最新の研究成果
-さまざまな難治性脳神経疾患治療を1つの「くすり」で- 脳神経細胞死を防ぐ革新的な低分子医薬品の開発に成功
2025年5月12日
- 獣医学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇脳卒中やアルツハイマー型認知症など、多くの難治性脳神経疾患の共通病原と考えられているタンパク質の凝集阻害剤(低分子医薬品)を、世界で初めて開発。
◇脳卒中発症6時間後の投与でも、脳梗塞と半身麻痺を改善することをマウスで確認。
概要
難治性脳神経疾患の中でも、脳卒中(脳梗塞)は世界の死因第2位で、全世界の死亡者数の11.6%を占めています。治療ではまず、脳の血流を再開するために血栓溶解剤(t-PA※1)を用いますが、日本では脳卒中を発症後、4時間30分以内の患者への投与が推奨されているなど、その使用には多くの制限があります。血栓溶解剤が使えない場合、長時間の虚血状態により脳がダメージを受け、脳神経系の細胞死が起きます。脳神経の細胞死は半身麻痺などの重篤な後遺症に繋がるため、脳神経系を保護する治療薬の開発が求められています。
大阪公立大学大学院獣医学研究科の中嶋 秀満准教授と大阪大学蛋白質研究所の疋田 貴俊教授らの共同研究グループは、多機能性タンパク質GAPDH※2の凝集が多くの難治性脳神経疾患の共通病原であるという仮説のもと、GAPDH凝集阻害剤GAI-17を開発しました。本阻害剤を急性期脳卒中モデルマウスに投与したところ、脳梗塞と半身麻痺が顕著に改善することを確認しました(図1)。
本研究成果は、2025年5月2日にCell Pressが刊行する国際学術誌「iScience」のオンライン速報版に掲載されました。
図1 本研究で得られた成果
私たちが開発したGAPDH凝集阻害剤は、脳卒中に留まらず、アルツハイマー型認知症など多くの難治性脳神経疾患共通の治療薬になると考えられ、1剤で多くの難治性脳神経疾患の治療が期待されます。私たちの大きな目標は、創薬研究によってヒトと動物の「健康長寿」に貢献することです。

中嶋 秀満准教授
掲載誌情報
【発表雑誌】iScience
【論文名】Inhibition of GAPDH aggregation as a potential treatment for acute ischemic stroke
【著者】Masanori Itakura*, Takeya Kubo*, Akihiro Kaneshige*, Masatoshi Nakatsuji, Naoki Harada, Ryoichi Yamaji, Takatoshi Hikida, Takashi Inui, and Hidemitsu Nakajima** *…筆頭著者、**…責任著者
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.112564
資金情報
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費 基盤研究A(JP24H00543)、基盤研究B(JP16H0502、JP23K24205)、基盤研究C(JP25450428、JP22580339)、科学技術振興機構(JST)A-STEP研究成果最適化支援プログラム(AS242Z02311Q、AS232Z02185G)、知財活用促進ハイウェイ(HWY2013-1-研 162(1))、日本医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究費(JP23ym0126815)からの支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 t-PA…組織型プラスミノーゲン活性化因子(tissue-Plasminogen Activator)の略称。強力な血栓溶解剤で日本では2005年に承認された。脳卒中後、4時間30分以内での使用が推奨されており(米国では6時間以内)、それ以降の投与は脳出血などの重篤な副作用が報告されていることから、慎重投与が必要である。
※2 GAPDH…グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(Glyceraldehyde-3-phophate Dehydrogense)の略称。解糖系酵素として同定されたが、近年、細胞死誘導など多機能タンパク質として注目を集めている。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院 獣医学研究科
准教授 中嶋 秀満(なかじま ひでみつ)
TEL:072-463-5884
E-mail:h_nakajima[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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