最新の研究成果
飲み込み型医療デバイス向け無線通信の性能向上に成功~安全で高品質な通信技術が次世代医療の発展を支援~
2026年8月21日
- 情報学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院情報学研究科 小林 匠准教授、Jaakko Hyry(ヤーッコ ヒリュ)特任助教、藤本 まなと准教授、阿多 信吾教授、安在 大祐教授
概要
本研究グループは、カプセル内視鏡などの飲み込み型デバイスが体内の情報をより正確に体外へ送るための新しい無線通信技術を開発しました。人体の中では電波が弱くなりやすく、これまで、安定した通信が難しいという課題がありましたが、電波の送り方と使用するエネルギーを最適化することで、通信速度と受信性能の向上に成功しました。また、安全性や電波法にも配慮しており、今後、飲み込み型デバイスの実用化や医療・ヘルスケア応用への展開が期待されます。
本研究成果は、2026年6月1日に国際学術誌「IEEE Journal of Electromagnetics, RF and Microwaves in Medicine and Biology」にオンライン掲載されました。

ポイント
- 伝送波形と送信エネルギーを最適化することで、生体内通信の性能を大幅に改善。
- 人体への影響や電波法を考慮した新しい設計方法を導入し、安全かつ実用的な通信技術を実現。
- 高効率な体外受信と高速データ伝送を可能にし、カプセル内視鏡やディジタル錠剤などの高度な医療・ヘルスケア応用への展開を後押し。
<研究者コメント>
高周波数帯の生体通信の活用には様々な課題がありましたが、本研究の取り組みにより解決への可能性を見出すことができ、実用化につながる研究成果が得られたことに関係者一同で喜びを感じています。今後の飲み込み型機器の新しい展開に期待しています。

小林 匠准教授、 Jaakko Hyry特任助教、 藤本 まなと准教授、 阿多 信吾教授、 安在 大祐教授
研究の背景
カプセル内視鏡や飲み込み型温度計、ディジタル錠剤に代表される飲み込み型医療デバイスは、低侵襲で患者の負担が少ない医療技術として近年大きな注目を集めています。これらのデバイスの普及・高度化には、体内から体外へ安定かつ高品質に情報を伝送する無線通信技術の確立が不可欠です。しかし、スマートフォンの5GやWi-Fiで利用されているGHz帯(1GHz=10億Hz)の電波は人体組織の中を進むと大きく減衰するため、安定した通信が難しくなります。特に、体の深い位置から高画質の画像を送る場合、従来の周波数帯では通信速度が不足しやすく、広い周波数帯を使える超広帯域通信(UWB: Ultra WideBand)※1でも信号の減衰が課題でした。単純に送信電力を強くすればよいわけではなく、微弱無線局に関する電波法上の規制と、電波防護指針に基づく比吸収率(SAR: Specific Absorption Rate)の安全基準を同時に守る必要があります。このため、体内の位置に応じて、安全かつ効率のよい送信条件を選ぶ技術が求められていました。
研究の内容
本研究では、今後の利用拡大が期待される超広帯域通信(UWB)に着目し、送信電力、中心周波数、帯域幅の3つのパラメータの調整により、生体通信に用いるUWB波形の最適化を目指しました。この送信電力の最適化においては、微弱無線局の電波法規制や電波防護指針の比吸収率(SAR)の考え方を導入しました。さらに、体内のあらゆる位置に対して別々の波形を用意すると回路やアンテナが複雑になるため、動的スパース制御※2を導入しました。これは、多数の候補の中から性能に大きく影響する切り替えだけを残す考え方です。その結果、体表からのおおよその深さを3区分に分け、深い位置では人体内で減衰しにくい低い周波数を、浅い位置ではより高い周波数へ切り替えるという最適な方式の開発に至りました。これらの方式について解剖学的人体数値モデルに基づく電磁界解析を行った結果、動的スパース制御を取り入れたUWB伝送方式の有効性を明らかにしました。

概要図
期待される効果・今後の展開
今回開発した提案法により、送信電力を一律に強くするのではなく、体内の位置に応じて、安全基準と規制の範囲内で送信電力とUWB波形を最適化することで、平均スループットの大幅な改善に繋げることができました。また、全送信地点ごとに個別の最適化を行うことなく、動的スパース制御による重要なUWB波形のみを切り替えることによって40.3 Mbpsの平均スループットを達成でき、実装の複雑さを抑えた方式の有効性を示すことができました。これらの成果は、カプセル内視鏡のような飲み込み型医療デバイスから高精細な動画像を安定して伝送する技術や、より高度な体内医療・ヘルスケアへ応用されることが期待されます。
資金情報
本研究は、JST(科学技術振興機構)ムーンショット型研究開発事業 JPMJMS2214-06、総務省の「電波資源拡大のための研究開発(JPMI250830001)」、及びJSPS科研費JP24K00885の助成を受けて実施しました。
用語解説
※1 超広帯域通信(UWB: Ultra WideBand):UWBとは、数GHzにわたる非常に広い周波数帯域を利用する無線通信方式で、高い距離分解能を持つことから、通信と同時に高精度な位置計測が可能であるという特徴を有する。近年では、Appleの紛失防止タグ「AirTag」にUWBが採用され、スマートフォンとの高精度な相対位置測位を実現している。
※2 動的スパース制御:多数の制御パラメータ候補のうち重要なものだけを選び、性能とシステムにおける複雑さのバランスを取る制御手法の1つ。
掲載誌情報
【発表雑誌】 IEEE Journal of Electromagnetics, RF and Microwaves in Medicine and Biology
【論文名】 Power and Waveform Optimization for Implant Ultra-Wideband Communications Enhanced by Dynamic Sparse Control
【著者】 Takumi Kobayashi , Jaakko Hyry , Manato Fujimoto , Shingo Ata , Daisuke Anzai
【掲載URL】 https://doi.org/10.1109/JERM.2026.3691388
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学 大学院情報学研究科
准教授 小林 匠(こばやし たくみ)
TEL:072-254-9553
E-mail:kobayashi.takumi[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:橋本
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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