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イヌiPS細胞から赤血球様細胞の作製に成功~動物医療の輸血を支える基盤技術として期待~

2026年7月20日

  • 獣医学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院獣医学研究科 木村 和人客員研究員(兼 カリフォルニア大学デービス校博士研究員)、鳩谷 晋吾教授

概要

獣医療の現場では、イヌの輸血用血液の不足が大きな課題となっています。
本研究グループは、イヌiPS細胞(人工多能性幹細胞)※1からヘモグロビンを持つ赤血球様細胞の作製に成功しました。さらに、赤血球の目印となるタンパク質GYPA(グリコフォリンA)※2が発現すると蛍光するレポーター細胞※3を作製することで、赤血球様細胞が作られる過程の可視化にも成功しました。
本研究成果は、2026720日に国際学術誌「Stem Cells Translational Medicine」にオンライン掲載されました

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1 本研究の概要

ポイント

  1. イヌiPS細胞からヘモグロビンを持つ赤血球様細胞の作製に成功。
  2. ゲノム編集を用いて、GYPAの発現により緑色蛍光を示すレポーター細胞を作製。赤血球様細胞の分化過程の追跡が可能に。
  3. 動物医療の輸血を支える基盤技術としての応用に加え、ヒト医療への橋渡し研究としての展開に期待。

<研究者コメント>

獣医療において輸血用血液を安定して確保することは、今なお大きな課題です。今回、イヌiPS細胞からヘモグロビンを持つ赤血球様細胞を作製できたことは、将来のイヌの輸血医療を支える基盤技術につながる第一歩だと考えています。まだ臨床応用までには多くの課題がありますが、今回作製したレポーター細胞などを活用し、より成熟した機能的な赤血球を作る技術へ発展させていきたいと思います。

press_0720_hatoya02鳩谷教授

press_0720_hatoya木村客員研究員

研究の背景

赤血球輸血は、ヒトだけでなく獣医療でも重要であり、事故や手術による大量出血、重い貧血などでは、赤血球を補うことが治療の鍵になります。しかし、獣医療では血液バンクのシステムが十分に整備されていないため、輸血用血液を常に利用できるわけではなく、イヌにおいては、健康な献血ドナー犬に依存しているのが現状です。さらに、イヌにも血液型があるため、適合する血液を必要な時に十分に確保することは、獣医療において大きな課題となっています。
近年、iPS細胞を用いて体のさまざまな細胞を作る研究が進んでおり、iPS細胞を活用した血液供給の新たな方法の開発が期待されています。
また、イヌは家族の一員として高度な医療を受ける機会が増えているだけでなく、ヒトと似た病気を自然に発症するため、ヒト医療へ向けた橋渡し研究のモデルとしても注目されています。しかし、これまでイヌiPS細胞から赤血球を作る方法は十分に確立されていませんでした。

研究の内容

本研究では、イヌiPS細胞を小さな細胞の塊として培養し、その後、血球が生体内で生まれる過程をまねるように、段階的に培養条件を変え赤血球への分化を誘導しました。その結果、培養の途中で血液細胞のもとになる細胞が現れ、最終的に酸素運搬の担い手であるヘモグロビンを持つ赤く色づいた赤血球様細胞が得られました。
さらに本研究では、赤血球の目印として知られるGYPAに着目しました。イヌではGYPAを検出できる市販抗体がほとんどないため、CRISPR-Cas9※4というゲノム編集技術を使い、GYPAが細胞で作られると緑色に光るイヌiPS細胞(レポーター細胞)を作製しました。このレポーター細胞から赤血球様細胞を作ったところ、最終的に96%を超える細胞においてGYPAが発現していることが示されました。また、このレポーター細胞の作製により、赤血球様細胞が作られる過程を可視化してリアルタイムで追跡することが可能になりました。
一方で、今回作製された細胞は、成熟した輸血用赤血球そのものではありません。哺乳類の成熟した赤血球は核を持たないことが特徴ですが、本研究で作製した細胞のうち、脱核※5細胞は3%ほどにとどまりました。また、ヘモグロビンの遺伝子に関しても、未熟なタイプであるものが検出されました。加えて、酸素運搬能力や、細い血管を通過した時につまらないようにする変形能力、実際の体内での生存能力などの機能評価がなされていません。したがって、本研究成果は「すぐに輸血に利用可能な赤血球の完成」ではなく、「イヌiPS細胞から赤血球様細胞を作製するための基盤を示した成果」と位置付けられます。

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2 イヌiPS細胞から赤血球様細胞ができるまでの細胞形態・細胞塊の色・染色像の変化

期待される効果・今後の展開

本研究成果は、将来的にイヌの輸血医療をより安定させるための研究基盤になります。血液型の適合しやすいイヌの細胞からiPS細胞を作り、そこから赤血球が大量に作られるようになれば、献血に依存する負担を減らせる可能性があります。
また、イヌはヒトと生活環境を共有し、病気の成り立ちにも共通点が多い動物です。そのため、イヌiPS細胞を使った赤血球作製研究は、ヒトでのiPS細胞由来血液製剤の安全性や有効性を考える上でも、重要な橋渡しになる可能性があります。
今後は、成熟した赤血球をより多く作る方法を見つけ出す必要がありますが、これには今回作製したレポーター細胞が大いに役に立つ可能性があります。また、酸素運搬能力や変形能、生体での生存能力を持つ機能的な赤血球を効率よく得られる手法や、細胞株による作りやすさの違いを理解することが重要な課題です。

資金情報

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP18H02349、JP22J14623、JP22H02525、JP23K23790、JP26K01900)、2022年度大阪公立大学戦略的研究推進事業(重点研究)、公益財団法人G-7奨学財団研究開発助成事業の支援を受けて実施しました。

用語解説

※1 iPS細胞(人工多能性幹細胞):皮膚や血液などの体細胞に特定の因子を導入し、さまざまな細胞へ分化できる状態に戻した細胞。長期間増殖できるため、再生医療や疾患研究への応用が期待されている。本研究では、ときわバイオ株式会社との共同研究で作製したイヌiPS細胞を使用した。

※2 GYPA(グリコフォリンA):赤血球の細胞膜に多く存在するタンパク質で、赤血球系細胞を見分ける指標として用いられる。

※3 レポーター細胞:特定遺伝子の発現が蛍光などにより可視化できるようにした細胞。本研究では、ゲノム編集により、GYPA遺伝子が発現すると緑色蛍光タンパク(EGFP)が連動して作られ、リアルタイムで追跡できるようにした細胞。

※4 CRISPR-Cas9:狙ったゲノム領域を切断し、遺伝子を改変する技術。本研究では、このシステムを用いてイヌiPS細胞のGYPA遺伝子を切断し、そこに緑色蛍光タンパク(EGFP)の配列を挿入する遺伝子改変を行った。

※5 脱核:赤芽球が成熟赤血球になる過程で核を失う現象。核を持たないことは、哺乳類の成熟赤血球の重要な特徴の一つである。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Stem Cells Translational Medicine
【論文名】 Red blood cell differentiation using canine induced pluripotent stem cells
【著者】 Kazuto Kimura, Masaya Tsukamoto, Kohei Shishida, Hiroko Sugisaki, Jun Katahira, Miyuu Tanaka, Mitsuru Kuwamura, Amir Kol, Mika Okada, Minoru Iijima, Mahito Nakanishi, Kikuya Sugiura, Shingo Hatoya*

【掲載URL https://doi.org/10.1093/stcltm/szag058

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院獣医学研究科
教授 鳩谷 晋吾(はとや しんご)
TEL:072-463-5374
E-mail:hatoya[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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