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空飛ぶクルマの電力・熱管理を統合的にシミュレーション ~季節条件により航続距離に最大約22%の差~

2026年8月5日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院工学研究科 中山 悠氏(博士後期課程3年)、佐々木 大輔教授、井上 征則准教授、アンドレエバ森 アドリアナ准教授

概要

空飛ぶクルマ(eVTOL1)は、暮らしや観光、救急医療などを支える次世代モビリティとして期待されています。本研究グループは、eVTOLの電力消費と熱マネジメントシステム2を統合的に扱うシミュレーション基盤を構築し、季節条件が飛行に与える影響を解析しました。その結果、同じ機体・同じ飛行ミッション3であっても、季節条件による熱マネジメント負荷や推進電力量の違いにより、有効航続距離が大きく変化することが分かりました。本研究結果は、季節条件を考慮した飛行ミッション成立性の評価や、運航計画、機体・熱マネジメントシステムの設計、離着陸施設の設備検討などに役立つことが期待されます。

本研究成果は、2026年7月4日に国際学術誌「Applied Thermal Engineering」にオンライン掲載されました。

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図 季節条件がeVTOLの有効航続距離に与える影響を示した概念図

バッテリー残量30%を運用予備として残す代表条件での計算では、離陸地点(黒丸)からの有効航続距離が春(黄色)は325 km、夏(赤色)は264 km、冬(青色)は254 km。なお、本計算値は代表モデルを用いた季節間の相対比較を目的としたものであり、特定機種の実運航時の航続距離を示すものではない。

ポイント

  1. 代表的な5人乗りeVTOLを対象に、飛行ミッション全体を評価する電力・熱マネジメント統合シミュレーション基盤を構築し、離陸、ホバリング、上昇、巡航、降下、着陸などの飛行フェーズで必要な推進電力を解析。
  2. 比較した春・夏・冬の代表的な条件において、春の条件では熱マネジメントに必要な電力が小さく、航続距離が最も長くなった。夏は冷房や機器冷却の負荷が大きく、冬は暖房負荷や空気密度の変化による推進に必要な電力の増加が影響し、航続距離が短くなることが分かった(図)。
  3. eVTOLの飛行ミッション成立性を評価するには、推進用電力だけでなく、機器冷却や客室空調などの熱マネジメントに必要な電力も考慮する必要があることを示した。

<研究者のコメント>

eVTOLの社会実装では、どこまで飛べるかだけでなく、どのような環境・運航条件で飛行ミッションが成立するかを評価することが重要です。本研究は、eVTOLの電力・熱・バッテリー残量を統合解析し、機体性能を運航計画や社会実装評価へつなぐ第一歩です。今後は、季節や気象条件を踏まえた運航可能性を評価し、空港アクセスや救急搬送など、空飛ぶクルマをどこで、どのように役立てられるかを検討していきます。

pr20260805_02中山 悠氏

研究の背景

空飛ぶクルマ(eVTOL)は、都市交通、空港アクセス、観光、救急搬送などへの応用が期待されている次世代モビリティです。2025年大阪・関西万博を契機として、国内でも社会実装に向けた検討が進んでいます。

実際にeVTOLを運航するためには、カタログに示された航続距離だけでは十分ではありません。電動航空機では、バッテリーに蓄えられた限られたエネルギーを、推進だけでなく、機器の冷却、客室の空調、バッテリー温度の管理にも使う必要があります。特に、暑い夏や寒い冬には、冷房や暖房、バッテリー・モーター・インバーターの熱管理に必要な電力が増えるため、実際に飛行できる距離や飛行ミッション成立性が変化する可能性があります。

これまでの研究では、バッテリーや冷却システムなど、個別の要素に着目した評価が多く行われてきました。しかし、eVTOLの実運航を考えるためには、飛行中の推進電力、バッテリー残量、機器温度、空調負荷、外気温などを、飛行ミッション全体で統合的に評価することが重要です。

研究の内容

本研究では、eVTOLの運航可能性を、公称航続距離だけでなく、気象条件、熱マネジメント負荷、バッテリー残量、機器温度などを含めて評価するためのシミュレーション基盤を構築し、季節条件が飛行ミッション成立性に与える影響を解析しました。

まず、代表的な5人乗りeVTOLを対象に、飛行ミッション全体を評価する電力・熱マネジメント統合シミュレーション基盤を構築しました。そして、離陸、ホバリング、上昇、巡航、降下、着陸などの飛行フェーズを考慮し、それぞれのフェーズで必要な推進電力を計算しました。さらに、バッテリー、コンバーター、モーター、インバーター、液冷システム、客室空調システムを連成させ、飛行中の電池残量、機器温度、熱マネジメントに必要な電力、エネルギー消費、有効航続距離を評価しました。季節条件としては、大阪周辺を想定した春、夏、冬の代表的な環境条件を設定しました。

解析の結果、同じ機体・同じ飛行ミッション条件であっても、外気温や空調負荷の違いにより、有効航続距離が大きく変化することが分かりました。春の条件では熱マネジメントに必要な電力が小さく、航続距離が最も長くなりました。一方、夏は冷房や機器冷却の負荷が大きく、冬は暖房負荷や空気密度の変化による推進電力の増加が影響し、航続距離が春に比べて短くなりました。

特に、夏の条件では、ホバリングや上昇下降時に熱マネジメントシステムの電力が一時的に大きくなり、飛行ミッション全体のエネルギー消費に見過ごせない影響を与えることが示されました。これにより、eVTOLの運航可能性を評価するには、推進に必要な電力だけでなく、熱マネジメントに必要な電力も含めて評価する必要があることが明らかになりました。

期待される効果・今後の展開

本研究により、季節や地域ごとの運航計画、機体設計、熱マネジメントシステムの設計、充電・冷却設備を含む離着陸ポート計画などに役立つことが期待されます。

また本研究は、eVTOLが飛べるかどうかだけでなく、どの地域に、どのような便益を、どの程度確実に届けられるかという社会実装の視点へ発展させるための基盤となります。将来的には、空港アクセス、都市交通、救急搬送、災害対応、観光、地域交通などを対象に、さまざまな気象条件下でのサービス提供の可能性や、地域にもたらす便益を定量的に評価する研究へ展開できます。

今後は、より詳細な熱マネジメント制御、ヒートポンプを含む暖房方式、実測気象データを用いた年間運航可能性評価、無充電での複数回連続運航や充電を考慮した運航シナリオ、離着陸ポート配置の最適化などへ発展させる予定です。これにより、機体性能を飛行ミッション成立性、運航便益、社会価値評価へつなぐ研究体系の構築を目指します。

用語解説

※1 eVTOL:electric Vertical Take-Off and Landing aircraft の略称で、電動の推進装置を用いて垂直に離着陸できる航空機のこと。都市交通、空港アクセス、救急搬送などへの応用が期待されている。

※2 熱マネジメントシステム:バッテリー、モーター、インバーター、客室などの温度を適切な範囲に保つための冷却・加熱システムのこと。電動航空機では、熱マネジメントに必要な電力もバッテリーから供給されるため、航続距離に影響する。

※3 飛行ミッション:離陸から着陸までの一連の飛行・運航過程。本研究では、地上待機、離陸、ホバリング、上昇、巡航、降下、着陸の各飛行フェーズを含む。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Applied Thermal Engineering
【論文名】 Mission-level integrated electricalthermal simulation for energy and thermal management of eVTOL aircraft
【著者】 Haruka Nakayama, Yukinori Inoue, Adriana Andreeva-Mori, Daisuke Sasaki

【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.applthermaleng.2026.132253

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院工学研究科 航空宇宙工学分野
教授 佐々木 大輔(ささき だいすけ)
TEL:072-254-9236
E-mail:daisuke.sasaki[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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