最新の研究成果

世界初! AIが描く 天の川銀河のガス雲分布 約14万個の「星の誕生候補地」を推定 

2023年1月27日

  • 理学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇国立天文台野辺山45m宇宙電波望遠鏡によって取得された一酸化炭素分子データを用いて、約14万個の星間分子ガス雲(星の原料)を同定。一つの星間分子ガス雲につきおおよそ100〜10000個の恒星が誕生する。
◇人工知能を活用し星間分子ガス雲の近遠を推定、さらに星間分子ガス雲のサイズや質量を計算。
◇世界で初めて天の川銀河の星間分子ガス分布を描き出すことに成功。

概要

大阪公立大学 大学院理学研究科 藤田 真司客員研究員(東京大学大学院理学系研究科 特任研究員)を中心とする自然科学研究機構 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所 西村 淳 特任准教授、自然科学研究機構 核融合科学研究所ヘリカル研究部 伊藤 篤史准教授、福井工業大学工学部 電気電子工学科 宮本 祐介准教授、理化学研究所 情報統合本部 川西康友チームリーダーなどからなる研究グループは、国立天文台野辺山45m宇宙電波望遠鏡によって詳細に観測された天の川銀河 (銀河系)の一酸化炭素分子の大規模データから、星の原料となる星間分子ガス雲を約14万個同定しました。そして、人工知能を活用し、それら約14万個の星間分子ガス雲の距離をそれぞれ推定し、天の川銀河における星間分子ガス雲のサイズや質量を求め、世界で最も詳細に銀河円盤の星間分子ガス雲の分布を描き出すことに成功しました。本研究成果は、大きな星・星団を作るための重要なイベントとして考えられている“星間分子ガス雲同士の衝突”の頻度計算など、さまざまな天文学研究に波及すると期待されます。

本研究成果は2023年1月27日、日本天文学会欧文研究報告「Publications of the Astronomical Society of Japan」にオンライン掲載されました。

本研究で使用したサーベイデータは、私が学生の時に野辺山宇宙電波望遠鏡を用いて観測したものです。そのデータを余すことなく使用してこのような研究ができたことを嬉しく思います。また、本研究を通じ、天文学の枠にとらわれずさまざまな分野の研究者と手を組み、お互いの知識・技術を共有したことによって、今後の研究の幅を広げることができました。

prof_iida

 藤田 真司客員研究員

研究の背景

天の川銀河(銀河系)には、太陽のように自ら光り輝く恒星が数千億個存在し、それらが円盤状に分布しています。私たちの住む太陽系は、その円盤の中に位置しています。外から見ると2次元的な円盤に見える星々も、中から見ると奥行きが分からず1次元的な帯に見えるのです。これを私たちは天の川と呼んでいます。
恒星は宇宙空間に存在するガス(星間ガス)や塵が集まることによって誕生します。星間ガスはとても希薄でかつ低温(マイナス260℃ 程度)であるため、人間の目では見ることができませんが、電波望遠鏡ならば星間ガスに含まれるさまざまな分子が放つ微弱な電波を捉えることができます。
しかしながら、天の川銀河内の物質は奥行き方向に重なっているため、距離を知ることが容易ではなく、距離が分からなければ、実際の大きさや質量などの物理量を求めることができません。そのため、天の川銀河は宇宙で最も近くにあり最も星間分子ガス雲を詳細に観測できる唯一無二の銀河であるにもかかわらず、その大規模観測データから統一的に星間分子ガス雲の物理量を調べる研究はこれまでとても困難でした。外から見ることはできないけれど、つぶれてしまった奥行き方向の距離はAIで復元できるのではと着想しました。


研究の内容

本研究グループは、国立天文台野辺山45m宇宙電波望遠鏡によって取得された詳細で大規模な一酸化炭素分子のサーベイデータを用いて、星間分子ガス雲を約14万個同定しました(図1左・図2)。

Iida sensei press 3-1

図1: (左)Spitzer宇宙望遠鏡による赤外線観測から推定された天の川銀河の想像図 ⒸNASA/JPL-Caltech/ESO/R. Hurt
(右)運動学的距離の導出の模式図 Ⓒ名古屋市科学館


Iida sensei press 3-1

図2: 上段は野辺山45m宇宙電波望遠鏡によって得られた天の川銀河の分子ガス雲の分布
(赤が12CO, 緑が13CO, 青がC18O で色付けした3色合成図)。
下段はSpitzer宇宙望遠鏡による赤外線観測。


これら星間分子ガス雲の大きさや質量を求めるためにはそれぞれの距離の情報が必要です。実際には、銀河系内の星間分子ガス雲のおおよその距離は、①銀河系円盤の回転運動※1 ②太陽系から天の川銀河中心部までの距離 ③星間分子ガス雲の視線方向の速度(≈ドップラーシフト量※2)の3つから幾何学的に推定することができ、これを運動学的距離と呼びます。

ところが、ここで一つ大きな問題があります。それは、天の川銀河内の太陽系軌道よりも内側の領域では、同じ視線速度に対して近い側と遠い側の2 通りの解(距離)が考えられる点※3です(図1右)。これまで先行研究では、銀河面(銀緯=0度)からの浮き具合や前景天体の有無、または直接的に距離を測定できる明るい星に付随しているか否か、などの方法によって近遠の判定を個別に行ってきました。しかしながら、本研究の対象は14万個の星間分子ガス雲で、距離が知られているものはその中でもごく一握りです。すべてを一個一個判定していては途方もない時間がかかります。

そこで本研究グループは、人工知能の中でも画像認識に強いディープラーニングに着目しました。距離が分かっている数百個の星間分子ガス雲の電波データを教師※4としAI に学習させ、14万個の星間分子ガス雲の近遠を推定しました。そうして星間分子ガス雲のカタログを作ることによって、天の川銀河を外から見たときの、最も詳細な星間分子ガス分布を描き出すことに世界で初めて成功し(図3)、天の川銀河内の星間分子ガス雲の典型的なサイズや質量を求めることができました。

press221005_pic3

図3: 本研究で得られた天の川銀河の星間分子ガスの分布。

期待される効果・今後の展開

本研究の成果物である詳細な星間分子ガス雲のカタログは、天の川銀河の鳥瞰図を与えるだけでなく、星形成のさまざまな研究に役立ちます。例えば、大きな星・星団を作るための重要な機構として近年特に注目されている星間分子ガス雲同士の衝突の発生頻度を観測的に見積もることができます。

さらに今後は、野辺山45m宇宙電波望遠鏡での観測範囲を広げるとともに、日本からは観測できない南の空のデータも南半球の電波望遠鏡を用いて観測し、同様の手法を用いて解析することによって、天の川銀河全体の鳥瞰図を完成させたいと考えています。

資金情報

本研究は、大学共同利用機関法人自然科学研究機構若手研究者による分野間連携研究プロジェクト: 大規模分子雲データと機械学習による天の川銀河の3次元空間構造の復元と解明/機械学習・深層学習に基づく天の川銀河の3次元空間構造の解明(代表: 宮本祐介 [元国立天文台/現福井工業大学])の助成を受けました。

用語解説

※1 天の川銀河は、より内側の方が早く一周する差動回転(どこでも動く速度は同じ)をしていることが知られている。

※2 光は波の性質も持っているため、音と同様に、近づいている天体は速度に応じて波長が短くなり(青方偏移)、遠ざかっている天体は波長が長くなる(赤方偏移)。

※3 “近遠問題(Near–Far problem)” などと呼ばれており、この問題は古くから知られている。例えば、星間分子ガス雲までの距離を10倍取り違えてしまうと、大きさとしては 10倍、質量としては10の 2 乗の 100 倍取り違えてしまうことになる。

※4 あらかじめ答えの分かっているデータを教師データと呼ぶ。本研究の場合、あらかじめ距離の分かっている星間分子ガス雲を教師データとし、それを何度も繰り返しAI に読み込ませることによって、AI の中のパラメータを更新した。

参考

本研究では、野辺山 45 m 電波望遠鏡によって2014-2017年、2018年-2019年にかけて観測された天の川銀河の広域観測データを用いています。
FUGINプロジェクト:見えない天の川の大規模探査〜天の川の最も詳しい電波地図づくり〜
天の川銀河の腕間にて巨大フィラメント状ガス雲を発見、そして星団形成の起源を解明! 

掲載誌情報

【発表雑誌】 Publications of the Astronomical Society of Japan
【論 文 名 】 Distance determination of molecular clouds in the 1st quadrant of the Galactic plane using deep learning : I. Method and Results
【著  者】 Fujita Shinji, Ito Atsushi M., Miyamoto Yusuke, Kawanishi Yasutomo, Torii Kazufumi, Shimajiri Yoshito, Nishimura Atsushi, Tokuda Kazuki, Ohnishi Toshikazu, Kaneko Hiroyuki, Inoue Tsuyoshi, Takekawa Shunya, Kohno Mikito, Ueda Shota, Nishimoto Shimpei, Yoneda Ryuki, Nishikawa Kaoru, Yoshida Daisuke
【掲載URL】 https://doi.org/10.1093/pasj/psac104


プレスリリース全文 (716.7KB) 

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院理学研究科 客員研究員
藤田 真司(ふじた しんじ)
E-mail:fujita.shinji[at]ioa.s.u-tokyo.ac.jp [at]を@に変更してください

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp [at]を@に変更してください

 

該当するSDGs

  • SDGs04
  • SDGs17