最新の研究成果
イチゴ葉抽出物にパーキンソン病予防の可能性 ~農業廃棄物の有効利用も期待~
2026年9月30日
- 生活科学研究科
- プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院生活科学研究科 小島 明子教授、植田 千晴氏(研究当時:大学院生)、徳松 珠己氏(研究当時:大学院生)、十亀 芙佳氏(博士前期課程2年)、千葉 信明氏(博士前期課程1年)、湯浅 勲客員教授、青森県立保健大学 乗鞍 敏夫准教授、佐々木 裕太郎助手
概要
本研究グループは、農業廃棄物として処理されているイチゴの葉に着目し、その抽出物の神経保護作用を検証しました。細胞レベルの実験では、イチゴ葉抽出物が抗酸化作用とマイトファジー※1を同時に活性化し、神経細胞障害を抑制することが判明しました。さらに、パーキンソン病モデルマウスでは、運動機能の低下や神経細胞の障害が改善されました。本研究結果により、イチゴ葉抽出物はパーキンソン病予防に役立つ機能性食品素材として期待されます。
本研究成果は、国際学術誌「Frontiers in Nutrition」に2026年9月7日にオンライン掲載されました。

ポイント
- 細胞レベルの実験において、イチゴ葉抽出物が抗酸化因子Nrf2※2を活性化するとともに、傷ついたミトコンドリアを除去するマイトファジーを促進し、神経細胞障害を抑制することが判明。
- パーキンソン病モデルマウスにイチゴ葉抽出物を経口摂取させたところ、運動機能が著しく改善し、神経細胞の働きが回復した。
- イチゴ葉抽出物はパーキンソン病予防に役立つ機能性食品素材として期待される。
<研究者のコメント>
食品はさまざまな作用を持っていることから、その働きに着目し、食を通じた健康維持の可能性を探ることを目指して研究を進めました。試行錯誤を重ねることで、今回の知見を得ることができました。本成果がパーキンソン病予防に向けた新たな視点となり、今後の研究発展につながることを期待しています。
植田 千晴氏
小島 明子教授
研究の背景
パーキンソン病(以下、PD)は、中脳黒質のドーパミン神経細胞が減少するため、身体が動きにくくなり、ふるえや筋肉がこわばる神経変性疾患の1つです。難病に指定されており、高齢になるほど患者数は増加するため、超高齢社会の現在、大きな社会問題となっています。
このような中、抗酸化作用をもつ天然由来成分を活用した予防法や改善法の開発が期待されています。イチゴの葉には抗酸化作用をもつポリフェノールが果実よりも多く含まれていますが、その他の生理作用についてはほとんど知られていません。また、イチゴ葉は農業廃棄物として処理されるため、イチゴ葉の利用法を見いだすことで農業廃棄物の削減や資源の有効活用への貢献が期待できます。
研究の内容
本研究では、イチゴ葉(株式会社エキスプレスより供与)を50%のエタノールで抽出したものをイチゴ葉抽出物としました。まず、細胞レベルでの検証のため、ヒト神経芽腫細胞SH-SY5Yに、神経毒性物質であるロテノンを添加してPDの細胞モデルを作製しました。そして、イチゴ葉抽出物をロテノンと同時に添加し、細胞生存率、細胞内活性酸素種 (ROS) 産生量、Nrf2の核内移行、ならびに抗酸化およびマイトファジー関連遺伝子・タンパク質の発現を測定しました。その結果、イチゴ葉抽出物は、ロテノンによって低下したSH-SY5Yの生存率を有意に回復させ、過剰な細胞内ROS産生を抑制しました。その作用メカニズムとして、イチゴ葉抽出物は抗酸化転写因子Nrf2の核内移行を促進し、抗酸化酵素やNrf2標的遺伝子であるp62の発現を著しく増加させました。イチゴ葉抽出物によるNrf2の活性化はAMPK※3阻害剤によって低下したことから、AMPKの活性化がイチゴ葉抽出物によるNrf2活性化に関与していることが示唆されました。さらに、PINK1、Parkin、LC3、p62などのマイトファジー関連マーカーに経時的な変化が認められ、それに伴いミトコンドリア膜電位の回復も観察されました。これらの知見は、イチゴ葉抽出物が抗酸化防御系とマイトファジーによる除去系を同時に活性化し、それによってロテノン誘導性神経細胞障害から保護することを明らかにしました。
次に、動物レベルでの効果を検討するため、C57BL/6Jマウスを用いてロテノン誘発PDマウスモデルを作製しました。ロテノン投与の1週間前からイチゴ葉抽出物を給餌し、経時的に運動機能を評価しました。その結果、動物レベルでのPDモデルにおいても、イチゴ葉抽出物の経口摂取は、ロテノンによって低下した運動機能を著しく改善させ、中脳黒質におけるチロシン水酸化酵素※4の発現をコントロールレベルにまで回復させました。本研究結果から、イチゴ葉抽出物は細胞レベルおよび動物レベルにおいて、PDの予防効果をもつことが示されました。
図 イチゴ葉抽出物による酸化還元シグナル伝達とミトコンドリア恒常性の協調的な調節を通じたドーパミン作動性神経細胞の保護効果
期待される効果・今後の展開
本研究により、イチゴ葉抽出物は、AMPK-Nrf2-ARE抗酸化経路とマイトファジーの協調的な活性化を介して神経保護作用を発揮することが実証されました。さらに、これまで十分に活用されてこなかった農業資源であるイチゴ葉が、神経保護およびPD予防に役立つ有望な機能性食品素材であることが明らかになり、SDGsにも貢献できることが期待されます。
資金情報
本研究は、株式会社エキスプレスおよびサカタインクス株式会社の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 マイトファジー:損傷したミトコンドリアを標的として選択的に分解するシステム。PINK1、Parkin、LC3、p62などのマイトファジー関連マーカーを介して進行する。
※2 Nrf2:酸化ストレス応答に重要な役割を果たす転写因子。通常、Nrf2は細胞質内で抑制因子Keap1と結合しているが、酸化ストレスや親電子性物質によりKeap1の機能が抑制されると、Nrf2は核内へと移行する。Nrf2はDNA上に存在する抗酸化応答配列AREに結合することによって、抗酸化酵素遺伝子の転写を誘導し、酸化ストレスに応答する。
※3 AMPK:代謝のマスターレギュレーターとも呼ばれ、エネルギー恒常性を維持する酵素。近年、代謝調節以外にも老化抑制や寿命延長などにも関与することが報告されている。
※4 チロシン水酸化酵素:ドーパミン神経細胞のバイオマーカー。チロシンからL-DOPAに変換する酵素であり、ドーパミンを生成する際の律速酵素として働く。
掲載誌情報
【発表雑誌】 Frontiers in Nutrition
【論文名】 Strawberry leaf extract protects dopaminergic neurons by restoring redox and mitochondrial homeostasis
【著者】 Chiharu Ueda, Tamaki Tokumatsu, Fuka Sogame, Nobuaki Chiba, Toshio Norikura, Yutaro Sasaki, Isao Matsui-Yuasa and Akiko Kojima-Yuasa
【掲載URL】 https://doi.org/10.3389/fnut.2026.1893670
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院生活科学研究科
教授 小島 明子(こじま あきこ)
TEL:06-6167-1308
E-mail:kojima-yuasa[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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