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分解可能なプラスチックを圧力効果で作成 ~圧力を反応の駆動力として利用する新たな手法を開発~

2026年8月19日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院工学研究科 北山 雄己哉准教授

概要

分解可能なプラスチックの開発は、ごみの削減や資源循環のために重要な課題です。プラスチックは小さな分子(モノマー)がつながった長い鎖のような構造をしているため、その途中に切れやすいつなぎ目を入れることで、自然の中で分解できるようになります。しかし、多くのモノマーは化学反応を起こしにくく、つなぎ目を作ることのできるモノマーは数が限られていました。

本研究グループは、微小な液滴内で生じるラプラス圧※1と呼ばれる内部圧力を、モノマーを多数つなげる反応の駆動力として利用する方法を開発しました。これにより、従来使用できないと考えられていたモノマーを活用した分解可能なプラスチックの合成に成功しました。

本研究成果は、2026年6月23日に国際学術誌「Macromolecules」にオンライン掲載されました。

pr20260819_kita02図1 ラプラス圧を利用した重合反応のイメージ

ポイント

  1. 微小な液滴内で曲率に起因して生じるラプラス圧を、モノマーを多数結合させて大きな分子(ポリマー)を作る重合反応の駆動力として利用する方法を開発。
  2. 従来使用できないと考えられていたモノマーに圧力をかけて反応させたところ、分子内に切れやすいつなぎ目をもつ分解可能なプラスチックの合成に成功。
  3. 開発したプラスチックをアミンという薬品で処理したところ、分解されることが確認できた。

<研究者のコメント>

分子の形を変えるのではなく、『圧力』という物理の力で、これまで使えなかったモノマーを反応させることができることを発見しました。シンプルな方法なので実用化にもつながると期待しています。今後は、この圧力効果を他の反応や異なるモノマーへ広げていきたいです。

pr20260819_kita01北山 雄己哉准教授

研究の背景

プラスチックはペットボトルやレジ袋、おもちゃなど多くの製品に使用され非常に便利なものですが、自然のなかで分解されにくいという問題があります。廃棄されたプラスチックは細かく砕かれてマイクロプラスチックとなり、海に蓄積し、それを魚などが食べてしまうため、生き物への影響も懸念されています。この問題の解決に向けて、使用後に分解されるプラスチックの開発が求められています。プラスチックは、小さな分子(モノマー)が多数つながった長い鎖のような構造をしており、この鎖の途中に切れやすいつなぎ目を入れることで、自然のなかで分解できるようになります。しかし、多くのモノマーは化学反応を起こしにくいため利用できないと考えられており、つなぎ目を作るには特別な種類のモノマーが必要でした。

研究の内容

本研究グループは、3-フェニルチオノフタリド(以下、PTP)という従来使用できないと考えられていたモノマーをラジカル開環重合※2に適用するために、ナノサイズの液滴を反応場とするミニエマルション重合※3という手法に着目しました。微小な液滴の内部では、その曲率に起因してラプラス圧と呼ばれる内部圧力が自然に発生します。約100 ナノメートル(nm)の液滴では数十キロパスカル(kPa)に達するこの圧力を、反応に必要な駆動力として利用しました。これにより、常圧の溶液重合では全く反応しなかったPTPが、ミニエマルション重合ではn-ブチルアクリレート(nBA)と効率よく共重合し、開環した分解性のチオエステル結合※4を主鎖に導入できました。これにより得られた共重合体をアミン処理したところ、チオエステル結合が切断され分子量が低下することから、主鎖分解性が示されることが確認できました。

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図2 圧力支援ラジカル開環重合によるチオエステル結合を主鎖構造中にもつ高分子の合成

次に、圧力が本質的な要因であることを、複数の独立した実験で裏付けました。実験において、液滴が大きく圧力の弱い懸濁重合(液滴サイズ約5マイクロメートル(µm)、ラプラス圧約7.3 kPa)ではPTPの反応率が低く、共重合性が悪いことが分かりました。液滴サイズが約100 nmのミニエマルション重合と比較すると、懸濁重合では粒子径が数十倍大きいため、ラプラス圧が小さくなり、PTPの反応性が低下します。このことから、PTPの反応性に圧力が重要であることが示唆されました。さらに、圧力効果を直接的に確かめるために、高圧反応容器を用いた均一溶液重合を実施したところ、外部から加える圧力を高めるほどPTPの転化率が上昇しました。これにより、圧力そのものが反応を支配していることが明確になりました。

さらに、ミニエマルション重合では液滴内のラジカルが互いに隔離されるコンパートメント化によって停止反応が抑制され、圧力効果と相まって反応効率がさらに高まることも明らかになりました。

期待される効果・今後の展開

本研究により、モノマーの分子構造を複雑に変えなくても、圧力を加えるだけで従来使用できないと考えられていた材料が使えるようになることが実証されました。これにより、分解可能なプラスチックを作るための材料の選択肢が大幅に広がります。また、この方法は特別な難しい仕組みが不要のため、実際の工場でも利用しやすいと考えられます。

将来的には、この技術が確実に分解される環境にやさしいプラスチックの創出につながり、海のプラスチックごみ問題の解決に役立つことが期待されます。また、圧力を反応の道具として利用するという新しい考え方は、今後、化学のさまざまな場面で活用される可能性があります。

資金情報

本研究は、科学技術振興機構(JST) さきがけ(JPMJPR24M3)、JSPS 科研費(JP21H02004、JP23K21137、JP24K01559)、および文部科学省「卓越研究員事業」の支援を受けて行われました。

用語解説

※1 ラプラス圧:水滴やシャボン玉のように、液体が丸い形をしているとき内側にかかる圧力。粒が小さいほど強くなり、ナノサイズの液滴では数十kPaに達する。本研究ではこのラプラス圧を、反応を進める力として利用した。本研究では約77 kPaと算出。

※2 ラジカル開環重合:ラジカル(遊離基)は不対電子をもつ原子や分子で、一般に反応性が高い化学種のこと。ラジカル重合は、ラジカルを活性種としてモノマーを重合する方法。ラジカル開環重合は、ラジカルを活性種としながらも、環(リング)状のモノマーを、その環を開きながら鎖につなげていく重合方法。環が開くときに分解可能なつなぎ目を作ることができるため、分解性プラスチックの合成に役立つ。

※3 ミニエマルション重合:水の中に分散したモノマー滴をナノメートルサイズまで小さくし、その一つ一つを反応の場としてプラスチックを作る方法。

※4 チオエステル結合:チオール基とカルボキシル基が縮合した構造であり、加水分解による分解が可能な結合。本研究では、この結合を主鎖構造中に導入することで、分解可能な高分子を合成している。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Macromolecules
【論文名】 Laplace Pressure-Enabled Radical Ring-Opening Polymerization of a Thionolactone
【著者】 Kaito Fuji, Yukiya Kitayama, Atsushi Harada

【掲載URL】 https://doi.org/10.1021/acs.macromol.6c01012

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院工学研究科
准教授 北山 雄己哉(きたやま ゆきや)
TEL:072-254-9330
E-mail:kitayama[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

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