最新の研究成果

モータータンパク質ミオシンによる栄養輸送タンパク質の極性局在メカニズムを解明 -植物のストレス耐性強化技術開発への応用が期待-

2025年5月12日

  • 農学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇植物特異的なミオシンXIの機能欠損によりホウ素の輸送が乱れ、植物が低ホウ素環境に弱くなることを見出しました。作物のストレス耐性強化技術開発への応用が期待されます。
◇ホウ素輸送タンパク質の細胞膜上の適切な配置に、細胞内のモータータンパク質「ミオシンXI」が重要な役割を担っていることを初めて明らかにしました。植物が栄養を効率的に運ぶメカニズムの理解が大きく前進しました。
◇これまで着目されていなかった「ミオシンXI」と「栄養輸送」の関係が判明したことで、植物科学だけでなく、バイオテクノロジー分野にも波及効果が見込まれます。

概要

早稲田大学教育・総合科学学術院の富永 基樹教授と、大阪公立大学大学院農学研究科の髙野 順平教授の研究グループは、細胞内輸送を駆動しているモータータンパク質ミオシンXI※1に依存したホウ素の輸送メカニズムをシロイヌナズナ2を用いて研究しました。

ホウ素は植物の微量必須元素のひとつですが、植物にとって過剰でも欠乏でも好ましくありません。植物のホウ素輸送に関わるチャネルタンパク質であるNIP5;1は、根の細胞膜の外側(土壌側)に分布(極性局在※3)し、ホウ素の効率的な吸収に関与しています。しかしながら、NIP5;1の極性局在のメカニズムに関しては未解明な部分が多く残されていました。

本研究では、ミオシンXIの機能を欠損させたシロイヌナズナにおいて、細胞膜におけるNIP5;1の極性局在が失われ、低ホウ素環境に対する耐性が弱まることを確認しました。NIP5;1は、エンドサイトーシス※4と呼ばれる経路によって細胞膜から細胞内に運ばれ、また細胞膜へリサイクリングされますが、ミオシンXIは、NIP5;1のエンドサイトーシスにおいて重要な役割を果たすことが明らかになりました。

本研究は、ミオシンXIが栄養輸送タンパク質の適切な細胞内輸送に関わっていることを初めて見出した重要な成果です。これにより、栄養吸収を伴う植物成長におけるミオシンXIの重要性が明らかとなり、今後の植物研究に貢献することが期待されます。

本研究成果は国際学術誌「Plant Physiology and Biochemistry」に2025年4月17日(木)に掲載されました。

press_0512図 本研究の概要
ミオシンXI欠損によるエンドサイトーシス経路の輸送阻害がNIP5;1の極性局在を喪失させ、低ホウ素に対する耐性が低下。

掲載誌情報

【発表雑誌】Plant Physiology and Biochemistry
【論文名】Myosin XI is required for boron transport under boron limitation via maintenance of endocytosis and polar localization of the boric acid channel AtNIP5;1
【著者】:Haiyang Liu, Keita Muro, Riku Chishima, Junpei Takano, Motoki Tominagaa
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.plaphy.2025.109938

資金情報

本研究は、JSPS科研費(JP20001009、JP23770060、JP19H05763)からの支援を受けて実施されました。

用語解説

※1 ミオシン…細胞骨格であるアクチンフィラメント上を運動するモータータンパク質の一種。動物、植物を含めて約80クラスが見つかっており、植物には植物特異的なミオシンVIII(クラス8)とミオシンXI(クラス11)の2クラスが存在します。原形質流動は、ミオシンXIの運動により発生していることが知られています。

2 シロイヌナズナ…アブラナ科シロイヌナズナ属の一年草。学名はArabidopsis thaliana。育てるのに場所を取らない、発芽から種を付けるまでの期間が短い、ゲノムサイズが小さいなど、遺伝学的な研究を進める点での利点が多く、2000年に植物の中で最初に全ゲノム配列が解読され、モデル植物として広く使われています。

3 極性局在…細胞や組織内で特定の分子(タンパク質やRNAなど)が方向性を持って非対称に分布する現象を指します。このパターン形成は、細胞の機能的な分化や形態形成、物質輸送の制御において極めて重要な役割を果たします。

4 エンドサイトーシス…細胞が細胞膜の一部を変形させて外部の物質や分子を包み込み、細胞内に取り込むプロセスの総称です。具体的には、細胞膜がくぼみを作って対象物質を囲い込み、その部分が切り離されて「小胞」として細胞内に運ばれる現象を指します。この仕組みは、栄養分の吸収やシグナル伝達、細胞膜の成分調節など、生命活動に不可欠な機能を担っています。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院農学研究科
教授 髙野 順平(たかの じゅんぺい)
TEL:072-254-9406
E-mail:jtakano[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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