最新の研究成果

乳房再建手術の安全性向上に新たな知見~術中の再吻合対応が合併症リスクを低減する可能性~

2026年7月23日

  • 医学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院医学研究科形成外科学 出口 綾香病院講師、元村 尚嗣教授

概要

本研究グループは、乳がん患者の乳房切除術後に行われる乳房再建の中でも、自身の組織を用いる遊離皮弁乳房再建において、術中に認められた血流障害への対応が術後成績に与える影響について、大規模臨床データを用いて検討しました。その結果、術中に血流障害が発生した症例において、予防的に再吻合を行った群(術中再吻合群)では、術後に再吻合を行った群(術後再吻合群)と比較して、手術後の合併症が有意に少ないことが明らかになりました。
本研究成果は、術中の血流評価に基づく早期介入の有効性を示すものであり、安全性の高い乳房再建医療の実現に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2026年6月9日に国際学術誌「Journal of Reconstructive Microsurgery」にオンライン掲載されました。

ポイント

  1. 18年間にわたりペンシルベニア大学で施行された遊離皮弁乳房再建3,120例(5,003皮弁)の症例データをもとに、「術中再吻合(182皮弁)」と「術後再吻合(79皮弁)」の治療成績を比較した。
  2. 術中再吻合群では、手術後の傷の細菌感染や皮膚壊死、皮弁壊死の発生率が有意に低く、術後再吻合群より良好な治療成績を示した。

<研究者コメント>

本研究では、18年以上にわたり蓄積された大規模な臨床データを解析し、血流トラブルに対する術中再吻合が良好な治療成績につながる可能性を示すことができました。これは、術者の経験に基づいて行われてきた判断を客観的なデータで裏付ける成果であると考えています。なお、本研究は私がペンシルベニア大学に留学していた際に実施したものです。今後も安全性の向上と合併症の低減を目指し、術中評価技術やマイクロサージャリー技術のさらなる発展に取り組むことで、より多くの患者さんに安心して乳房再建を受けていただける医療の実現を目指します。

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出口 綾香病院講師

研究の背景

乳がん患者の乳房切除術後に行われる乳房再建は、患者のQOL(生活の質)や身体イメージの回復において重要な役割を果たしています。その中でも、患者自身の組織を用いる遊離皮弁乳房再建は、自然な形態と長期的な安定性に優れることから、世界的に広く実施されています。しかし、この術式では顕微鏡下で血管を吻合するマイクロサージャリーが必要であり、その過程で血管の閉塞や血流不全が生じると、移植した皮弁が壊死し、再建乳房の喪失につながる重大な合併症となります。
これまで術後に血流障害が発見された場合には、緊急再手術による血管再吻合が行われてきました。しかし、血流障害の発生を術前・術中に正確に予測することは難しいことも多く、「術中に認めることができるわずかな血流障害であっても予防的に再吻合を行うべきか、それとも経過観察にするべきか」については明確な指針がなく、術者の経験や判断に委ねられているのが現状です。この問題は、再建外科・形成外科領域における長年の課題であり、術中の予防的介入が皮弁壊死や術後合併症の減少につながるのかについては、症例数の限られた報告が中心で、十分な根拠が蓄積されていません。

研究の内容

本研究は、20051月から20236月の間にペンシルベニア大学で施行された遊離皮弁乳房再建3,120例(5,003皮弁)という大規模データをもとに、血流障害が発生した症例における「術中再吻合(182皮弁)」と「術後再吻合(79皮弁)」の治療成績を比較しました。その結果、術後再吻合群では、創部感染が17.7%、皮膚壊死が13.9%、皮弁壊死が41.8%という発生率であったのに対し、術中再吻合群では、創部感染が1.6%、皮膚壊死が5.5%、皮弁壊死が11.5%と、いずれの発生率も有意に低いことが明らかになりました。本研究により、遊離皮弁乳房再建において術中に血流障害を察知した際の積極的な再吻合が、術後合併症の減少と皮弁生着率の向上につながる可能性が示されました。

期待される効果・今後の展開

本研究成果は、形成外科・再建外科領域における術中管理の考え方に新たな根拠を与え、より安全性の高い乳房再建医療の普及に貢献すると期待されます。患者にとっては、皮弁壊死や再手術のリスク低減、入院期間や治療負担の軽減、整容的・心理的満足度の向上が期待されます。また、遊離皮弁による乳房再建の安全性が高まることで、乳がん治療後の再建を希望する患者が、安心して再建術を選択できることにも寄与すると考えられます。
さらに、医療面では術中の血流評価と迅速なマイクロサージャリー介入の重要性が再認識され、手術手技の標準化や若手形成外科医の教育・技術継承の促進につながる可能性があります。さらに、皮弁壊死や感染などの重篤な合併症が減少することで、再手術や長期治療に伴う医療資源の消費を抑制し、医療経済的な観点からも一定の効果が期待されます。
一方で、本研究は単施設における後ろ向き観察研究であり、介入の判断基準には術者の経験や技術が影響している可能性があります。そのため、今後は多施設共同研究による検証や、術中再吻合の適応基準を明確化するための実施基準の確立などさらなる検討が必要です。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Journal of Reconstructive Microsurgery
【論文名】 Intraoperative Versus Postoperative Correction of Vascular Compromise: Comparison of Flap and Patient Outcomes in Free Flap Breast Reconstruction
【著者】 
Ayaka Nochi Deguchi, Mehdi Lemdani, Salman Khan, Daniel Botros, Jusung Kim, Margaret M. Hornick, Malia Voytik, Hisashi Motomura, Robyn Broach, Joseph M. Serletti

【掲載URL】 https://doi.org/10.1055/a-2886-9799

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院医学研究科形成外科学
病院講師 出口 綾香(でぐち あやか)
TEL:06-6645-3892
E-mail:g21371v[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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