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原子検出回数の異常ゆらぎと普遍性の発見~測定記録から量子多体物理を読み出す新指標を提案~

2026年7月27日

  • 理学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院理学研究科 山本 和樹講師、理化学研究所開拓研究所 濱崎 立資理研白眉研究チームリーダー(理化学研究所数理創造研究センター 上級研究員)

概要

本研究グループは、多数の原子からなる量子多体系1を連続的に測定した際に、原子の検出回数のゆらぎ2が、測定の強さによって大きく変化することを理論的に明らかにしました。測定が弱い場合には、原子の検出回数は標準的なゆらぎを示す一方で、測定が強い場合には、通常よりも大きな「異常ゆらぎ」が現れることを発見しました。本研究成果は、実験で得られる測定記録を解析することで、測定の反作用3が生み出す量子多体物理4の特徴を読み出せる新たな可能性を示すものです。

本研究成果は、2026年7月23日に国際学術誌「Physical Review Letters」にオンライン掲載されました。

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図:測定下の量子多体系と原子検出回数の概念図(Image: Issei Takahashi)

ポイント

  1. 実験で得られる原子の検出記録に注目し、原子検出回数のゆらぎから測定下で生じる量子多体物理を調べる新しい指標を提案
  2. 測定が強い場合は、標準的なゆらぎを大きく上回る原子検出回数の「異常ゆらぎ」が現れることを理論的に発見。
  3. 特定の測定結果を選び出すポストセレクション5を用いずに、測定の反作用が生み出す新たな普遍性6を実験的に検出できる可能性を示唆

研究の背景

量子の世界では、ものを「測る」という行為自体が、測られるものの状態を変えてしまいます。これは、私たちが日常で経験する測定とは大きく異なる性質で、「測定の反作用」と呼ばれています。近年、測定の反作用が多数の粒子が集まった量子系に、どのような新しい現象を引き起こすのか盛んに研究されています。特に、測定され続けている量子多体系では、測定そのものが新しい物理現象を生み出す可能性があり、本研究ではこのような現象を「測定下の量子多体物理」と呼びます。
測定下で生じる量子多体物理を実験で調べることは簡単ではありません。そのため、多くの理論の先行研究では、多数の測定結果の中から、特定の条件を満たす結果だけを選び出す「ポストセレクション」が用いられています。しかし、量子多体系では粒子の数が多いため、目的の測定結果だけを得る確率が非常に小さくなり、実験で検出することが難しいのが現状です。
そこで本研究では、特定の測定結果だけを選び出すのではなく、実験で自然に得られる測定記録そのものに注目しました。冷却原子系※7などの実験では、原子から散乱された光を検出することで、原子の状態に関する情報や検出記録を取得できます。本研究では、このような原子の検出回数の「ゆらぎ」を調べることで、測定の反作用が生み出す量子多体物理を検出できるのではないかと考えました。

研究の内容

本研究では、連続的に測定されている量子多体系を理論的に調べました。特に、系全体の中の一部分に注目し、その領域で発生する原子検出回数がどのくらいゆらぐかを解析しました。通常のゆらぎ(互いに独立なランダムイベントが起こる場合)では、その回数のばらつきは「ポアソン統計※8」と呼ばれる標準的な統計に従います。実際に本研究では、測定が弱い場合には、原子検出回数のゆらぎが通常のランダム現象に近い振る舞いを示すことが分かりました。つまり、検出イベントはおおむね独立に起きており、ゆらぎの大きさも標準的な範囲に収まります。一方で、強い測定のもとでは、原子検出回数のゆらぎが通常よりも大きくなる「異常ゆらぎ」を示すことを発見しました。これは、検出イベントが単にばらばらに起きているのではなく、多数の粒子が関係する集団的な影響を受けていることを意味します。
本研究では、こうした測定の強さによるゆらぎの変化を「測定誘起クロスオーバー※9」として理論的に明らかにしました。また、強い測定で現れる異常ゆらぎは、系の細かな条件だけで決まるものではなく、より広い種類の量子多体系に共通して現れる可能性があることを示しました。つまり、本研究で発見された原子検出回数のゆらぎは、測定下の量子多体物理における新たな普遍性を示唆しています。
本成果は、ポストセレクションを使わなくても、測定の反作用による量子多体物理を調べられることを可能にします。実験で実際に得られる測定記録をそのまま解析することで、今回発見した異常ゆらぎと普遍性を検出できる新たな可能性を示しました。

期待される効果・今後の展開

本研究は、測定下で生じる量子多体物理を、実験で得られる測定記録から直接調べるための新しい方法を提案するものです。特に、今回発見した異常ゆらぎや普遍性は、原子検出回数のゆらぎに注目することで、ポストセレクションの問題を回避することができます。また、冷却原子系の実験系で得られる測定記録を解析すれば、本研究で予言した測定の反作用による異常ゆらぎを実現できる可能性があります。
さらに、量子測定は、量子コンピュータ※10や量子シミュレータ※11においても重要な役割を果たします。量子コンピュータでは、計算の結果を読み出すために測定が必要で、測定は単に情報を読み出すだけでなく、量子状態そのものを変化させる操作でもあります。そのため、測定が量子系にどのような影響を与えるのかを理解することは、将来の量子技術の発展にとって重要です。これにより、測定が生み出す新しい量子多体物理の理解がさらに進むと期待されます。

資金情報

本研究は、JSPS「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」(課題番号:JPJS00420230008)、JST ERATO(課題番号:JPMJER2302)、JSPS 科研費(課題番号:JP24K16982、JP25K17327)、公益財団法人村田学術振興財団、公益財団法人ヒロセ財団、公益財団法人精密測定技術振興財団、公益財団法人フジクラ財団、公益財団法人豊田理化学研究所豊田理研スカラー、一般財団法人テレコム先端技術研究支援センターの支援を受けて実施しました。

用語解説

※1 量子多体系:多数の原子や電子などが集まった量子力学的な系。1個の粒子だけでは説明できない、集団としての性質が現れる。

※2 ゆらぎ:実験を繰り返したときに、測定結果が平均値のまわりでばらつくこと。

※3 測定の反作用:量子系を測定した際に、その測定行為自体が量子状態に影響を与えてしまうこと。

※4 量子多体物理:多数の量子粒子が集まった系では、1個の粒子だけを見ていては分からない集団的な性質が現れる。このような性質を扱う分野を量子多体物理と呼ぶ。

※5 ポストセレクション:たくさんの測定結果の中から、特定の条件を満たす結果だけを選び出して解析する操作。

※6 普遍性:物質の細かな性質や実験条件の違いによらず、異なる系に共通して現れる性質。

※7 冷却原子系:レーザーなどを用いて原子を非常に低い温度まで冷やした実験系。量子多体系を高い精度で制御できる。

※8 ポアソン統計:互いに独立なランダムイベントが一定の平均頻度で起こるときに現れる標準的な統計。

※9 測定誘起クロスオーバー:測定の強さを変えることで、量子多体系の振る舞いが通常のランダムな振る舞いから、測定の反作用が強く現れる異常な振る舞いへと連続的に変化する現象。

※10 量子コンピュータ:量子力学の性質を利用して情報を処理するコンピュータ。将来的に、物質の性質の計算や暗号解析など、特定の問題で従来のコンピュータを上回る性能を示すことが期待されている。

※11 量子シミュレータ:制御しやすい量子系を使って、他の量子多体系の性質を調べる装置や実験手法。冷却原子系は量子シミュレータの代表例の一つ。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Physical Review Letters
【論文名】 Measurement-induced crossover of quantum jump statistics in postselection-free many-body dynamics
【著者】 Kazuki Yamamoto and Ryusuke Hamazaki
【掲載URL】https://doi.org/10.1103/wv5b-r6sb

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院理学研究科
講師 山本 和樹(やまもと かずき)
E-mail:kazuki-yamamoto[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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