最新の研究成果

犬の飼育が高齢者の健康に与える影響を調査 ~歩きにくい地域でも犬との散歩が身体活動を支え、独居者の孤独感を軽減する~

2026年9月17日

  • 生活科学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院生活科学研究科 松下 大輔教授、井伊 さくら氏(研究当時:学士課程4年)、王 暁鋭特任助教

概要

本研究グループは、大阪府在住の高齢者799人を対象に、犬の飼育と身体活動、精神的健康、孤独感との関連を調査しました。その結果、犬の飼育者は非飼育者より身体活動の推奨基準を達成しやすく、歩きにくい地域でも活動量が高い傾向がありました。一方で、その傾向は犬の飼育そのものではなく、散歩習慣によるものであることが示されました。また、犬の飼育と良好な精神的健康との間に明確な関連は認められませんでしたが、独居高齢者では孤独感の軽減と関連していました。本研究結果により、犬の飼育による健康効果は居住環境や世帯構成によって異なることが明らかになり、高密度都市における健康まちづくりへの新たな知見を示しました。

本研究成果は、2026年8月24日に国際学術誌「Journal of Asian Architecture and Building Engineering」にオンライン掲載されました。

ポイント

  1. 犬飼育者は非飼育者より身体活動の推奨基準を達成しやすく、歩きにくい地域でも高い活動量を維持していることが判明。
  2. 身体活動の向上は犬の飼育そのものではなく、散歩習慣によるものであることが示された。
  3. 犬の飼育と良好な精神的健康との間には明確な関連はなかったが、独居高齢者では孤独感の軽減に関連していることが明らかになった。

研究の背景

日本人の健康寿命は平均寿命よりも約10年短いことが知られています(内閣府 令和7年版高齢社会白書より)。高齢期は日常の行動範囲が居住地周辺に限られやすくなるため、近隣の歩きやすさや緑の豊かさ、街路のつながりなどの建築・都市環境が健康を支える資源となります。環境と人の行動をつなぐ要因として、犬の飼育は国際的にも注目されています。犬の飼育は死亡リスクの低下と関連することがメタ分析で示されており、その一因として、犬の散歩によって歩行が促されることが挙げられています。一方、英国の大規模研究では、ペット飼育による精神的健康の改善は見られませんでした。また、ペットへの過度な愛着による抑うつや不安との関連も報告されています。

本研究グループは、ペット飼育に関する研究結果の不一致の理由として、多くの先行研究が犬を飼育している・いないのみに着目し、散歩の実施状況や飼育環境、社会的背景を十分に考慮していなかった可能性に着目しました。また、先行研究の多くは欧米の低密度都市を対象としており、交通量が多く街路が狭い日本の高密度都市では、犬の飼育が歩きにくい環境の制約による影響を増幅するのか、それとも補うのかについては分かっていませんでした。さらに、犬が独居高齢者の社会的なつながりを補うという社会的補完仮説を実証した研究も数が限られていました。

研究の内容

本研究グループは、2025年10月に大阪府在住の高齢者にオンラインアンケートを実施し、799人(犬飼育者396人、非飼育者403人)を対象に、犬の飼育が身体活動、精神的健康、孤独感にどのような影響を及ぼすかを分析しました。身体活動は「国際標準化身体活動質問票(IPAQ)」で測定し、厚生労働省のガイドライン「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」の基準を満たしているかを評価しました。また、精神的健康は世界保健機関(WHO)推奨の「WHO-5精神的健康状態表」、孤独感はカリフォルニア大学ロサンゼルス校で開発された「UCLA孤独感尺度」を用いて評価し、散歩習慣などを尋ねました。近隣環境は居住地郵便番号圏域ごとに交差点密度1、緑被率、人口密度をGIS2で計測し、社会人口統計学的共変量を用いて調整した回帰分析により、犬の飼育と環境や世帯構成との交互作用3を検定しました。これにより、次のような結果が得られました。

・近隣の歩行環境に恵まれなくても犬飼育者の身体活動は高い
犬飼育者における身体活動の基準達成のオッズ※4は、非飼育者の1.82倍でした。非飼育者においては交差点密度の高い地域のみで達成オッズが高く(1.50倍)、環境に左右されたのに対し、飼育者では環境による差がありませんでした(1.03倍)。交差点密度の低い地域での調整後平均身体活動量については、飼育者は週31.0メッツ・時※5に対し、非飼育者は17.4メッツ・時でした。

・身体活動の高さには散歩習慣が関連
基準達成オッズは散歩習慣のある飼育者で2.10倍、散歩習慣のない飼育者で0.97倍でした。散歩習慣のある人においては、飼育者と非飼育者に差はなく、身体活動の優位性は飼育そのものでなく散歩行動に伴うものでした。ただし散歩習慣をもつ割合は、飼育者80.3%、非飼育者37.7%と大きく異なりました。犬の飼育は散歩習慣と強く関連しており、身体活動の向上は散歩習慣を介したものと考えられます。

・散歩習慣のない飼育者は精神的健康の指標が低い
犬飼育者の精神的健康が良好と判定されるオッズは非飼育者の0.70倍で、散歩習慣なしの飼育者で特に低く(0.58倍)、孤独感も高くなりました。非飼育者の精神的健康は、都市部では交差点密度と正の関連を示した一方、飼育者では関連がなく(p=.020)、高密度都市での散歩の負担が示唆されました。

・独居高齢者では犬飼育者の孤独感が低い
孤独感は全体では差がありませんでしたが、世帯構成との交互作用が有意でした(p=.008)。家族同居高齢者では飼育による差がないのに対し、独居高齢者では飼育者の孤独感スコアが有意に低い結果でした(図)。

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図 世帯構成別にみた犬の飼育と孤独感の関係
調整後推定平均3~9点、高いほど孤独感が強い。エラーバーは95%信頼区間。同居高齢者(点線)では差がなく、独居高齢者(実線)では飼育者の孤独感が有意に低い。

本研究結果により、犬の飼育による健康効果は、単にペットを飼うことではなく、どこで、誰と暮らし、実際に散歩しているかによって左右される現象であることが日本の高密度都市で示されました。犬飼育で促される歩行が、歩きにくい環境の制約を補いうるという、高齢化が進む高密度なアジア都市の近隣計画※6に対する新たな知見を提示しました。

 期待される効果・今後の展開

街路接続性が低く、歩きにくい地域では、ペットと利用できる公開空地や日陰のある安全な散歩経路などの散歩インフラの整備が、街路網整備だけでは引き出せない高齢者の身体活動に寄与する可能性があります。一方、高密度地域の飼育者の散歩負担に対しては、交通から緩衝された経路や利用者間の摩擦を減らす共用空間の整備などが有効である可能性があります。独居高齢者でのみ飼育者の孤独感が低かったことは、急増する独居高齢者の住宅、近隣計画において、伴侶動物※7を社会的資源として位置付ける意義を示唆しています。今後、因果関係の確定に更なる研究が求められます。

資金情報

本研究はJSPS科研費JP24K01053の助成を受けたものです。

 用語解説

※1 交差点密度:1㎢あたりの交差点の数。交差点が多いほど街路網が細かくつながり、歩きやすい街路構造とされる。

※2 GIS:地理情報システムのこと。公開されている地理情報を使用し、回答者の居住地近隣の交差点密度などの指標を客観的に算出できる。

※3 交互作用:ある要因の効果の大きさや向きが、別の要因の水準によって変わること。本研究では、犬飼育の効果が地域環境や同居家族によって異なるかを検定した。

※4 オッズ:ある出来事が起こる確率を、起こらない確率で割った値。2つの群のオッズの比を「オッズ比」といい、1より大きければ比較対象より起こりやすく、1より小さければ起こりにくいことを意味する。

※5 メッツ・時:身体活動の量を表す単位。メッツは安静時を1とした活動の強さの倍率で、これに活動時間(時間)を掛けたものがメッツ・時。通常の速さの歩行は約3メッツで、1時間歩くと3メッツ・時に相当する。

※6 近隣計画:住まいの周辺にある道路、公園、広場、生活施設などを、人々が安全で快適に暮らせるように配置・整備する計画。歩きやすさや、人と交流できる場づくりなども含む。

※7 伴侶動物:人間と生活を共にする犬や猫などの動物を、単なる愛玩の対象ではなく、家族や友人、パートナーと同じく位置づける概念。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Journal of Asian Architecture and Building Engineering
【論文名】 Place-contingent effects of dog ownership on physical activity, mental well-being, and loneliness among older adults in a high-density Japanese city
【著者】 Daisuke Matsushita, Sakura Ii, and Xiaorui Wang

【掲載URL】 https://doi.org/10.1080/13467581.2026.2721947

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院生活科学研究科 居住環境学分野
教授 松下 大輔(まつした だいすけ)
TEL:06-6605-2871
E-mail:matsushita[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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