最新の研究成果
筋肥大を誘導する新たな分子経路を発見~黒ショウガ由来成分が筋肥大シグナルを活性化~
2026年8月25日
- 農学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院農学研究科 山地 亮一教授、藤田 修平氏(博士前期課程2年)、原田 直樹准教授、北風 智也助教
概要
本研究グループは、マウス由来の筋管細胞を用いた解析により、黒ショウガ由来の天然成分5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(HMF)が骨格筋の細胞を肥大させる分子メカニズムを明らかにしました。解析の結果、細胞膜上に存在する受容体タンパク質GPR97※1が筋管細胞の肥大を促進することを発見しました。
さらに、この受容体を介した筋肥大の新たな情報伝達経路として「GPR97–Gα12※2–mTORC1※3経路」を同定し、HMFがこの経路を活性化することでタンパク質の合成を促し、筋肥大を誘導することを明らかにしました(図)。
本研究成果は、2026年8月3日に国際学術誌「Archives of Biochemistry and Biophysics」にオンライン掲載されました。

図:骨格筋を肥大させる新しいGPR97–Gα12–mTORC1シグナル伝達系
ポイント
- GPR97が筋管細胞の肥大を促進する重要な因子であることを発見。
- HMFはGPR97を介してGα12を活性化し、mTORC1シグナルに情報を伝達することで筋肥大を誘導することが明らかに。
- 加齢によるサルコペニアや長期臥床による筋萎縮などの予防・改善に向けた研究の進展に貢献することが期待される。
<研究者コメント>
加齢や運動不足による筋量や筋力の低下は健康寿命の短縮につながる重要な課題です。本研究では、HMFが新たに見出したGPR97–Gα12–mTORC1経路を活性化して筋肥大を促進する仕組みを明らかにしました。今後は、本研究で得られた知見が骨格筋の健康維持に貢献する機能性食品やサプリメントの開発につながることを期待しています。

山地 亮一教授、藤田 修平氏
研究の背景
骨格筋は体重の約40%を占める人体最大の組織であり、運動機能だけでなく糖や脂質の代謝にも重要な役割を果たしています。一方で、加齢や運動不足、長期間の寝たきり状態などにより骨格筋量が減少すると、運動機能や代謝機能の低下を招きます。そのため、骨格筋量を維持・増加させる分子メカニズムの解明が重要な研究課題となっています。本研究グループはこれまでに、黒ショウガ由来の天然成分である5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(HMF)が骨格筋の細胞を肥大させることや、老化促進モデルマウスにおいて筋萎縮を抑制することを報告してきました。しかし、HMFがどのような分子を標的として筋肥大を引き起こすのかは分かっていませんでした。
研究の内容
本研究では、マウス由来の筋管細胞を用いて、HMFが筋肥大を引き起こす仕組みを解析しました。その結果、細胞膜上に存在する受容体タンパク質GPR97が筋管細胞の肥大を促進していることを発見しました。さらに、GPR97の発現を抑制すると筋管細胞が萎縮するとともに、HMFによる筋肥大効果が消失しました。反対に、GPR97の発現を増やすと筋肥大が促進され、HMFはその作用をさらに増強することが分かりました。さらに解析を進めた結果、HMFはGPR97を介してGタンパク質Gα12を活性化し、タンパク質合成を制御するmTORC1シグナルへ情報を伝達することで筋肥大を誘導することを明らかにしました。また、マウスの骨格筋へHMFを投与したところ、mTORC1シグナルの活性化が認められました。この結果は、この作用が培養細胞だけでなく生体組織でも生じることを示しました。
次に、Gα12が、どのように筋肥大を引き起こすのかを解析しました。これまで、Gα12の働きは、主にRhoA–SRF経路※4を介して細胞に伝わると考えられてきました。しかし、本研究ではHMFによってRhoA–SRF経路が活性化されることは確認されたものの、この経路を阻害しても筋肥大は抑制されませんでした。一方で、Gα12あるいはタンパク質合成を制御するシグナルであるmTORC1の働きを阻害するとHMFによる筋肥大は消失しました。
これらの結果から、HMFは従来知られていたGα12–RhoA–SRF経路ではなく、新たに同定したGPR97–Gα12–mTORC1経路を介してタンパク質合成を促進し、筋肥大を誘導することが示されました。
期待される効果・今後の展開
本研究により、骨格筋の筋肥大を促進する新たな分子経路が明らかになりました。この知見は、加齢によるサルコペニアや長期臥床による筋萎縮などの予防・改善に向けた研究の進展に貢献すると考えられます。また、本研究で見出したGPR97–Gα12–mTORC1経路は、筋量の維持・増加を目指す新たな標的となる可能性があります。今後は、HMFがGPR97を介してGα12をどのように活性化するのかについて詳しく解析する必要があります。また、本研究成果が、筋量維持に役立つ機能性食品やサプリメント素材の研究開発へとつながることが期待されます。
資金情報
本研究の一部は、科学研究費助成事業の基盤研究B(JP23H02165, JP23K26858)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 GPR97(G protein-coupled receptor 97):細胞膜上に存在する接着型Gタンパク質共役受容体の一種。細胞外からの情報を細胞内へ伝達する働きを持つが、その生理機能の多くは未解明である。
※2 Gα12:細胞の表面で受け取った情報を細胞の内部に伝える「情報伝達役」のタンパク質。受け取った情報を次々と別の分子へ伝え、細胞の働きを調節している。
※3 mTORC1:細胞に「タンパク質を作って成長せよ」という指令を出す仕組み。筋肉が肥大するために重要な働きをしている。
※4 RhoA–SRF経路:細胞の形づくりや遺伝子の働きを調節する情報伝達経路。細胞が外部からの刺激に応答して働きを変える際に重要な役割を果たす。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Archives of Biochemistry and Biophysics
【論文名】 GPR97–Gα12–mTORC1 signaling drives myotube hypertrophy: identification of 5-hydroxy-7-methoxyflavone as a pathway activator
【著者】 Shuhei Fujita, Ayano Kimura, Daisuke Maekawa, Mai Kubota, Tomoya Kitakaze, Naoki Goshima, Naoki Harada, Ryoichi Yamaji
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.abb.2026.110964
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院農学研究科
教授 山地 亮一(やまじ りょういち)
TEL:072-254-9453
E-mail:yamaji[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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