医学部TRENDY Vol.13

難治性乳がんの克服を目指して -基礎研究と臨床実践の融合へ-

乳腺外科学 柏木 伸一郎 教授

乳がんは世界で最も罹患数の多いがんです。しかし、適切な治療により、救うことができる命の多いがんでもあります。私は「難治性乳がんの克服」を自身の課題とし、基礎研究と臨床実践の融合を目指しています。

がんの治療は、がん細胞のみをターゲットにするのではなく、腫瘍組織やその周囲にあるさまざまな組織・細胞からなる環境をコントロールすることが重要です。このがん細胞を取り囲む環境を腫瘍微小環境といい、化学療法や内分泌療法などの薬物療法が有効です。私の研究では、特に難治性乳がんの腫瘍微小環境に注目し、腫瘍免疫や代謝競合の観点から形質悪性化のメカニズムを解明しました。腫瘍微小環境に対する薬物療法の動的変化を捉えることは、難治性乳がんに対する有効な治療戦略の構築につながります。

当教室は、乳腺外科学分野において関西トップクラスの診療実績を有しており、乳がん手術件数は関西トップの大学病院です。多くの症例で悪性形質獲得に寄与する腫瘍微小環境の変化を検証してきました。今後は基礎的研究を臨床実践につなげるべく、新規治療開発に取り組んでいきます。

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革新的な新規治療の開発

オンコプラスティック手術は、腫瘍の根治性と残存する乳房の整容性を両立させる外科的治療として注目を集めています。当教室は、高水準なオンコプラスティック手術の実施や、確実かつ最低限の切除範囲を認識できるAR(拡張現実)、リアルタイムで直接手術ガイドを投影できるプロジェクションマッピングの技術を応用した新規の手術手法を開発することで、「整容性」「根治性」「低侵襲性」を兼ね備えた手術手技を提供しています。また、人工知能を応用した診療手技の開発も進めています。さらに今後は、“切らずに治す”治療方法である、早期乳がんに対する「ラジオ波焼灼療法」も他施設に先駆けて導入を予定しています。全国屈指の乳腺外科学教室を目指し、ハイレベルな診療体制の構築・乳腺外科医の育成・世界水準の乳がん研究の推進を進めていきます。

医学部広報委員長より

がんといえども術後の整容性は保たれるべきであるという概念こそがオンコプラスティック手術です。がん治療においては医療従事者のみならず患者自身でさえも、容貌に対する意識レベルが低く、かつ、その改善に対する動機づけが低いといわれています。しかしながら、乳がん治療においてはこのオンコプラスティック手術こそが最も重要な領域といえます。柏木教授はこの領域のトップランナーであり、さらに基礎研究に基づく新規治療開発にも注力されています。

乳腺外科学 柏木 伸一郎 教授

趣味

トレーニング(筋トレ)

好きな言葉

天は人の上に人を作らず 人の下に人を作らず

取材対応可能なテーマ

乳がん、腫瘍免疫、腫瘍微小環境、難治性乳がん、トリプルネガティブ乳がん、
AYA世代がん、遺伝性乳がん、乳がん手術、オンコプラスティック手術、
拡張現実補助下手術、免疫療法、化学療法、プレシジョン・メディシン

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日本外科学会 代議員・指導医・専門医
日本乳癌学会 評議員・乳腺指導医・専門医
日本癌治療学会 代議員・がん治療認定医

 2024年3月発行