最新の研究成果

国際宇宙ステーションにおける宇宙放射線の生物学的影響が明らかに

2022年9月28日

  • プレスリリース
  • 医学研究科

本研究のポイント

◇凍結したマウスES細胞を国際宇宙ステーション(ISS)に打ち上げ、約4年間被ばくさせ染色体異常を解析。
◇宇宙放射線の物理学的線量計測に基づく予測と生物学的測定がほぼ一致することを明らかに。

概要

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図.宇宙実験「Stem Cells」の概要
凍結したマウスES細胞を国際宇宙ステーションに打ち上げ、長期間保存後、地上に回収し染色体異常を調べた。

宇宙空間には多種類の放射線粒子が飛び交っており、低線量で絶え間なく被ばくします。これまで、物理学的線量により宇宙放射線の人体への影響が推定されてきましたが、実際に宇宙と全く同じ環境を地上で再現できないことから人体など生物への影響を定量的に測定することはできませんでした。

大阪公立大学大学院医学研究科 基礎医科学専攻の吉田 佳世 准教授、大阪市立大学 森田 隆 名誉教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の永松 愛子宇宙環境計測領域 研究領域主幹らの研究グループは、宇宙放射線による生物への影響を定量的に測定し、物理学的線量計による予測値と生物学的測定値がほぼ一致することを明らかにしました。

今回、本研究グループは、放射線に対する感受性を高めたマウス胚性幹細胞(ES細胞)を凍結し、2013年3月にSpace X-2のドラゴン宇宙船によりISSに打ち上げて1,584日間 MELFIと呼ばれる-95℃の冷凍庫に保管させて宇宙放射線を被ばくさせました。その後、約1年ごとに4回にわたって細胞を地上に回収し染色体異常等を解析するとともに地上での加速器による陽子線の影響と比較しました。
その結果、ISSの冷凍庫内で測定した物理学的線量から予測された宇宙放射線の影響の強さ(線質係数)は、陽子線の1.48倍になりました。一方、ISS内で宇宙放射線が細胞に直接与えた影響(染色体異常)は陽子線の1.54倍であることから、両方の値がほぼ一致することを世界で初めて示すことができました。このことから、宇宙放射線は、未知の複合的な効果で生物学的影響が非常に大きくなる、あるいは小さくなる可能性は低く、物理学的な測定と推定によるリスク評価が信用できることが示されました。本研究成果は、今後、月や火星など、より強い宇宙放射線の影響が予想される深宇宙空間における有人長期滞在の安全につながることが期待されます。

本研究成果は2022年8月18日に「セルプレス」の国際学術誌「Heliyon」オンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

打ち上げまでに7年間、打ち上げて4年間、さらに解析まで5年間と非常に長期にわたる研究で、放射線高感受性のマウスES細胞を作製し、宇宙に上げるため約1,500本の均質な細胞を凍結したチューブを準備するという大変な実験でした。また実験結果の解釈についても難しかったですが、最終的に本来の目的の宇宙放射線の定量的な結果が得られ喜んでいます。有人宇宙探査において、必要で重要な課題であったと考えています。国内外の人々にご支援頂いたことに非常に感謝しております。

掲載誌情報

雑誌名:

Heliyon

論文名:

Comparison of biological measurement and physical estimates of space radiation in the International Space Station

著者:

Kayo Yoshida, Megumi Hada, Akane Kizu, Kohei Kitada, Kiyomi Eguchi-Kasai, Toshiaki Kokubo, Takeshi Teramura, Sachiko Yano, Hiromi Hashizume Suzuki, Hitomi Watanabe, Gen Kondoh, Aiko Nagamatsu, Premkumar Saganti, Francis A. Cucinotta, Takashi Morita

掲載URL:

https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2022.e10266

プレスリリース全文 (550.3KB)

JAXA Webサイト「宇宙放射線の影響について物理学と生物学の両面から考察」

研究内容に関する問合せ先

大阪公立大学大学院医学研究科実験動物学
担当:森田 隆
TEL:06-6645-2672
E-mail:tmorita[at]omu.ac.jp [at]を@に変更してください。

取材に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:上嶋 健太
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp [at]を@に変更してください。

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