最新の研究成果

飼育動物における性腺機能指標ホルモンの測定法開発・血中動態についての総説論文を発表

2022年10月7日

  • プレスリリース
  • 獣医学研究科

<ポイント>

◇多くの動物種でインスリン様ペプチド3(INSL3)の値を測定することができる免疫測定法を世界で初めて開発。
◇INSL3は1回の採血で安定した計測値が得られることを雄ウシ・雄ヤギで立証。
◇本測定法を用いることで、種々の雄動物の生殖機能判定の簡便化が期待。

<概要>

 大阪公立大学大学院 獣医学研究科の川手 憲俊教授が執筆した飼育動物のインスリン様ペプチド3(INSL3)※1の構造、生殖器における発現・役割および測定法開発と血中動態に関する総説論文が、2022年9月22日(木)に国際学術誌「Reproductive Medicine and Biology」にオンライン掲載されました。
 INSL3は性腺(雄では精巣、雌では卵巣)から分泌される血中を循環するホルモンで、性腺・生殖機能の新しい指標として注目されています。現在まで実験動物のげっ歯類(マウス・ラット)やヒトを対象とした研究成果の蓄積は進んでおり、その総説も発表されていますが、飼育動物における成果は比較的少なく、それに特化した総説は未発表でした。
本研究グループは、2010年以前から産業・伴侶動物のINSL3に関する研究を進めており、多くの動物種で定量が可能な免疫測定法を世界で初めて開発し、雄のウシ、ヤギの血中INSL3濃度は、性成熟期にみられる精巣の増大と一致して上昇することなどを明らかにしました。また、雄のウシ、ヤギのINSL3分泌は下垂体由来の黄体形成ホルモン(LH)の放出と連動して上昇することや、その上昇幅は代表的な精巣ホルモンであるテストステロンの増加幅に比べて小さいこと(図1)が分かりました。このことは、正確な値を調べるには複数回の採血が必要なテストステロンと比べて、INSL3は1回の採血で安定した計測値が得られることを示唆しています。さらに、精液性状不良の黒毛和種牛や両側性潜在精巣犬※2などのように生殖機能に異常がある場合、血中INSL3濃度は正常例に比べて低い値を示すことを見出しました。

press221007_pic1

   図1 GnRH、LH、INSL3、
   テストステロンのパルス状放出

研究者からのコメント

INSL3は1993年に発見された精巣由来のペプチドホルモンで、卵巣からも分泌されます。我々の研究グループではウシ、ヤギ、ブタ、ウマ、イヌ等のINSL3を測定できる方法を開発し、正常または異常な生殖機能を持つ動物のINSL3を測定してきました。INSL3が種々の動物の生殖機能を示す新しいバイオマーカーになることを期待して、研究を進めています。

press221007_kawate

 

<期待される効果・今後の展開>

本測定法を用いることで、種々の雄動物の生殖機能判定の簡便化が期待されます。特に遺伝的・産業的価値の高い種雄動物の選抜には、長い時間と高い経費を要しますが、本測定法の活用により、早期に生殖能の高い雄を選抜することが可能となり、経費・労力の軽減につながると考えています。
一方、雌動物の血中INSL3濃度は雄動物に比べて非常に低いため測定が困難であり、研究の進展は乏しいのが現状です。本研究グループは、卵胞期の雌ウシの最大卵胞液中INSL3濃度は黄体期のものよりも高いことを見出し、排卵前の卵胞内でINSL3が何らかの役割を担っている可能性を示唆しました(図2)。さらに卵胞嚢腫※3(排卵せずに卵胞が異常に大きくなる不妊症)の卵胞液中INSL3濃度は卵胞期の最大卵胞と同定度であることから、嚢腫化する過程でINSL3分泌は停止せずに、継続していると推測されます。今後は、測定法の改良も含めて、さらなる研究が必要であると考えています。

press221107_pic3

図3 ウシの発情周期中および卵胞嚢腫の卵巣内INSL3 量

<資金情報等>

本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金)の基盤研究(C)21K05939、16K08058、25450448、22580365、19580373の助成を受けて行われました。

■掲載誌情報
【発表雑誌】Reproductive Medicine and Biology(IF=4.009)
【論文名】Insulin-like peptide 3 in domestic animals with normal and abnormal reproductive functions, in comparison to rodents and humans
【著者】Noritoshi Kawate
【論文URL】https://doi.org/10.1002/rmb2.12485

<用語解説>

※1 インスリン様ペプチド3…精巣の間質細胞または卵巣の卵胞膜細胞・黄体細胞から分泌されるペプチドホルモンで、雄動物では胎子期に腹腔内にある精巣を陰嚢に下降させる作用を持つことや、性成熟以降に精巣の精子形成を促進する役割を持つことが示唆されている。

※2 両側性潜在精巣犬…精巣が陰嚢に下降すべき時期になっても、下降せずに腹腔内または皮下に停留する遺伝性疾患で、イヌ、ウマ、ブタに多発する。左右両方の精巣が停留するものを両側性潜在精巣といい、精子形成が抑制されるため不妊となる。イヌの停留精巣は後に腫瘍化することが多いため、手術による精巣摘出が推奨される。

※3 卵胞嚢腫…ウシに多発する卵巣疾患で、卵胞が排卵せずに異常に大きくなり、嚢腫化する状態が続く。完全な不妊症となるため、畜産農家の経済的損失が大きい。

プレスリリース全文(913.5KB)

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 獣医学研究科
教授 川手 憲俊(かわて のりとし)
TEL:072-463-5347
E-mail:kawate[at]omu.ac.jp   [at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp  [at]を@に変更してください。