最新の研究成果
あざ治療のメタ分析にレーザー照射条件を新たに取り入れ、ピコ秒レーザーとナノ秒レーザーを比較
2025年7月3日
- 医学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇従来のメタ分析では考慮されていなかったレーザー照射条件の適正さを判定したうえで、治療効果を評価する新たなメタ分析手法を開発。
◇太田母斑※1のレーザー治療を分析した結果、適正な照射条件のピコ秒レーザー※2は、従来のナノ秒レーザー※3よりも効果が高く、同等の安全性であった。
◇適正なレーザー照射条件を判定する指標により、ピコ秒レーザーの効果的で安全な照射条件の提供が可能。
概要
太田母斑は目の周りや頬に現れる青黒い皮膚のあざで、治療にはレーザーが用いられています。診療ガイドラインの策定には、複数の研究結果を統合して治療の有効性と安全性を客観的に評価するメタ分析が不可欠です。従来のメタ分析では、レーザー照射条件の妥当性が考慮されていなかったため、照射が過少・過剰な場合の治療結果も含まれており、より正確な評価が望まれていました。
大阪公立大学大学院医学研究科皮膚病態学の下条 裕ポスドク研究員、小澤 俊幸特任教授、鶴田 大輔教授、大阪大学大学院工学研究科の西村 隆宏助教、東海大学医学部外科学系形成外科の河野 太郎教授らの研究グループは、インシリコモデル※4と呼ばれる計算機上での数理モデルで計算された、適正な照射条件を判定する指標を作成し、その指標内の治療を分析対象とする「インシリコ支援メタ分析」を開発しました。そして、太田母斑の治療に適用した結果、適正な照射条件のピコ秒レーザーは、従来のナノ秒レーザーよりも効果が高く、同等の安全性を示しました。また、適正な照射条件の指標により、効果的で安全なピコ秒レーザーの照射条件を提供できることも示されました。本研究結果は、レーザー治療の標準化に貢献することが期待できます。
本研究成果は、2025年6月20日、米国皮膚科学会が刊行する国際学術誌「JAAD Reviews」にオンライン掲載されました。
レーザー治療のインシリコモデルとメタ分析を組み合わせることで、メタ分析の確度向上と照射条件の適正化を両立させました。これは、レーザー治療の再現性と安全性を高めると同時に、今後のガイドライン策定や治療標準化に貢献すると考えています。
下条 裕ポスドク研究員
掲載誌情報
【発表雑誌】JAAD Reviews
【論 文 名】Association between irradiation parameters and outcomes for picosecond laser treatment of nevus of Ota: An in-silico-supported meta-analysis
【著 者】Yu Shimojo, Takahiro Nishimura, Daisuke Tsuruta, Toshiyuki Ozawa, Taro Kono
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.jdrv.2025.06.001
用語解説
※1 太田母斑:主にアジア人に多く見られる、目の周囲や頬に青黒く現れる皮膚のあざ。メラニン色素が真皮(皮膚の深い層)に沈着しているため、塗り薬などでは治療が困難で、レーザー治療が第一選択である。見た目の悩みだけでなく、精神的な影響も大きいため、早期かつ安全な治療法の確立が求められている。
※2 ピコ秒レーザー:ピコ秒(1兆分の1秒)の非常に短いパルスを発するレーザー。この超短時間の照射により、周辺組織の損傷を抑えて病変を効率良く破壊できる。あざ・しみ・刺青除去などの治療で近年注目されている新規技術。
※3 ナノ秒レーザー:ナノ秒(10億分の1秒)の短いパルスを発するレーザー。ピコ秒レーザーに比べると照射時間が長く、病変周辺の正常組織に与えるレーザーの影響が大きいと指摘されている。長年使用されてきた信頼性の高い技術であるが、より安全・効果的な治療法の開発が求められている。
※4 インシリコモデル:「インシリコ」はコンピュータ上での解析を意味する言葉で、実験や臨床試験を補完する計算機シミュレーション技術を指す。本研究では、レーザーが皮膚内のメラニン色素に到達する様子や効果を数理モデルと光学シミュレーションで再現し、治療の"適正な照射条件"を理論的に導き出している。
資金情報
本研究は、日本学術振興会科研費(23KJ1825、24K19832)の助成を受けたものです。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院医学研究科
皮膚病態学 薬物生理動態共同研究部門
ポスドク研究員 下条 裕(しもじょう ゆう)
TEL:06-6645-3693
E-mail:x22800k[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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