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化学の“謎”の解明に向けてナノ流体デバイスが拓く溶液の単一分子反応ダイナミクス に関する総説論文を発表

2023年1月10日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

概要

大阪公立大学大学院 工学研究科の許 岩准教授、Nattapong Chantipmanee研究員らは、ナノ流体デバイスが拓く溶液の単一分子反応ダイナミクスに関する総説論文を発表し、国際学術誌「TrAC Trends in Analytical Chemistry」の2023年1月号に掲載されました。

「化学反応が起こる瞬間に個々の分子に何が起こっているのか」は、現代化学の中心的謎の一つであり、単一分子反応ダイナミクスはこの謎を解き明かしていく分野です。これまで、単一分子反応ダイナミクスに対する実験的知見の大部分は、気体中の反応の研究から得たものに限られており、化学反応の圧倒的多数を占める溶液中での単一分子ダイナミクスの解明は、溶液中の分子を直接操作する実験手段がなく最大の課題になっています。

一方で、ナノ流体デバイスと呼ばれる近年発展してきた最先端のデバイスは、溶液中での単一分子ダイナミクスの解明において強力な武器になる可能性を秘めています。本研究グループでは、独自のナノ流体デバイス技術を用いて、分子を11個閉じ込める実験管のような空間を作製してきました。これにより、分子を自在に操作する原理と技術を創出して、溶液中の化学反応の極めて高速な瞬間を1分子レベルという超高空間分解能で調べることを世界に先駆けて開拓しています。今回発表の総説論文では、開拓者としての視点から、この萌芽的な分野の鳥瞰、研究開発の最前線、課題、および将来展望について述べています。

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ナノ流体デバイス(下)のナノ流路に閉じ込められた
2つの単一分子同士が衝突して反応する瞬間(上)

溶液の単一分子反応ダイナミクスの解明は、溶液中の物質変化の理解を深め、分子スケール視点でさまざまな問題に統一的な考え方を提供できるため、自然科学のあらゆる分野に革新をもたらす可能性があります。また、多くの分野をつなぐ共通の学問的基礎として、化学合成や材料科学、創薬、医療、環境、エネルギー、宇宙技術、情報技術など幅広い領域への応用が期待されます。

工学研究科  岩准教授

化学反応は時間的にも空間的にも極めて局在化して起こるため、実験を通じて分子レベルで化学反応の詳細を考察することは容易ではありません。交差分子線を用いた実験方法(1986年ノーベル化学賞)や、超短パルスレーザーの発達による分光観察法(1999年ノーベル化学賞)は、反応ダイナミクスの実験研究において強力な実験手段となりましたが、原理や実験条件、実験系スケール的等々の制約を受けるため、その実験可能な対象は主に真空中の気 相反応や界面反応の単純な系に限られています。合成または生産のための化学反応や生命現象を司るさまざまな生化学反応の大部分は溶液中で起こるため、化学反応の本質を徹底的に理解するには溶液反応ダイナミクスを解明しなければなりませんが、実験手段が欠如しているため大きな課題になっています。
私たちが研究・開発を行っているナノ流体デバイスは、溶液反応ダイナミクスを解明するための実験手段になる可能性を秘めています。今回の総説論文はこの可能性を示す最近の研究動向および未来の方向性について解説、議論しました。この論文を通じて、この萌芽的な研究分野に参画していただく研究者が少しでも増えたら幸いです。

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掲載誌情報

【発表雑誌】TrAC Trends in Analytical Chemistry(IF=14.908)
【論 文 名】Nanofluidics for chemical and biological dynamics in solution at the single molecular level
【著  者】Nattapong Chantipmanee, Yan Xu*
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.trac.2022.116877
プレスリリース全文 (587.2KB)

関連情報

大阪公立大学大学院 工学研究科 物質・化学系専攻 化学工学分野ナノ化学システム工学グループ(許研究室)Webサイト
http://www.chemeng.osakafu-u.ac.jp/group8/index.html

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 工学研究科
准教授 許 岩(しゅう いぇん)
TEL:072-254-7813
E-mail:xuy[at]omu.ac.jp ※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp ※[at]を@に変更してください。

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