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肝細胞癌の新たな予測バイオマーカー候補を発見~血中全長型グリピカン3が薬物療法の治療成績・予後と関連~

2026年9月28日

  • 医学研究科
  • プレスリリース

発表者

大阪公立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学 小田桐 直志病院講師、榎本 大特任教授、打田 佐和子教授

概要

本研究グループは、切除不能肝細胞癌に対してアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法※1を受けた患者の治療前血液検体を解析し、治療開始前の血中全長型グリピカン3(full-length glypican-3:FL-GPC3)※2濃度が、治療による病勢制御率※3や無増悪生存期間※4、全生存期間※5と関連することを明らかにしました。治療開始前の血中FL-GPC3濃度が高い患者では病勢制御率が低く、無増悪生存期間および全生存期間が短いことが示されました。これらの結果から、血中FL-GPC3は、切除不能肝細胞癌に対する薬物療法を受ける患者の治療成績や予後を評価するための新たな血液バイオマーカーとなる可能性があります。

本研究成果は、2026年9月7日に国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

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図:治療前FL-GPC3血中濃度と予後との関連

ポイント

  1. 切除不能肝細胞癌患者102人を対象に、治療開始前のFL-GPC3濃度とアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法の治療成績との関連を解析。
  2. 血中FL-GPC3濃度が高い患者では、病勢制御率が低く、無増悪生存期間および全生存期間が有意に短いことを確認。
  3. 血中FL-GPC3は、切除不能肝細胞癌患者の治療効果や予後を予測する新たなバイオマーカーとなる可能性が示された。

<研究者コメント>

切除不能肝細胞癌に対する薬物療法は近年大きく進歩していますが、治療効果には個人差があり、治療前にその効果や予後を予測するバイオマーカーが求められています。今回、治療前の血液中に含まれる全長型グリピカン3(FL-GPC3)が、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法の治療成績や予後と関連することを明らかにしました。将来的には既存の腫瘍マーカーなどと組み合わせることで、一人一人の病態や治療後の経過をより適切に評価するための手がかりになることを期待しています。

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小田桐 直志病院講師

研究の背景

肝細胞癌は、肝臓に発生する原発性肝癌の中で最も多い悪性腫瘍です。手術や局所治療が困難な切除不能肝細胞癌に対しては、免疫チェックポイント阻害薬を中心とした薬物療法が広く用いられています。その代表的な治療法の一つが、免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブと、血管新生を抑制するベバシズマブを組み合わせた治療法です。
しかし、同じ治療を受けても、その効果やその後の経過には患者ごとに大きな違いがあります。現在、肝細胞癌では診断や病勢評価の補助指標として、血液中の腫瘍マーカーであるAFP、AFP-L3、PIVKA-Ⅱ(DCP)などが臨床で広く用いられていますが、これらの指標では薬物療法に対する治療効果や予後を十分に予測することは困難です。そのため、治療開始前の段階で治療成績や予後を評価するための新たなバイオマーカーが求められています。
グリピカン3(GPC3)は、正常な成人の肝臓ではほとんど発現しない一方、肝細胞癌では高頻度に発現するタンパク質です。GPC3は細胞膜表面に存在しますが、その一部は血液中にも放出されることが知られています。これまでにも血液中GPC3と肝細胞癌との関連性が研究されてきましたが、本研究グループは、GPC3の一部分ではなく、N末端側とC末端側の両方を認識することで「全長型GPC3(FL-GPC3)」を測定する方法に着目しました。

研究の内容

本研究では、切除不能肝細胞癌に対してアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法を受けた患者102人の治療開始前の血液検体を用いて、血中FL-GPC3濃度を測定し、解析を行いました。
まず、血中FL-GPC3濃度と治療効果との関連を検討しました。その結果、病勢を一定期間制御できた患者では、病勢を制御できなかった患者と比較して、治療開始前のFL-GPC3濃度が低い傾向が認められました。そこで症例をFL-GPC3低値群と高値群に分けて解析したところ、高値群では低値群と比較して病勢制御率が低いことが示されました。
次に、血中FL-GPC3濃度と生存期間との関連を解析したところ、FL-GPC3高値群では低値群と比較して、癌が進行することなく生存した期間である「無増悪生存期間(PFS)」と、治療開始後の「全生存期間(OS)」がいずれも短いことが示されました。
さらに、肝機能、癌の進行度、既存の腫瘍マーカーなど、予後に影響し得る複数の因子を考慮した解析においても、FL-GPC3と治療成績との関連が認められました。

期待される効果・今後の展開

本研究により、治療開始前の血液中FL-GPC3濃度が、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法を受ける切除不能肝細胞癌患者の病勢制御率、無増悪生存期間、全生存期間と関連することが示されました。
FL-GPC3は血液検体から測定できるため、将来的にその臨床的有用性が確立されると、患者への負担が比較的小さい方法で治療成績や予後に関する情報を得られる可能性があります。また、AFP、AFP-L3、PIVKA-Ⅱ(DCP)などの既存の腫瘍マーカーと組み合わせることにより、肝細胞癌患者のより詳細な病態評価につながることも期待されます。
一方で、本研究は単一施設で実施された後ろ向き研究であるため、今後は、より多くの患者を対象とした多施設共同研究や前向き研究によって今回の結果を検証するとともに、既存の腫瘍マーカーと組み合わせた場合の有用性や、他の薬物療法を受ける患者での適用可能性についても検討する必要があります。

資金情報

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP25K11210、JP23K15081)の支援を受けて実施しました。

用語解説

※1 アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法:免疫チェックポイント分子PD-L1を標的とする抗体薬「アテゾリズマブ」と、血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とする抗体薬「ベバシズマブ」を組み合わせた治療法。切除不能肝細胞癌に対する薬物療法の一つとして使用されている。

※2 全長型グリピカン3(FL-GPC3:Full-length glypican-3):グリピカン3(GPC3)は、細胞表面に存在するタンパク質の一つで、肝細胞癌では高頻度に発現する。全長型GPC3(FL-GPC3)は、N末端からC末端までの完全な構造を保持したGPC3のことを指す。

※3 病勢制御率:治療によって癌が縮小した患者に加え、癌の大きさが一定期間ほぼ変化しなかった患者を含めた割合。治療によって病気の進行を抑えられた患者の割合を示す指標の一つ。

※4 無増悪生存期間:治療開始から癌の進行または死亡までの期間を示す指標。

※5 全生存期間:治療開始から死亡までの期間を示す指標。

掲載誌情報

【発表雑誌】 Scientific Reports
【論文名】 Clinical relevance of serum full-length glypican-3 in unresectable hepatocellular carcinoma treated with atezolizumab and bevacizumab
【著者】 Naoshi Odagiri, Masaru Enomoto, Hiroko Ikenaga, Jumpei Okamura, Kanako Yoshida, Kohei Kotani, Hideto Yuasa, Ritsuzo Kozuka, Etsushi Kawamura, Atsushi Hagihara, Hideki Fujii, Sawako Uchida-Kobayashi

【掲載URL】 https://doi.org/10.1038/s41598-026-70494-6

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学
病院講師 小田桐 直志(おだぎり なおし)
TEL:06-6645-3905
E-mail:odagiri-n@omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

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