最新の研究成果

従来の10分の1の抗原量でがん免疫を 強力に活性化するDDS材料の開発に成功

2022年11月1日

  • プレスリリース
  • 工学研究科

本研究のポイント

◇カチオン性脂質1とpH応答性多糖の組み合わせにより免疫細胞からのサイトカイン2産生量を約100倍に。
◇がん組織のM2型マクロファージを減少させ、M1型マクロファージを増加させることが判明。
◇従来の10分の1の抗原量でがん免疫を強力に活性化させることに成功。 

概要

大阪公立大学大学院 工学研究科の弓場 英司准教授らの研究グループは、がん抗原を封入した微小カプセルであるリポソーム3にカチオン性脂質を組み込み、表面にpH応答性多糖を修飾することで、がん細胞を直接攻撃する細胞性免疫4を強力に活性化できるドラッグデリバリーシステム(DDS)材料の開発に成功しました。

近年、免疫チェックポイント阻害療法などのがん免疫療法が、第4のがん治療法として注目されています。しかし、免疫チェックポイント阻害療法は2~3割のがん患者にしか効果がなく、がん細胞を直接攻撃する細胞性免疫を誘導するためのDDS開発が必要とされています。本研究グループはこれまで、pHによって状態が変化する多糖誘導体を表面に修飾したリポソームを用いて、がん抗原を樹状細胞へ運ぶデリバリーシステムの開発を行ってきました。本研究では、細胞性免疫の誘導効率をより高めるため、免疫細胞を活性化する作用があるカチオン性脂質に着目しました。

press_1031_top

図1 カチオン性脂質を導入したpH応答性多糖修飾リポソームによるがん免疫誘導システムの設計。

本研究ではまず、正に帯電しているカチオン性脂質をリポソームに組み込むことで、負に帯電しているpH応答性多糖のリポソームへの修飾量を高めることに成功しました。また、抗原提示細胞5の一種である樹状細胞は負に帯電した粒子を取り込みやすいため、樹状細胞へのリポソームの取り込み効率が約5倍になり、樹状細胞からのサイトカイン産生量が約100倍に増加しました。次に、このリポソームをがん組織に投与したところ、がん免疫を活性化するM1型マクロファージが増え、がんの成長を促進するM2型マクロファージを減少させることが明らかになりました(図1)。さらに、がん細胞を移植したマウスにこのリポソームを用いたワクチンを投与したところ、抗原量が従来に比べて10分の1であったにも関わらず、強力ながん免疫が誘導され、がんの成長が抑制されたことが分かりました。
本成果は、カチオン性脂質とpH応答性高分子を組み合わせることが、免疫細胞の強力な活性化を促すリポソーム型がんワクチンの作製に有効であることを示しています。

本研究成果は、Elsevierが刊行する国際学術誌「Journal of Controlled Release」のオンライン速報版に20221031日に掲載されました。

本研究では、機能性多糖とカチオン性脂質を組み合わせることで、従来の10分の1の抗原量でも強力ながん免疫を誘導できるワクチン担体の開発に成功しました。本成果を基に、実用的な抗原と組み合わせることで、がん免疫療法や感染症用ワクチンのための抗原運搬体の開発を進めていきます。

press_1031_yuba

弓場 英司准教授

 

掲載誌情報

【発表雑誌】Journal of Controlled Release(IF=11.467)
【論文名】Cationic lipid potentiated the adjuvanticity of polysaccharide derivative-modified liposome vaccines
【著者】Eiji Yuba, Yuna Kado, Nozomi Kasho, Atsushi Harada
【論文URL】https://doi.org/10.1016/j.jconrel.2022.10.016

プレスリリース全文 (1.4MB)

資金情報

本研究は、科学研究費補助金(15H03024、17K20110、21H03822)の支援を受けて行われました。

用語解説

※1 カチオン性脂質…正の電荷を持つ脂質分子の総称。脂質構造を持っているため、リポソームの構成成分として脂質二重膜中に容易に組み込むことができます。

※2 サイトカイン…細胞から放出され、免疫、炎症、生体防御など様々な生体応答を媒介するタンパク質の総称。ここでは、樹状細胞が活性化されているかどうかの指標として、サイトカイン量の計測を行っています。

※3 リポソーム…リン脂質からなる数十~数百ナノメートルのサイズをもつ微小なカプセルで、その内部に様々な分子を封入できることから、薬や生理活性物質の運搬体として利用されています。

※4 細胞性免疫…ウイルス感染細胞やがん細胞などの異常細胞を、抗体などを介さずに免疫細胞そのものが直接攻撃するタイプの免疫反応。細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)やヘルパーT細胞がその中心を担っています。

※5 抗原提示細胞…細菌、ウイルス、がん細胞などの異物を取り込んだあと、細胞内で処理してその断片を細胞表面上に提示し、T細胞を活性化させる役割を担う免疫細胞。マクロファージ、樹状細胞、B細胞が主な抗原提示細胞として知られています。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 工学研究科
准教授 弓場 英司(ゆば えいじ)
TEL:072-247-6016
E-mail:yuba[at]omu.ac.jp [at]を@に変更してください

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp [at]を@に変更してください

該当するSDGs

  • SDGs03
  • SDGs09