最新の研究成果

遺伝子導入でがんが自滅!がん細胞が自らを攻撃する免疫状態を作ることに成功

2023年11月30日

  • 獣医学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇液性因子(サイトカイン)の遺伝子をがん細胞内部に直接運搬。
◇投与された遺伝子情報をもとにがん細胞が自らサイトカインを生成し、免疫細胞を活性化。
◇副作用の少ない、人獣共通がん治療方法開発への貢献に期待。

概要

自己の免疫力を用いてがんを治療する免疫療法の効果を高めるには、腫瘍内で免疫細胞が活性化した状態を作ることが必要です。このような状態を作るために、がんに液性因子(サイトカイン)を投与し、免疫細胞の活性化を図る方法が研究されていますが、すぐに全身へ拡散してしまうため繰り返し投与が必要となり、効果の低減や副作用のリスクが課題です。

大阪公立大学大学院 獣医学研究科の杉浦 喜久弥教授、工学研究科の弓場 英司准教授、児島 千恵准教授らと住友化学株式会社の研究グループは、サイトカイン遺伝子を入れた運搬体をがん細胞に直接投与することで、がん細胞自らに免疫細胞を活性化するサイトカインを作らせることに成功し、高い治療効果を実証しました(図1)。今後は、本方法の安全性の検証を進めるとともに、人と同様にがんでの死亡が多い犬への応用を目指します。

本研究成果は、2023年10月10日に国際学術誌「The FASEB Journal」にオンライン掲載されました。

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図1 サイトカイン遺伝子による治療効果
がん細胞を青白色蛍光の点で、免疫の司令塔である樹状細胞を緑色蛍光の点で示す。サイトカイン遺伝子を投与したマウスの肺では、がんの成長が著しく抑えられ、がんの中で樹状細胞が育っている(矢印)。

犬は約5割ががんで死亡します。このため、安全で効果的ながん治療法を開発することは、獣医学において特に重要な課題です。私たちは、「がん細胞自身にがんを治させる」という発想のもと、効果的ながん治療法を開発しました。本研究の成果は、獣医療だけでなく人の医療にも貢献できると思います。

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杉浦 喜久弥教授

資金情報

本研究は、科学研究補助金(16H05044および21H02369)、国立研究開発法人医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究戦略的推進プログラム/異分野融合型研究開発推進支援事業(橋渡し研究支援拠点、国立大学法人 大阪大学)および笹川科学研究助成の支援を受けて行われました。

掲載誌情報

【発表雑誌】The FASEB Journal
【論文名】In vivo transfection of cytokine genes into tumor cells using a synthetic vehicle promotes antitumor immune responses in a visceral tumor model
【著者】Shunichi Watanabe, Ayaka Takagi, Eiji Yuba, Chie Kojima, Nanako Dei, Akikazu Matsumoto, Jun Tanikawa, Tetsuya Kawamura, Nadeeka H. De Silva, Takeshi Izawa, Takashi Akazawa, Ryoji Kanegi, Shingo Hatoya, Toshio Inaba, Kikuya Sugiura
【掲載URL】https://doi.org/10.1096/fj.202202036R

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 獣医学研究科
教授 杉浦 喜久弥(すぎうら きくや)
TEL:072-463-5374
E-mail:sugiurak[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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