最新の研究成果

「ステファンの五つ子」銀河群の分子ガス構造を解明~星が生まれやすい環境と生まれにくい環境の違いを明らかに~

2026年7月13日

  • 理学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院理学研究科 山本 美咲氏(博士前期課程2年)、村岡 和幸准教授大阪電気通信大学 前田 郁弥講師

概要

本研究グループは、銀河が極めて狭い領域に密集する「ステファンの五つ子」銀河群(Stephans Quintet:以下SQ)において、銀河群全体にわたる詳細な分子ガス分布を明らかにしました。さらに領域ごとの星形成効率※1を比較した結果、星が活発に生まれる領域と生まれにくい領域が共存しており、環境によって格差が生じていることを明らかにしました。
本研究成果は、2026年6月30日に国際学術誌「The Astrophysical Journal」にオンライン掲載されました。

ポイント

  1. アルマ望遠鏡のアタカマコンパクトアレイ※2を用いてSQ全面にわたる詳細な分子ガス分布を解明。潮汐尾3に沿って伸びる細長い分子ガス構造や、孤立して存在する分子ガスクランプ4を発見。
  2. 衝撃波構造※5に沿った領域や一部の分子ガスクランプでは星が活発に生まれる一方で、衝撃波構造と銀河本体の間に広がった分子ガスの領域では星形成効率が極めて低く、星の生まれやすさには環境による格差があることを示した。

press_0713_muraoka_03

図:(左)「ステファンの五つ子」銀河群(①~⑤)の可視光画像に、一酸化炭素分子が放つ電波を等高線(オレンジ色)で重ねたもの。等高線が高い場所ほど電波が強く、多くの分子ガスが存在している。
(右)一酸化炭素分子の電波が放つ周波数情報から推定した、分子ガスの三次元空間構造を疑似カラーで示したもの。色が赤い場所で最も分子ガスが多い。地球から見て奥行方向に対しても、広く分子ガスが分布している。

<研究者コメント>

今回新たにステファンの五つ子」銀河群(Stephans Quintet:以下SQ)の潮汐尾で分子ガスクランプを発見したことに加えて星形成があまり活発でない領域でも多くの分子ガスが存在していることが明らかになりました。さらに銀河間相互作用が分子ガスや星形成活動にもたらす影響を解明する上で、バイアスなく広範囲に分子ガスを調査する重要性を示唆する結果を得ました。今後は銀河間相互作用が星形成活動を制御する要因や、どのように制御するのかについてより詳細に調査していきたいと考えています。

研究の背景

宇宙には数多くの銀河が存在していますが、宇宙初期(100億年以上前)では今よりも宇宙自体が小さく、銀河が密な環境にあったため、銀河同士の衝突や相互作用が頻繁に起きていました。こうした銀河衝突は星の材料となる分子ガスを急激に圧縮することで新しい星の形成を促進すると考えられてきましたが、一方で銀河同士の相互作用が分子ガスの流出や枯渇を招き、結果的に星形成を抑制するという可能性も指摘されています。銀河の衝突や相互作用が起きた際に、星形成が促進されるか抑制されるかは銀河自体の性質(サイズや形状、質量、ガスの分布や含有量など)や衝突時の速度、銀河同士の位置関係などさまざまな要因によって決定されると考えられています。しかし、宇宙初期の銀河はきわめて遠方にあるため、衝突中の銀河を空間的に分解することが容易ではなく、観測的な理解が進んでいないのが現状です。

研究の内容

本研究チームは、地球にごく近い宇宙(近傍宇宙)に存在するコンパクト銀河群という天体に着目しました。コンパクト銀河群は複数(典型的に4~10程度)の銀河が極めて狭い領域に密集し、頻繁な銀河衝突・相互作用が起きていて、宇宙初期に近い銀河環境が実現されていると考えられています。中でもSQでは、過去複数回の銀河間相互作用を経験しており、大規模な衝撃波構造や潮汐尾といった特徴的な構造が知られています。

本研究では、アルマ望遠鏡のサブシステムであるアタカマコンパクトアレイを用いて、SQ全面にわたる詳細な分子ガス分布を世界で初めて明らかにしました。さらに、潮汐尾に沿って伸びる細長い分子ガス構造や、その北側に孤立して存在する分子ガスクランプを新たに発見しました。こうした分子ガスクランプは、銀河本体からはるか離れた場所で起きる星形成の重要な材料となっている可能性が高いと考えられます。

さらに本研究では、SQのさまざまな領域での星形成効率を調べました。すると、衝撃波構造に沿った星形成領域や一部の分子ガスクランプでは、近傍宇宙の渦巻銀河と同程度かもしくはそれ以上に星が生まれやすいことがわかりました。一方で、衝撃波構造と銀河本体の間に広がった分子ガスの領域では、新たな星を生む効率が渦巻銀河の1/100しかなく、極めて星が生まれにくい環境であることが明らかになりました。こうした結果は、銀河間相互作用が分子ガスの圧縮と拡散の両方に寄与し、それによって最終的に星形成の「格差」を生んでいることを示唆します。

期待される効果・今後の展開

本研究により、銀河間相互作用によって星形成効率に大きな差が生じることが明らかになりました。しかし、一口に銀河間相互作用と言っても、具体的な物理過程はさまざまです。たとえば衝撃波による分子ガスの圧縮と加熱、せん断効果による分子ガスの拡散などが挙げられます。これらの物理過程が分子ガスの物理状態(ガスの密度や温度、運動状態)をどのように変化させ、最終的に星形成の促進もしくは抑制に寄与しているのかを明らかにすることが次の課題になります。

星形成は銀河が進化する上で最も基本的な過程です。宇宙初期の銀河衝突や相互作用による星形成の促進・抑制の機構を詳しく知ることで、宇宙の中で銀河が進化してきた歴史を解き明かすことができます。このような研究は、我々人類が構築してきた宇宙観の解像度をさらに一段階引き上げ、宇宙の中で人類が存在する意味と意義を深く考える新たなきっかけを提供します。

資金情報

本研究は、JSPS科研費(JP23K13142、JP23H00129、JP23K20035、JP24H00004、JP24KJ1904、JP25K07371、JP25K23396)および国立天文台アルマプロジェクト論文出版サポート(NAOJ-ALMA-394)の助成を受けたものです。

用語解説

※1 星形成効率:分子ガスが同じ量だけあるときに、どれだけ多くの星を誕生させることができるかを表す指標。

※2 アタカマコンパクトアレイ:アルマ望遠鏡のサブシステムの一つ。広がったガスの分布を観測するのに適した望遠鏡。

※3 潮汐尾:銀河同士の重力相互作用によって、星やガスが銀河の外側にまで引き伸ばされてできる細長い構造。

※4 分子ガスクランプ:分子ガスが集まってできた小さな塊で、星形成のもととなる可能性がある構造。

※5 衝撃波構造:銀河同士の相互作用などにより高速で運動するガスがぶつかり、急激に圧縮されてできる構造。

掲載誌情報

【発表雑誌】  The Astrophysical Journal
【論文名】  Molecular Gas Structure and Star Formation Diversity in Stephan’s Quintet Revealed by ACA CO(1-0) Mapping
【著者】 Misaki Yamamoto, Fumiya Maeda, Kazuyuki Muraoka, Fumi Egusa, Shinya Komugi, Bunyo Hatsukade, Hiroyuki Kaneko, Masato I. Kobayashi, Kotaro Kohno, Ayu Konishi, Kana Morokuma-Matsui, Kouichiro Nakanishi, Kouji Ohta

【掲載URL】 https://doi.org/10.3847/1538-4357/ae7b30

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院理学研究科
准教授 村岡 和幸(むらおか かずゆき)
TEL:06-6605-7043
E-mail:kmuraoka[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

  • SDGs04
  • SDGs17