最新の研究成果
偏在しない輸送体が輸送の方向性を生むメカニズムを発見 ~ホウ素輸送体BOR3が生み出すホウ素の流れを解明~
2026年7月30日
- 農学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院農学研究科 反田 直之助教、髙野 順平教授、東京大学、北海道大学、英国 Cardiff University
概要
本研究グループは、シロイヌナズナにおけるBOR3という遺伝子の役割について、遺伝子解析、生理実験、数理モデルを組み合わせて調べました。その結果、遺伝子BOR3から作られるタンパク質BOR3はホウ素の輸送に貢献していること、さらに、BOR3は細胞膜に均一に分布しているにもかかわらず、根の表皮から中心に向かう方向性のある輸送に貢献していることを明らかにしました。本研究結果により、生物全般における物質輸送の理解に新たな視点を与えることが期待されます。
本研究成果は、2026年7月30日に国際学術誌「Plant Physiology」にオンライン掲載されました。
図1 シロイヌナズナのホウ素欠乏環境での生育の様子BOR1/2/3を欠損する変異株はBOR1/2を欠損する
変異株よりも生育が顕著に悪い。
ポイント
- 遺伝子BOR3から作られるタンパク質BOR3は、植物に必要な元素であるホウ素の輸送に貢献していることが分かった(図1)。
- これまで、物質を特定の方向に運ぶには、輸送体※1が細胞内の特定の場所に偏って存在することが重要だと考えられていたが、BOR3は偏在していないことが判明した。
- 偏りなく分布しているBOR3と偏在している通り道(チャネル※2)が組み合わさることで、ホウ素が一方向に輸送されることを見いだした。
<研究者のコメント>
“植物が土から栄養を吸収する”という当たり前の現象も、分子レベルではまだ分からないことだらけです。本研究では実験科学と理論科学の両面からアプローチすることで、栄養吸収にかかわる遺伝子を新たに同定するとともに、多細胞生物が持ち得る”新しい輸送の方法”を提案することができました。
反田 直之助教
研究の背景
植物は、土の中からさまざまな無機元素を栄養として吸収して成長しています。その中でもホウ素は、細胞壁の形成や植物の形づくりに欠かせない重要な元素です。しかし、土壌中のホウ素の量は地域や環境によって大きく異なり、不足すると植物の成長が著しく悪くなります。
これまでの研究で、シロイヌナズナというモデル植物では、ホウ素の細胞内外の移動を促進するNIP5;1という通り道(チャネル)と、細胞の外へ排出するBOR1、BOR2という輸送体が協力して働き、土の外側から根の内部へホウ素を運ぶ仕組みが明らかになっていました。特に重要なのは、これらの輸送体が極性と呼ばれる偏った配置を持つ点です。細胞の内側や外側に偏って存在することで、ホウ素が一方向に運ばれていくと考えられてきました。
一方、BOR1やBOR2とよく似た遺伝子としてBOR3が知られていましたが、その役割は長い間分かっておらず、植物のホウ素輸送の仕組みを理解する上での未解決問題の一つでした。
また、植物の根は多くの細胞でできており、根が土壌に接している細胞から地上部への栄養の輸送を担う道管へと栄養を運ぶには、細胞から細胞への栄養の受け渡しが必要であり、そのためには、特定の輸送体の極性が必要だと考えられてきました。しかし、多くの輸送体は極性を持たないことも知られており、一方向への輸送には極性が必要であるという前提が本当に正しいのかについては、十分に検証されていませんでした。
研究の内容
本研究では、未解明であった輸送体BOR3の役割に注目し、遺伝子解析、生理実験、そして数理モデルの3つを組み合わせて調べました。
まず、BOR3の働きを調べるため、遺伝子BOR1・BOR2・BOR3の全てを壊した植物を作成し、成長を比較しました。その結果、BOR1とBOR2だけを失った植物よりも、さらに成長が悪くなることが分かりました。このことから、BOR3はホウ素の取り込みに実際に貢献していることが示されました。
次に、BOR3が細胞のどこに存在するか(局在)を観察しました。BOR1やBOR2は、細胞の内側に偏って配置(極性配置)されることが知られています。しかし、BOR3は細胞膜全体にほぼ均一に分布しており、明確な極性が見られませんでした(図2)。

図2 シロイヌナズナ根端分裂組織におけるBOR3の細胞内極性局在。既知のBOR1が明確な内向き(根の中心側)に強く発現するのに対して、BOR3は細胞内の明確な発現強弱が見られない。スケールバーは30 µm。
これまで根の内部への栄養の取り込みのような方向性のある輸送には、輸送体の極性が重要だと考えられてきました。そのためBOR3に極性が見られないという結果は、BOR3が根へのホウ素の取り込みに貢献していることを踏まえると、特筆すべき現象でした。
この現象の解明に向けて、本研究グループは数理モデルを用いてホウ素の動きを解析しました。その結果、極性を持たないBOR3でも、NIP5;1のように一部に偏って存在するチャネルと組み合わさることで、組織全体としてはホウ素を一方向に輸送できることが明らかになりました(図3)。そして、新たに提案したこの仕組みを、「拡散協調輸送(Diffusive Alliance Transport: DAT)」と名付けました。さらに、この仕組みが成立するためには、細胞と細胞の間にあるアポプラスト※3という空間が重要な役割を果たしていることも示されました。この空間でホウ素が一時的に蓄えられることで、隣の細胞へと順々に運ばれていくものと考えられます。

図3 本研究で新たに提案した多細胞間の「方向性を持った輸送」様式【拡散協調輸送】の概念図
期待される効果・今後の展開
本研究は、物質を一方向に運ぶには輸送体の極性が必要という従来の常識を覆す、新しい輸送の仕組みを提案した点で大きな意義があります。これは植物におけるホウ素の輸送だけでなく、生物全般における物質輸送の理解に新たな視点を与えるものです。
今後は、他の輸送システムでも同様の仕組みが存在するかどうかの検証、実際の植物体内での三次元的な輸送の解析、作物への応用研究などが重要な課題となります。
さらに、今回の研究は、生物がどのようにして複雑な機能を実現しているのかを理解する上でも重要です。一見単純で方向性のない動きが、組み合わさることで高度な仕組みを生み出すという発見は、生命の設計原理そのものに関わるものといえます。
資金情報
本研究は、JSPS科研費(JP25221202、JP19H05637、JP26H00432)、海外特別研究員制度、英国バイオテクノロジー・生物科学研究会議(BBSRC, BB/P013511/1)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 輸送体:トランスポーター。細胞膜に存在し、特定の物質を細胞の内外へ運ぶタンパク質。物質によって専用の輸送体が存在し、生体内の物質の分布や濃度を調節する役割を担う。
※2 チャネル:細胞膜にある「通り道」のようなタンパク質。特定の分子が通過しやすくなるが、方向性は基本的にない(双方向に移動可能である)。
※3 アポプラスト:細胞壁や細胞間の隙間からなる空間であり、細胞の外側で物質が移動する経路。水や溶質が細胞を通らずに移動できるため、物質輸送に重要である。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Plant Physiology
【論文名】 Characterization and modeling of the borate transporter BOR3 suggest a mode of directional transport
【著者】 Naoyuki Sotta, Shigeki Takada, Kyoko Miwa, Junpei Takano, Yukari Kawata, Verônica A. Grieneisen, Toru Fujiwara, Athanasius F. M. Marée
【掲載URL】 https://doi.org/10.1093/plphys/kiag463
研究内容に関する問い合わせ先
【研究内容に関する問い合わせ先】
大阪公立大学大学院農学研究科
助教 反田 直之(そった なおゆき)
TEL:072-247-6096
E-mail:nsotta[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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