最新の研究成果

-ドラッグ・リポジショニングで運動機能回復へ- 強心剤による運動学習能力向上の促進を実証

2024年2月20日

  • リハビリテーション学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇強心剤「ジゴキシン」の樹状突起スパイン生成効果と、運動学習能力向上効果を検証。
◇スパイン生成機能に障害のあるマウスでは、投与安全が確認された用量での運動学習能力向上を実証。
◇脳障害後の神経回路の再構築や、効果的なリハビリテーションの促進への応用に期待。

概要

何かを学習したり、それを記憶として定着させるとき、脳の神経細胞がネットワークを形成し情報を伝達しています。これらのネットワークをつくる神経細胞同士の接続部分をシナプスといい、そのはたらきや数の変化が記憶力や運動学習能力に影響を与えます。これまでの研究で、シナプスでの情報の受け手である樹状突起スパインと呼ばれる小さな突起は運動学習などの際にも増加することが示されています。人為的にスパインの生成を促すことができれば、脳障害後の患者で神経回路の再構築や運動機能の効果的なリハビリテーションを促進できる可能性があります。

大阪公立大学大学院 リハビリテーション学研究科の橋本 遵一客員研究員、藤田 えりか大学院生、宮井 和政教授らの研究グループは、強心剤として臨床でも使用されている低濃度(~65 μg/kg)のジゴキシンが、スパインの生成を促す作用を持つ可能性に着目し、さまざまな濃度(1、4、65、650 μg/kg)のジゴキシンをマウスに投与しその効果を検証しました。その結果、正常なマウス、スパイン生成の信号を持たないマウスいずれにおいても、低濃度のジゴキシンを投与することで新生スパインが増加することが分かりました。さらに、これらのマウスの運動学習能力を調べたところ、特にスパイン生成の信号を持たないマウスでは臨床容量程度(4 µg/kg)の投与でも運動学習能力が向上することを実証しました。

本研究成果は、2024年1月24日に、国際学術誌「Neuroscience」にオンライン掲載されました。

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スパイン計測には時間と労力を要し根気が必要でしたが、本成果を発表できて嬉しく思います。まだまだ基礎研究の段階ですが、将来的に少しでも医療・科学の進歩や発展に貢献できるようこれからも研究を続けていきます。

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(左から)藤田大学院生、橋本客員研究員、宮井教授

掲載誌情報

【発表雑誌】Neuroscience
【論文名】Effects of cardiac glycoside digoxin on dendritic spines and motor learning performance in mice
【著者】Junichi Hashimoto, Erika Fujita, Keisuke Tanimoto, Suzuo Kondo, Kazumasa Matsumoto-Miyai
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.neuroscience.2024.01.018

資金情報

本研究は科研費・基盤B(20H04040)の支援を受けて実施しました。

用語解説

※ 樹状突起スパイン…神経細胞の樹状突起上にある棘状の突起で、興奮性シナプスでの情報の受け手(シナプス後部)となる。新しく生まれたスパインは糸状の細長い形態だが、シナプスが形成され成熟するにしたがって頭部が拡大し長さが短縮することが知られており(図1)、その形態によって発生段階を類推することができる。

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図1 樹状突起スパインの成熟過程

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 リハビリテーション学研究科
教授 宮井 和政(みやい かずまさ)
TEL:072-950-2855
E-mail:kazumasa[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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