最新の研究成果
~動物福祉と遺伝資源保全に貢献~卵子回収が困難なラットでも回収が可能に
2025年8月20日
- 獣医学研究科
- プレスリリース
概要
哺乳動物は、ホルモン投与による「過剰排卵誘起法」により、通常の2~3倍の数の卵子を一度に排卵させることができます。この技術は、使用動物数を削減しながら、次世代の大量生産、卵子や受精卵による遺伝資源保存、効率的なモデル動物作製などに広く活用されています。しかし、一部の動物種や系統ではホルモン投与に対する反応が低く、十分な卵子を得ることができないことが課題となっていました。
大阪公立大学大学院獣医学研究科の金子 武人教授と中川 優貴研究員の研究グループは、過剰排卵誘起法に低い反応を示す代表的なラット系統であるBrown-Norway(BN)ラットにおいて、排卵誘導のタイミングを見直すことで卵子回収数の改善に成功しました。
過剰排卵誘起法は、性腺刺激ホルモンである妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG)を投与した48時間後に、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)を投与するのが一般的な方法です。しかし、PMSG投与後72時間でhCGを投与する新手法により、平均7個しか回収できなかった卵子が、平均43個も回収できることが明らかになりました。さらに、PMSG投与後72時間の卵巣を観察した結果、卵胞の成熟が進んでいることが確認され、hCG投与後に得られた卵子は受精能力も正常であることが実証されました。
図:PMSG投与後の卵巣の様子
この結果は、これまで十分な卵子回収が困難であった希少な動物種や系統にも応用可能であり、研究目的に応じた柔軟かつ適切なモデル動物の選定に繋がることが期待されます。
本研究成果は、2025年7月12日に国際学術誌「Heliyon」にオンライン掲載されました。
哺乳類の排卵メカニズムは複雑で未解明のことも多くあります。これまで長い間、卵子の回収が困難な系統では、その解決策を見つけることができませんでした。本研究により、同じ種でも卵胞や卵子の発育に違いがあることが分かったことで、この成果を、ヒトの不妊症治療や低出生率の絶滅危惧種の人工繁殖に応用していきたいと思います。

金子 武人教授 中川 優貴研究員
掲載誌情報
【発表雑誌】Heliyon
【論 文 名】Importance of the eCG-hCG injection interval for superovulation, fertilization, and embryonic development in rats
【著 者】Yuki Nakagawa, Takehito Kaneko
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2025.e43619
資金情報
本研究は、基礎生物学研究所 生物遺伝資源新規保存技術開発共同利用研究(19-907、20–709、 21–604、22NIBB702、23NIBB705、24NIBB707、25NIBB702)、環境省・(独)環境再生保全機構「環境研究総合推進費」(JPMEERF20214001、JPMEERF20244M01)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)(JP22ama121049, JP23ama121049, JP24ama121049, JP25ama121049)、京都大学野生動物研究センター共同利用・共同研究の支援により実施しました。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院獣医学研究科
教授 金子 武人(かねこ たけひと)
E-mail:takehito[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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