医学部TRENDY Vol.09

働く人の心を守る

神経精神医学 井上 幸紀 教授

私は『産業精神医学』を専門フィールドとし、ストレスが原因で引き起こされる労働者のさまざまな精神疾患を研究しています。
労働者に多くみられる精神疾患としては、うつ病、不安症、適応障害などが挙げられます。2000年頃からは、情報通信技術の急速な発展とともに働き方に変化が起こり、労働者の精神疾患が急増しました。コロナ禍では在宅勤務が多くの企業で導入され、コミュニケーションや生活リズムの変化による精神不調なども問題となりました。
「〇〇せねばならぬ」という考え方が、ハードワークや燃え尽きに繋がっているケースが多く、労働者のうつ病治療においては、考え方の癖を社会に適応的に変えていく「認知行動療法」でアプローチも行っています。
また、体の不調の中には精神疾患が原因のケースもあり、本学附属病院内の他診療科と連携しチームとしてケアにあたるリエゾン精神医療にも取り組んでいます。

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精神科医を目指したわけ

大学時代に、まだ研究が進んでいないのが脳ではないかと考え、神経精神医学の医局に入局しました。当時の上司は、精神疾患の中でも摂食障害を専門としていたため、私も当初は、摂食障害の生物学的研究や認知行動療法のアプローチを研究していました。その後、労働者の精神疾患が社会的に問題視されるようになり、同じ行動嗜癖(しへき)である摂食障害とアプローチが似ていた産業精神医学を専門とするようになりました。

医局の特長

現在の当医局は、強みである摂食障害の研究や治療に加え、児童精神、高齢者の精神障害(認知症)や産業精神医学などの分野にも注力しています。大阪市内唯一の大学病院として、さまざまな精神疾患の治療および研究を高い水準で行えるようにしていますが、地域や単科の病院・クリニック、臨床心理士やカウンセラー、企業とのネットワークも重要と考え連携を深めています。

医学部広報委員長より

産業精神医学は、労働環境やストレスが精神的な健康に与える影響を研究する分野です。コロナ禍でリモートワーク、不確実性、孤独感などが仕事と生活の調和に影響を与えメンタルヘルスの問題が増加したことから、産業精神医学の重要性が増しています。井上教授は、学時代にサッカー部で鍛えた胆力を持って、好きな言葉でも述べられている「虫の目、鳥の目、魚の目」をモットーに労働者のメンタルヘルスの維持に尽力されておられます。

神経精神医学 井上 幸紀 教授 

趣味
  • 散歩・旅行
    山も街も歩きます。最近は、梅田の変化がおもしろい。
  • 漫画
    若者との会話の潤滑油にも
  • スポーツ観戦
    特にサッカー!
好きな言葉
  • TO HEAL,TO TEARCH,TO SEARCH
    臨床と教育と研究のバランスが大事
  • 虫の目・鳥の目・魚の目
    それぞれの物の見方は、認知行動療法の考え方にも通じる
取材対応可能なテーマ

うつ病、摂食障害、不安症、適応障害、産業精神医学、認知行動療法

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日本精神神経学会精神科指導医、専門医
日本老年精神医学会指導医、専門医
日本プライマリ・ケア連合学会指導医、認定医
日本心身医学会専門医
日本医師会認定産業医

 2023年11月発行