最新の研究成果

〜持続可能なインフラ維持管理を目指したDX推進研究〜小型汎用ドローンとAIで港湾施設のひび割れを自動検出する新技術を開発

2025年7月16日

  • 情報学研究科

ポイント

◇港湾岸壁の老朽化対策として、地方自治体で導入が進んでいる小型汎用ドローンと、AIによる画像認識技術を用いて、ひび割れを低コストかつ自動で検出するシステムを開発。
◇独自の画像認識技術により、低価格のドローンカメラでも、港湾岸壁の点検基準である3mm幅を大幅に下回る1mm程度の微細なひび割れを高精度に検出することに成功。
◇検出したひび割れは地図情報と連携でき、劣化状況の定量的・長期的な追跡が可能。これにより、リソースが限られる自治体でも持続可能なインフラ維持管理が容易になる。

概要

日本の高度経済成長期に建設された多くの港湾インフラは、建設後50年以上が経過し、老朽化が深刻な社会問題となっています。特に、常に海水や風に晒される港湾の岸壁は劣化が早く、定期的な点検が不可欠ですが、従来の手法は専門家による目視点検が中心で、多大なコストと時間がかかるうえに、点検技術者の不足という課題も抱えています。

大阪公立大学大学院情報学研究科の吉田 大介准教授らの研究グループは、高価な産業用ドローンを使うのではなく、地方自治体などでも導入しやすい市販の小型汎用ドローンと、AIの一種である深層学習(ディープラーニング)を組み合わせ、港湾岸壁を対象とした新しいひび割れ自動検出システムを開発しました。
本システムでは、ドローンで撮影した多数の空撮画像から、地図と同じように歪みのない単一の画像「オルソフォト(空中写真地図データ)」を生成します。安価なカメラの解像度でも微細なひび割れを見つけ出すため、画像をタイル状に分割して重ね合わせる「オーバーラッピング・タイリング法」や、画像の縮尺を擬似的に変化させてAIの検出能力を高める「擬似高度スライシング法」といった、独自の画像処理技術を導入しました。

その結果、港湾岸壁(コンクリート)の点検基準とされる3mm幅を大幅に下回る1mm幅の微細なひび割れでも、高精度に自動検出できることを実証しました。さらに、検出されたひび割れには正確な位置情報が付与され、GIS(地理情報システム)上での管理が可能なため、「前回はなかったひび割れが、今回新たに出現した」「このひび割れは、1年間でこれだけ長くなった」といった、経年変化を定量的に追跡することが可能です。本システムにより、従来は専門家の経験に頼っていた港湾岸壁の「危険度の判断」や「補修計画の策定」を、データに基づいて科学的に行う「データ駆動型アセットマネジメント」へと導きます。

本研究成果は、限られた予算や人員で広大なインフラを維持管理しなければならない地方自治体にとって、持続可能で低コストかつ実用的な新しい点検手法を提供するものであり、国内外のインフラ老朽化対策に大きく貢献することが期待されます。

press_yoshida_0716

吉田准教授のコメント

本研究で最も重視したのは、最先端の理論を追求するだけでなく、実際に現場で働く方々が「これなら使える」と実感できる、実用的なシステムを構築することでした。高価な専用機材がなくても、今ある機材とオープンソースの技術を組み合わせることで、ここまで高精度な点検が可能になることを示せたのは、大きな成果だと考えています。今後は、大阪港湾局だけでなく、さらに多くの自治体と連携し、このシステムを誰でも簡単に使えるWebアプリケーションとして提供することで、社会実装を目指していきたいです。

掲載誌情報

【発表雑誌】Sensors
【論 文 名】Development of an Automated Crack Detection System for Port Quay Walls Using a Small General-Purpose Drone and Orthophotos
【著     者】Daiki Komi, Daisuke Yoshida, Tomohito Kameyama

【掲載URL】https://doi.org/10.3390/s25144325

資金情報

本研究は、JSPS科研費(課題番号:JP23K11339)および、JST共創の場形成支援プログラム(課題番号:JPMJPF2115)の支援を受けて行われました。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 情報学研究科
准教授 吉田 大介(よしだ だいすけ)
TEL: 06-6605-3383
E-mail:daisuke[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

  • SDGs09