医学部TRENDY Vol.11

万病の元、慢性炎症に立ち向かう最先端基礎医学研究

医化学 徳永 文稔 教授

あらゆる臓器で起こる「炎症」。中でもがんや生活習慣病、自己免疫疾患や神経変性疾患等を含む慢性炎症は万病の元と言われます。炎症には共通の仕組みが存在することが知られており、体内で炎症が起こるメカニズムの解明はさまざまな疾患の予防・治療に役立ちます。

私が所属する医化学研究室では、ユビキチンと呼ばれる低分子たんぱく質が特異的な連結をした「直鎖状ユビキチン鎖」を発見。炎症や免疫のマスタースイッチとしての役割を持つNF-κB(エヌエフカッパービー)内でのシグナル経路に、直鎖状ユビキチン鎖が関わっていることを突き止めました。ユビキチンは一般には聞き馴染みのない言葉ですが、すべての真核生物が持っているものであり、その名は「ユビキタス(Ubiquitous):至るところに存在する」に由来しています。

直鎖状ユビキチン鎖とNF-κBシグナルは、多くのがん、大腸炎等の炎症性疾患、関節リウマチ等の自己免疫疾患、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の神経変性疾患発症に深く関わっています。今後も慢性炎症とユビキチンとの関連を明らかにし、疾患を引き起こす細胞機構解明を目指します。さらには、根本的治療の確立や新たな治療薬開発へと進んでいけるよう研究を進めていきます。

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ALSの分子病態解明に挑む

ALSは、運動神経細胞がゆっくりと変性していく神経難病で、多くの場合は意識がはっきりしたまま徐々に筋力が低下し、体が動かせなくなっていきます。現在のところ、根本的な治療法はなく、治療薬は症状の進行を遅らせるに留まっています。ALSの約10%は遺伝子変異が関連する家族性ALSで、原因遺伝子の解析と発症メカニズムの解明が進められています。

私たちの研究では、家族性ALSの原因遺伝子の一つと直鎖状ユビキチン鎖の間で起きている機構を明らかにし、直鎖状ユビキチン鎖と活性化したNF-κBの蓄積が神経細胞死を引き起こしていることを突き止めました。さらに、直鎖状ユビキチン鎖を生成する酵素に対する阻害剤を独自に開発しており、ALS抑制に関する研究を進めています。

医学部広報委員長より

徳永教授は慢性炎症が起こるメカニズム解明に情熱を傾け、直鎖状ユビキチン鎖を発見されました。その知見をALSの抑制に関する研究に応用されています。合唱やオペラで表現力を磨き、将棋で戦略的思考を深めることで、科学と芸術のバランスを保たれています。さらに読書と古寺巡礼を通じて知識と精神の探究を重ねるという総合的なアプローチが、徳永教授の研究に深みを与えているように思えてなりません。

医化学 徳永 文稔 教授

趣味
  • 合唱・オペラ
    (『サントリー1万人の第九』に参加したこともあります!)
  • 将棋をみること
  • 読書
  • 古寺巡礼
取材対応可能なテーマ

ALS、炎症、ユビキチン、たんぱく質分解

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 2024年1月発行