最新の研究成果

サンゴがもつ光受容タンパク質のシンプルな光感度システムを発見

2025年9月5日

  • 理学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇造礁サンゴの光受容タンパク質であるオプシンは、既知の動物オプシンとは異なる仕組みをもち、正に帯電したシッフ塩基が塩化物イオンによって安定化することを発見。

◇塩化物イオンによる安定化は安定性が弱いため、pH環境に応じて可視光または紫外線に対する感度が可逆的に変化する。

◇造礁サンゴに共生する褐虫藻による光合成の影響で細胞内外がアルカリ性になるため、オプシンの可視光感度が低下し、相対的にUV感度が上昇する可能性を示唆。

概要

動物の網膜に存在する光受容タンパク質のオプシンは、ビタミンA由来のレチナールをシッフ塩基として結合し、その部位を正に帯電することで可視光を感知する色素として働きます。この色素は不安定な状態のため、負に帯電したアミノ酸残基が対イオンとして働き、安定化させることは過去の研究から分かっています。

大阪公立大学大学院理学研究科の酒井 祐輔博士研究員(研究当時)、寺北 明久教授、小柳 光正教授、スイスPSI Center for Life SciencesのXavier Deupi博士らの共同研究グループは、造礁サンゴのオプシンは既知の動物オプシンとは異なる仕組みをもち、シッフ塩基が塩化物イオンによって安定した状態になることを発見しました。塩化物イオンによる安定化は安定性が弱いため、可視光またはUVに対する感度がpH環境に応じて可逆的に変化するという特性を示しました。また、共生する褐虫藻の光合成により細胞内外がアルカリ性になるため、オプシンの可視光感度が低下し、相対的にUV感度が上昇する可能性が示唆されました。

本研究成果は、2025年9月1日に国際学術誌「eLife」にオンライン掲載されました。

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造礁サンゴ

美しいサンゴ礁を形成することで有名なサンゴがもつオプシンの特性は非常にユニークなものでした。オプシンの多様性(=可能性)を広げる研究になったことを非常にうれしく思います。サンゴのオプシンやそれを通して明らかになるサンゴの光生理・生態の世界にはまだまだ可能性が広がっているはずです。

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酒井 祐輔博士研究員

掲載誌情報

【発表雑誌】eLife
【論 文 名】Coral anthozoan-specific opsins employ a novel chloride counterion for spectral tuning
【著  者】Yusuke Sakai, Saumik Sen, Tomohiro Sugihara, Yukiya Kakeyama, Makoto Iwasaki, Gebhard F.X. Schertler, Xavier Deupi, Mitsumasa Koyanagi, Akihisa Terakita

【掲載URL】https://doi.org/10.7554/eLife.105451.3

資金情報

本研究は文部科学省科学研究費補助金23H02516、22H02663、20J01841、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)JPMJCR1753の助成を受けて実施しました。

用語解説

※ シッフ塩基:化学者ヒューゴ・シッフ(Hugo Schiff)が発見した化学結合の様式。アルデヒドやケトンとアミンが反応して生成する。オプシンにおいては、レチナールのアルデヒドとオプシンを構成するアミノ酸の一つであるリジンのアミンがシッフ塩基を形成し結合している。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院理学研究科
教授 寺北 明久(てらきた あきひさ) 
E-mail:terakita[at]omu.ac.jp
教授 小柳 光正(こやなぎ みつまさ)
E-mail:koyanagi[at]omu.ac.jp
TEL:06-6605-3144

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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