最新の研究成果
自発的な役割分担が協調作業の成績を決定する ―2者間の物理的協力における機能的役割分化の発現とその影響―
2025年8月26日
- 工学研究科
- プレスリリース
概要
人と人が協力して作業を行うと、一般的には1人で行うよりも高い成果を上げられると考えられています。たとえば、異なる視点や能力を持つ人同士が力を合わせることで、タスクの達成効率が高まることが期待されます。しかし、実際には協力によって常に高いパフォーマンスが得られるわけではありません。状況によっては、協力することがかえって作業の妨げになるなど、非効率を生む場合もあります。この「協力の優位性」が発揮される場合とそうでない場合があるのかについては、まだ十分に解明されていないのが現状です。
株式会社国際電気通信基礎技術研究所と大阪公立大学、アリゾナ州立大学、セントラルフロリダ大学の共同研究グループは、協力の効果が発揮される条件を明らかにすることを目的に、自発的に役割が形成される状況に着目し、協力の効果を検証しました。
実験では、ロボットアームを使って仮想空間上の棒を水平に運ぶ課題を実施し、2人ペアと1人(両手操作)での成績を比較しました。役割の指示はせず、タスクの力学的条件(対称・非対称)を操作することで役割分化の誘発を試みました。その結果、非対称条件※1ではペアの方が個人より成績が良く、先導・追従といった役割分担が徐々に形成される様子が確認されました。一方、対称条件ではそのような分担は見られず、個人の方が安定した運動を遂行しました。
本研究により、協力が常に効果的とは限らず、役割分担が自発的に生じるか否かが、協力によって個人より優れた成果が得られるための重要な要因であることが示されました。
この結果は、人同士の協力における役割分担の重要性を示したものであり、今後はこの知見を人とロボットの協力作業にも応用することが期待されます。特に、リハビリ支援や作業補助など、人とロボットが共に動作する多様な場面への展開が見込まれます。
本研究成果は、2025年8月26日に国際学術誌「The International Journal of Robotics Research」のオンライン速報版に掲載されました。
図1:協力作業の成果に影響を与える要因としての機能的役割分担
掲載誌情報
【発表雑誌】 The International Journal of Robotics Research
【論文名】 Role specialization enables superior task performance by human dyads than individuals
【著者】Asuka Takai, Qiushi Fu, Yuzuru Doibata, Giuseppe Lisi, Toshiki Tsuchiya, Keivan Mojtahedi, Toshinori Yoshioka, Mitsuo Kawato, Jun Morimoto, Marco Santello
【掲載URL】https://doi.org/10.1177/02783649251363274
研究者情報
■国際電気通信基礎技術研究所(ATR)
髙井飛鳥*(大阪公立大学)、土井畑禅、Giuseppe LISI、吉岡利福(XNef)、川人光男(XNef)、森本淳*(京都大学)
■アリゾナ州立大学(Arizona State University)
土屋稔生、Keivan Mojtahedi、Marco Santello*
■セントラルフロリダ大学(University of Central Florida)
Qiushi Fu
資金情報等
本研究は、以下の助成により実施されました。
・ 米国国立科学財団(NSF)助成金[BCS-1827752]
・ 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)委託研究[18701]
・ 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)研究費[JP22he2202017]
・ 防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度(ATLA)助成金[JPJ004596]
・ 公益財団法人栢森情報科学振興財団
・ 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)助成金[JPNP20006]
用語解説
※1 非対称条件:仮想棒に対する操作入力の位置と棒の回転中心までの距離が不均等な条件。
研究内容に関する問い合わせ先
株式会社 国際電気通信基礎技術研究所(ATR) 脳情報通信総合研究所
【職名・氏名】客員研究員・髙井飛鳥
Tel:0774-95-1215 E-Mail:atakai[at]atr.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
株式会社 国際電気通信基礎技術研究所(ATR) 総務部 広報チーム
Tel: 0774-95-1176 Fax: 0774-95-1178
E-Mail:pr[at]atr.jp
※[at]を@に変更してください。
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