最新の研究成果

金属から出る光の色を用いて食中毒を引き起こす細菌を迅速かつ同時に識別することに成功!

2022年8月8日

  • プレスリリース
  • 工学研究科

本研究のポイント

◇金属ナノ粒子とポリマー粒子1の複合体に細菌の抗体を導入した検査標識を開発。

◇散乱光2の色の違いから、腸管出血性大腸菌(O26、O157)、黄色ブドウ球菌を同時に識別することに成功。

◇細菌の培養を必要としないため、1時間以内での迅速な検査が可能。

概要

大阪公立大学大学院 工学研究科 物質化学生命系専攻の椎木 弘教授、板垣 賢広大学院生(博士前期課程2年)、田邉 壮氏(大阪府立大学大学院 工学研究科 博士前期課程修了)らの研究グループは、金、銀、銅のナノ粒子とポリマー粒子からなる複合体がそれぞれ白、赤、青の散乱光を示すことを利用し、腸管出血性大腸菌(O26、O157)や黄色ブドウ球菌を迅速かつ同時に識別することに成功しました。

食品や医療、環境などさまざまな分野で行われている細菌検査には、培養法や標識法などが用いられていますが、培養に時間がかかる、標識の寿命が短い、複数菌種の同時識別が不可能であるなどの問題点がありました。

本研究では、金、銀、銅のナノ粒子とポリマー粒子からなる複合体がそれぞれ白、赤、青の異なる散乱光を示すことを利用し、金ナノ粒子複合体にO26、銀ナノ粒子複合体にO157、銅ナノ粒子複合体に黄色ブドウ球菌の抗体を導入した検査標識を開発しました。これらにO26、O157、黄色ブドウ球菌を結合させ、顕微鏡で観測したところ、O26は白色、O157は赤色、黄色ブドウ球菌は青色の散乱光として識別することに成功しました(図1)。また、従来の方法では複数菌種の識別は技術的に不可能でしたが、本標識を用いることで細菌を迅速に同時識別することに成功しました。

本手法では、導入する抗体を変えることでさまざまな菌種を識別できるほか、検査に細菌の培養を必要とせず、1時間以内での迅速な検査が可能なため、今後新たな検査手法としての実用化が期待されます。

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   図1 散乱光の色により同時識別された細菌
     

本研究成果は、米国化学会が刊行する国際学術誌「Analytical Chemistry」に、2022725日にオンライン速報版として掲載され、表紙(デザイン・製作は同研究グループ4年生 中嶋 亮裕さん)を飾りました。

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表紙

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板垣さん(左)、中嶋さん(右)


<用語解説>
※1 ポリマー粒子
ポリマーを主成分とする球状構造物のことで、本開発では粒径100 nmのサイズの粒子が多数の金属ナノ粒子を内包した構造を有している。
※2 散乱光 
光を物質に入射させると、物質が入射した光を吸収すると同時に光を四方八方に放出する現象のこと。本開発では、細菌細胞に結合した複合体の散乱光に着目した検出を行っている。

研究者からのコメント

独自のナノバイオ材料の開発により、新しい検出原理、検査法の確立を目指しています。この開発を通じて、食の安心・安全の確保のみならず、機能性食品の安定供給や品質管理、医療、創薬、公衆衛生などの観点から安全で豊かな社会の形成に貢献したいと考えています。

椎木 弘教授

椎木 弘教授

掲載誌情報

発表雑誌 Analytical Chemistry(IF=6.986)
論文名

Simultaneous Optical Detection of Multiple Bacterial Species Using Nanometer-

Scaled Metal−Organic Hybrids
著 者 So Tanabe, Satohiro Itagaki, Kyohei Matsui, Shigeki Nishii, Yojiro Yamamoto, Yasuhiro Sadanaga, Hiroshi Shiigi
掲載URL https://doi.org/10.1021/acs.analchem.2c01188 


プレスリリース全文 (514.7KB)

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 工学研究科
教授 椎木 弘(しいぎ ひろし)
TEL:072-254-9875
E-mail:shii[at]omu.ac.jp [at]を@に変更してください

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内 春奈
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp [at]を@に変更してください

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