最新の研究成果
未知の合金特性を高精度に予測する新手法を開発~AIが計算値と実験値の“ずれ”を学習~
2026年9月15日
- 情報学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院情報学研究科 上杉 徳照教授、大阪府立大学現代システム科学域知識情報システム学類 松浦 隼凪氏(研究当時)
概要
本研究グループは、1,998種類の二元合金の第一原理計算※1データを用いて体積サイズ因子(VSF)※2の大規模データベースを構築し、計算値と実験値の「ずれ」をAIの転移学習※3によって補正する手法を開発しました。その結果、実験データのある合金では予測精度を向上させるとともに、未知の合金の性能に対しても信頼性の高い予測が可能なことを実証しました。本手法は、新規合金の効率的な探索を可能にし、材料開発の高速化と低コスト化への貢献が期待されます。
本研究成果は、2026年9月4日に国際学術誌「Materialia」にオンライン掲載されました。

研究の概要図
ポイント
- 約2,000種類の二元合金のデータを用いて大規模データを構築し、AIの転移学習によって計算値と実験値の「ずれ」を補正する手法を開発。
- 未知の合金も高精度に予測し、効率的な探索が可能に。
- 材料開発期間や実験コストの削減につながる可能性を示唆。
<研究者コメント>
2019年に工学研究科から人間社会システム科学研究科へ移籍して以来、この研究に、準備1年、第一原理計算3年、機械学習2年、執筆1年の計7年間を費やしました。その間、所属は情報学研究科へと変わりました。この成果は、材料工学と情報学を自由に行き来し、時間をかけて研究できる本学の研究風土があってこそ生まれたものです。長年、自由に研究に取り組めたことに感謝しています。
上杉 徳照教授
研究の背景
金属は、別の元素を加えて合金にすることで、強さや安定性を変えることができます。その性質を考えるうえで重要なのが、原子の大きさの違いによる格子のゆがみを表す「体積サイズ因子(VSF)」です。
しかし、VSFを実験で測るには時間と費用がかかり、測定されていない合金が数多くあります。一方、第一原理計算でも予測できますが、一部の合金では実験値とのずれが大きくなる課題があります。そこで本研究では、この「ずれ」自体をAIに学習させることで、実験データの少ない未知の合金でも、より信頼性を高めて、その合金の性能を予測することを目指しました。
研究の内容
本研究では、37種類の母元素と55種類の添加元素を組み合わせた1,998種類の二元合金について第一原理計算を行い、体積サイズ因子(VSF)の大規模データを構築しました。さらに、第一原理計算と実験値の「ずれ」を単なる誤差ではなく学習できる情報として捉え、AIの転移学習によって補正する手法を開発しました。その結果、実験データがある合金では予測精度を高めつつ、実験データがない未知の合金についても予測性能を維持できることを示しました。また、計算と実験のずれには、添加元素の電子構造、とくに周期表上の「周期」が強く関係することも明らかにしました。
期待される効果・今後の展開
本成果により、これまで実験が難しかった合金についても、コンピュータ上で有望な候補を事前に絞り込めるようになることが期待されます。これにより、「まず作って試す」従来型の材料開発から、「作る前に有望な材料を予測する」材料開発への転換を後押しし、開発期間や実験コストの削減につながる可能性があります。さらに、高強度合金やハイエントロピー合金※4など、膨大な元素の組み合わせを持つ新材料の探索を大きく加速できると期待されます。今後は、より多くの実験データによる検証を進めるとともに、3種類以上の元素からなる複雑な合金への展開を目指します。
資金情報
本研究は、文部科学省「データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト」(課題番号:JPMXP1122684766)および公益財団法人軽金属奨学会の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 第一原理計算:量子力学の基本法則に基づき、原子や電子の状態から材料の性質を計算する手法である。
※2 体積サイズ因子(VSF):合金に別の元素を加えたときに生じる、原子レベルの格子のゆがみの大きさを表す指標である。
※3 転移学習:あるデータから得た知識を、データの少ない別の課題に活用する機械学習の手法である。
※4 ハイエントロピー合金:多種類の元素からなる合金で、優れた強度や耐熱性などが期待される材料である。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Materialia
【論文名】 Transfer-learning-based refinement of volume size factors from first-principles calculations
【著者】 Tokuteru Uesugi and Shunto Matsuura
【掲載URL】 https://doi.org/10.1016/j.mtla.2026.102888
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院 情報学研究科
教授 上杉 徳照(うえすぎ とくてる)
TEL:072-254-9483
E-mail:uesugi@omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:橋本
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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