最新の研究成果
ニホンライチョウを脅かす寄生虫の“生存戦略”を解明 ~寒冷地に生きる絶滅危惧種の保全に貢献する新たな知見~
2025年7月15日
- 獣医学研究科
- プレスリリース
概要
アイメリア原虫は、主に鳥類や草食動物の消化管に寄生し、下痢や痩せ衰えた状態を引き起こします。宿主の消化管内で増殖した後、糞便中へ排出され、体外で感染力を持つようになりますが、低温や凍結には弱く、氷点下では死滅することが知られています。
大阪公立大学大学院獣医学研究科の松林 誠教授、政兼 菜実氏(当時 大阪府立大学生命環境学域6年)らの研究グループはこれまでに、ニホンライチョウが高確率で2種のアイメリア原虫に感染していること、またニホンライチョウが好む高山植物に駆虫効果があることを明らかにしてきました。しかし、冬季に氷点下となる日本アルプスにおいて、ニホンライチョウの感染が続く理由は未だ解明されていません。
本研究では、感染の仕組みを明らかにするために、2021年8月に日本アルプスから那須どうぶつ王国および長野市茶臼山動物園に移送された、母鳥とその雛(繁殖後に生まれた個体も含む)の家族2組を対象に、2年間にわたり感染状況を調査しました。その結果、一度感染すると体内から原虫が完全に消失することはなく、さらに雛を生んだ雌親の体内でのみ再増殖し、排泄物を介して効率的に雛へと感染を伝播していることが世界で初めて明らかになりました。本結果は、アイメリア原虫が単なる病原体ではなく、ニホンライチョウの生存や生態系に関与している可能性を示しており、人工繁殖による保全活動においても新たな視点が求められることを示唆しています。
本研究成果は、2025年5月27日に国際学術誌「International Journal for Parasitology: Parasites and Wildlife」のオンライン速報版に掲載されました。
政兼 菜実氏のコメント
希少野生動物の保全に興味があり、絶滅危惧種に指定されているライチョウを卒業研究課題に選びました。今回の研究を通じて、野生鳥類に寄生するアイメリア原虫が、ライチョウの生態や繁殖に深く関わっているという驚くべき実態を明らかにすることができました。特に、雌親の体内でのみ原虫が再増殖し、効率的に雛へ感染が伝播するメカニズムの発見は、今後の保全活動や人工繁殖のあり方を考えるうえで重要な示唆を与えるものです。この経験を活かし、現在は獣医師として城崎マリンワールドに勤務しています。
掲載誌情報
【発表雑誌】International Journal for Parasitology: Parasites and Wildlife
【論 文 名】Two-year longitudinal study of Eimeria uekii and Eimeria raichoi oocyst shedding in Japanese rock ptarmigans (Lagopus muta japonica)
【著 者】Nami Masakane, Mei Harafuji, Yuki Arakawa, Tatsuhiko Yamakami, Naoya Tamura, Sayaka Tsuchida, Atsushi Kobayashi, Tomoyuki Shibahara, Hiroshi Nakamura, Kazumi Sasai, Kazunari Ushidac, Makoto Matsubayashi
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.ijppaw.2025.101088
資金情報
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(科研費)基盤研究(B)(19H04319、23K26932)の支援を受けて行われました。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院獣医学研究科
教授 松林 誠(まつばやし まこと)
E-mail:matsubayashi[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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