虫は、体内でクロロフィルの光毒性を軽減する仕組みを持つ可能性が示されました。
図1:(a) サツキの葉にとまったツツジコブハムシの成虫。
(b) ツツジコブハムシの幼虫。
(c) 糞殻から取り出されたツツジコブハムシの幼虫。
本研究成果は、2026年6月8日に国際学術誌「Journal of Chemical Ecology」にオンライン掲載されました。
ポイント
- ツツジコブハムシ幼虫の体内には、植物から取り込んだクロロフィルやフェオフォルビドが長期間存在することを明らかに。
- ツツジコブハムシ幼虫は、糞殻によって光から身を守るだけでなく、体内でもクロロフィルの光毒性を軽減する仕組みを持つ可能性が示された。
- 糞殻にもクロロフィルやフェオフォルビドが含まれており、それらが糞殻の防御機能に関与している可能性が見出された。
<研究者のコメント>
本学構内の植木や農場に生息する昆虫を調査する中で、多くの食植生昆虫が見つかり、ツツジコブハムシもその中で初めて出会った昆虫です。専門分野の枠を超えた新たな研究対象との出会いから始まったこのテーマを、これからも追究していきたいと考えています。
奥崎 穣准教授
植物のクロロフィル代謝の研究をする中で、葉を大量に食べる昆虫がクロロフィルの光毒性にどのように対処しているのかについては、長年疑問に感じていました。糞殻の中で成長するツツジコブハムシの幼虫がいることを知ったとき、「この幼虫は光毒性に苦しむに違いない」と思いましたが、結果は予想外のものでした。研究において予想が当たることはうれしいことですが、予想外の結果は新たな疑問や発見につながるため、研究の大きな魅力だと感じています。
小林 康一教授
研究の背景
クロロフィルは植物が持つ緑色の色素で、クロロフィルが吸収した光エネルギーは光合成を介して糖などの有機物の合成に利用されます。しかし、光合成が円滑に進まない状況では、利用されなかった光エネルギーによって細胞を傷つける活性酸素が生じることがあります。そのため、植物は光による活性酸素の発生やその毒性を抑えるさまざまな仕組みを持っています。また、クロロフィルを分解する過程で生じるフェオフォルビドなども光毒性を持つため、それらが蓄積しないようにクロロフィルを速やかに無害な状態まで分解します。
光毒性は、植物を食べて栄養にする生物(植食者)にも影響を与える可能性があります。植物プランクトンを捕食する一部の原生生物は、独自の仕組みでクロロフィルを光毒性の無い物質へと分解することが知られています。一方で、葉を食べる植食性昆虫がどのようにクロロフィルやフェオフォルビドなどのクロロフィル類を無害化しているのかは、ほとんど分かっていませんでした。
そこで本研究では、糞殻を利用するツツジコブハムシの幼虫に着目しました。この幼虫は、体の大部分を筒状の糞殻に収めた状態で葉を食べて成長します。糞殻は、黒色で光を遮ることから、この糞殻がクロロフィル類の光毒性を防いでいるのではないかと考え、その可能性を検証しました。
研究の内容
本研究では、ツツジコブハムシ幼虫の体内にクロロフィル類が存在するかどうかを確認するため、糞殻から幼虫を取り出して観察しました。その結果、サツキの葉を食べていた幼虫では、体内に緑色の色素が見られましたが、葉を食べていなかった幼虫では見られませんでした。この結果から、緑色の色素は摂取した葉に由来するクロロフィル類であると考えられます。
次に、体内の緑色の色素が光によって高エネルギーの状態(励起状態)になるのかどうかを検証しました。クロロフィル類は光エネルギーを吸収すると励起状態になり、赤色蛍光を出すことが知られているため、幼虫に光を当てその際に生じる蛍光を観察しました。

図2:(左)ツツジコブハムシを腹側から見た写真。
葉に由来する緑色の内容物が体内に見える。
(右)青色励起光下での蛍光観察。
緑色内容物が赤色の蛍光を放っている。
その結果、サツキの葉を食べていた幼虫では赤色蛍光が観察されましたが、葉を食べていなかった幼虫では、ほとんど観察されませんでした。この結果は、幼虫の体内に存在するクロロフィル類が、外からの光によって励起されうる状態にあることを示しています。
そこで、幼虫体内のクロロフィル類がどのような状態で存在するのかを解析した結果、葉を食べていた幼虫ではクロロフィルそのものの割合が多く、3日間絶食させた幼虫ではフェオフォルビドの割合が高いことが確認されました。また、糞殻からもフェオフォルビドが多く検出され、未分解のクロロフィルも確認されました。これらの結果から、ツツジコブハムシの幼虫はクロロフィルの分解が比較的遅く、主にフェオフォルビドとして排出していることが示されました。
ここまでの結果から、ツツジコブハムシの幼虫体内には食べた葉由来のクロロフィル類が存在し、光が当たれば毒性を発揮する可能性があることが示されました。そこで、光が幼虫の成長に影響を与えるのかを調べるために、青色光、緑色光、赤色光の照射下、および暗所で幼虫を飼育し、体重の変化を解析しました。その結果、糞殻を取り除いた幼虫では、青色光照射により成長の阻害が観察されました。しかし、青色光と同様にクロロフィル類によく吸収される赤色光にはそのような効果は見られず、緑色光照射や暗所条件との間で成長に差は見られませんでした。このことから、ツツジコブハムシの幼虫は、体内に存在するクロロフィル類の光毒性を抑える仕組みを持つ可能性が示されました。
期待される効果・今後の展開
本研究から、青色光照射下ではその光毒性が強まる可能性が示されました。しかし、青色光照射による活性酸素の発生は見られなかったことから、その他の要因も除外できないため、今後さらなる研究が必要です。
また、今後は他のハムシ類や植食昆虫に研究を広げることで、昆虫がクロロフィルの光毒性にどのように対処しているのか、その共通原理が明らかになることが期待されます。さらに、糞殻にもフェオフォルビドが含まれていたことから、それが捕食者や病原体に対する化学的防御を担っている可能性についても検証を進めていきます。
資金情報
本研究は、大阪公立大学国際基幹教育機構プロジェクト型研究支援事業の支援を受けて実施されました。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Journal of Chemical Ecology
【論文名】 Effects of Light on Faecal Case-bearing Larvae of the Leaf Beetle Chlamisus laticollis (Coleoptera: Chrysomelidae: Cryptocephalinae) Accumulating Phototoxic Chlorophyll Catabolites
【著者】 Yutaka Okuzaki & Koichi Kobayash
【掲載URL】 https://doi.org/10.1007/s10886-026-01727-1
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学国際基幹教育機構
准教授 奥崎 穣(おくざき ゆたか)
TEL:06-6167-1236
E-mail:w23250j[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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