最新の研究成果
―複雑な量子流動現象から生じた三日月スキルミオン― ケルビン・ヘルムホルツ不安定性の量子版を実験により観測
2025年8月8日
- 理学研究科
- 研究推進機構
- プレスリリース
概要
大阪公立大学南部陽一郎物理学研究所/大学院理学研究科の竹内 宏光准教授らの研究グループは、韓国科学技術院(KAIST)のJae-yoon Choi(ジェユン チョイ)准教授らの研究グループと共同で、ケルビン・ヘルムホルツ不安定性(KHI)と呼ばれる、流体の流れに関する物理現象の量子版(量子KHI)の観測に、世界で初めて成功しました。また、本研究で観測した量子KHIの界面から生じた渦が、2022年に本研究グループが予測した新種のスキルミオン※1(三日月スキルミオン)であることが明らかになりました。
KHIは、速度が異なる二つの流体の境界面の波が発達して特徴的な渦巻き模様を引き起こす現象で、流体力学の分野で古くから知られており(図)、フィンセント・ファン・ゴッホの代表作である「星月夜」にインスピレーションを与えたとも言われています。KHIは流体の粘性※2の有無に関わらず生じるため、粘性を持たない超流動体でもKHIが生じることが予言されていましたが、これまでKHIの界面模様が観測された例はありませんでした。
本研究で発見された新種のスキルミオンは、超省エネ型次世代メモリデバイスなど、スキルミオンを活用した応用技術の基礎原理に革新をもたらすことが期待されます。
本研究成果は2025年8月8日(金)に、国際学術誌「Nature Physics」のオンライン速報版に掲載されました。
図 ケルビン・ヘルムホルツ波の写真と絵画。左:雲の波模様として捉えられたケルビン・ヘルムホルツ波。右:ゴッホ作「星月夜」。中央の渦巻き模様はKHIによって二つの流れの間に生じたケルビン・ヘルムホルツ波の渦模様をモチーフにしたものとも考えられている。
※画像は転載禁止です
コロナ禍で静かな研究室で集中して取り組んだ理論研究が、今回の実験で実証されました。この理論研究はKAISTのJae-yoon Choiらが実現した量子気体を強く意識したものですが、磁性体の専門家であるSe Kwon Kimらの先行研究に強く触発されたものです。私の理論研究を公表した直後にSe Kwonから連絡があり、そのとき初めて彼もKAISTに所属していることを知って驚きました。このような偶然も重なり、今回の国際共同研究が実を結びました。
竹内 宏光准教授
掲載誌情報
【発表雑誌】Nature Physics
【論 文 名】Stable singular fractional skyrmion spin texture from the quantum Kelvin–Helmholtz instability
【著 者】Seung Jung Huh, Wooyoung Yun, Gabin Yun, Samgyu Hwang, Kiryang Kwon, Junhyeok Hur, Seungho Lee, Hiromitsu Takeuchi*, Se Kwon Kim* and Jae-yoon Choi* * Corresponding author(s)
【 DOI 】10.1038/s41567-025-02982-x
【掲載URL】https://www.nature.com/articles/s41567-025-02982-x
資金情報
本研究は、JSPS科研費(JP18KK0391、JP23K20228)、JST戦略的創造研究推進事業 さきがけ「複雑な流動・輸送現象の解明・予測・制御に向けた新しい流体科学(研究総括:後藤 晋)」における研究課題「量子粘性の検証と複雑な量子流動現象の解明(研究代表者:竹内宏光、JPMJPR23O5)」の支援を受けて行われたものです。
用語解説
※1 スキルミオン:スピン(磁化の向き)が渦巻き状に並んだ安定な構造で、粒子のようにふるまう。
※2 粘性:流体(液体や気体)が流れるときの「ねばりけ」のことで、流れにくさや内部の摩擦の強さを表す。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院理学研究科/南部陽一郎物理学研究所
准教授 竹内 宏光(たけうち ひろみつ)
TEL:06-6605-3190
E-mail:takeuchi[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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