最新の研究成果

がん細胞が肝臓へ転移するメカニズムを解明―がん細胞の侵入経路を特定―

2022年9月29日

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  • 医学研究科

本研究のポイント

◇肝類洞内皮細胞(LSEC)※1内に形成されるギャップ(iGap)に注目。 
◇肝臓へのがん転移では、がん細胞が肝類洞内皮細胞(LSEC)と相互に作用することでLSEC内の小孔を破壊し、がん細胞が細胞内へ直接侵入するメカニズムが明らかに。

概要

大阪公立大学大学院 医学研究科 肝胆膵病態内科学のTruong Huu Hoang大学院生、河田 則文教授、獣医学研究科 獣医学専攻の松原 三佐子准教授らの研究グループは、がん細胞が肝臓へ転移する経路を特定し、それに関わる分子機構を明らかにしました。
肝臓は様々な臓器由来のがん細胞が転移しやすい臓器です。転移初期段階ではがん細胞が微小環境※2と相互に作用して転移を助長している可能性が報告されていますが、そのメカニズムの全容は明らかではありませんでした。肝臓の肝類洞内皮細胞(LSEC)には小孔が無数に開いており肝臓の機能維持に寄与していますが、病理学的条件下ではLSECの小孔が破壊されギャップ(iGap)形成が生じることから、本研究グループはLSECのiGapが肝臓への転移に関わっているのではないかと考え、本研究を開始しました。
本研究において、肝転移マウスモデルを作製しオミックス解析※3を行ったところ、がん細胞がLSECと相互作用するとLSECでMMP9※4、ICAM1※5、炎症性サイトカインの発現が誘導され、LSECのiGap形成が促進されることが明らかになりました。さらに、電子顕微鏡と三次元形態観察を用いてがん細胞がLSECへ直接突起を伸ばしiGapから肝実質内へ侵入すること、LSECのiGap形成数とがん細胞を脾臓経由で注射後に肝臓に形成された腫瘍数とが正の相関を示すことを明らかにしました。
本研究成果は、肝臓へのがん転移の予防や治療薬の開発に繋がると期待されます。
本研究成果は、2022年9月29日(木)3時(日本時間)に『Science Advances』(IF=14.136)にオンライン掲載されました。

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概要図:肝類洞内皮細胞のギャップ形成を介するがん細胞の肝転移機構
肝転移において、がん細胞は肝類洞内皮細胞(LSEC)と相互作用するとIL-23を分泌する。分泌されたIL-23は LSECのTNF-αシグナルを活性化し、NF-κBのリン酸化を介したMMP9、ICAM1、炎症性サイトカインの発現とF-アクチンの脱重合を誘導する。その結果、LSECにiGapが形成される。

研究者からのコメント

本研究では、「がん細胞がLSEC-iGap形成を誘導し、ギャップを介して肝臓内へ侵入する」という転移に関する新しい現象を明らかにしました。この研究成果により、LSEC-iGap形成を標的とした新規肝転移治療法の開発を目指して研究に邁進しています。

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松原 三佐子准教授

掲載誌情報

雑誌名:

Sciences Advances(IF=14.136)

論文名:

Cancer cells produce liver metastasis via gap formation in sinusoidal endothelial cells through pro-inflammatory paracrine mechanisms

著者:

Truong Huu Hoang, Misako Sato-Matsubara, Hideto Yuasa, Tsutomu Matsubara, Le Thi Thanh Thuy, Hiroko Ikenaga, Dong Minh Phuong, Ngo Vinh Hanh, Vu Ngoc Hieu, Dinh Viet Hoang, Hoang Hai, Yoshinori Okina, Masaru Enomoto, Akihiro Tamori, Atsuko Daikoku, Hayato Urushima, Kazuo Ikeda, Ninh Quoc Dat, Yutaka Yasui, Hiroji Shinkawa, Shoji Kubo, Ryota Yamagishi, Naoko Ohtani, Katsutoshi Yoshizato, Jordi Gracia-Sancho, Norifumi Kawada

掲載URL:

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abo5525

補足説明

1.肝類洞内皮細胞 (Liver sinusoidal endothelial cell, LSEC) : 肝臓の毛細血管内皮細胞だが、細胞質に多数の小孔(フェネストラ)を有し、基底膜を欠くなど他の血管内皮細胞と異なる特徴的な形態を有す。

2.微小環境:細胞ががん化し、腫瘍化や浸潤、転移する際の周辺細胞の生体反応(マクロファージなどの免疫細胞の浸潤、線維芽細胞の増殖および血管新生の誘導など)がもたらす特殊な環境のこと。

3.オミックス解析:生命を構成する様々な生体反応に関わる分子(RNAやタンパク質、代謝物など)を網羅的、包括的に解析する手法。

4.MMP9 (Matrix Metaroprotenase 9): タンパク質分解酵素の一種。好中球ゼラチナーゼ、IV型コラゲナーゼおよびゼラチナーゼBとも呼ばれる。変性コラゲナーゼ(ゼラチン)とIV型、V型、XI型コラゲナーゼに対して基質特異性を示す。ヒトMMP992 kDa (前駆型)82 kDa(活性型)がある。

5.ICAM1 (Intercellular adhesion molecule 1 , 細胞間接着分子1):免疫グロブリンスーパファミリーのメンバーであり、CD54 (Cluster of differentiation 54)としても知られる。細胞表面の糖たんぱく質であり、一般的に血管内皮細胞と免疫細胞に発現している。

プレスリリース全文 (777.5KB)

研究内容に関する問合せ先

大阪公立大学大学院獣医学研究科
担当:松原 三佐子
TEL:072-463-5297
E-mail:mmatsubara[at]omu.ac.jp [at]を@に変更してください。

大阪公立大学大学院医学研究科
担当:河田 則文
TEL:06-6645-3897
E-mail : kawadanori[at]omu.ac.jp [at]を@に変更してください。

取材に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:上嶋 健太
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp [at]を@に変更してください。

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