最新の研究成果

肝障害を引き起こすアルデヒドが次々と生じる現象のメカニズムを解明

2025年9月8日

  • 獣医学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇ヒトの遺伝子変異(ALDH2*2)を再現したマウスの体内にアリルアルコール1を投与すると、複数種類のアルデヒドが血液中で急速に増加することを発見し、この現象を「アルデヒドストーム」と名付けた。

◇アルデヒドストームで生じたアルデヒドは肝臓に蓄積して重度の肝障害を起こす。

◇グルタチオン2が肝臓で枯渇することによりアルデヒドストームが発生し、肝臓の酸化ストレスが促進され細胞死を引き起こす。

概要

飲酒によるアルコールは肝臓において有害なアセトアルデヒドへと分解された後、アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)によって解毒されます。しかし、日本人の約4割がALDH2の機能が低下する遺伝子変異(ALDH2*2)をもっており、少量の飲酒でも顔が赤くなるなどアセトアルデヒドを解毒する機能が正常に働かず、過度の飲酒によりがんの発症リスクが高くなることが知られています。

大阪公立大学大学院獣医学研究科の高見 優生大学院生(博士課程3年)、中村 純博士(客員研究員)、井澤 武史准教授らの研究グループは、ヒトのALDH2*2を再現したマウスの体内にアリルアルコールを投与するとアルデヒドの一種のアクロレイン3だけでなく、複数種類のアルデヒドが血液中で急速に増加することを発見し、この現象を「アルデヒドストーム」と名付けました。さらに、アルデヒドストームで生じたアルデヒドが肝臓に蓄積して重度の肝障害を起こすことを見出しました。また、肝臓において、抗酸化作用や解毒作用をもつグルタチオンが枯渇することによりアルデヒドストームが発生し、肝臓の酸化ストレスが促進されてフェロトーシス4という細胞死を引き起こすことも明らかにしました。アクロレインは電子タバコの煙や抗がん剤の代謝産物にも含まれているため、日常的なアルデヒド曝露に対してもALDH2*2をもつ人は健康リスクが高い可能性が示唆されました。

本研究成果は、2025年7月30日に国際学術誌「Free Radical Biology and Medicine」にオンライン公開されました。

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図 アルデヒドストームとフェロトーシス経路のクロストーク

ALDH2の機能が低下すると、肝臓においてアルデヒドの解毒のためにグルタチオンが多く消費される。グルタチオンの枯渇は酸化ストレスを促進して、脂質過酸化によるさらなるアルデヒドの産生・蓄積を促す(アルデヒドストーム)とともに、フェロトーシスと呼ばれる細胞死を引き起こす。

生活環境に化学物質があふれる現代社会では、一人一人の健康リスクを正しく評価することが重要です。本研究が、日本人に多いALDH2遺伝子変異による化学物質曝露リスクの予測と健康増進に役立つことを期待しています。

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高見 優生大学院生  井澤 武史准教授

掲載誌情報

【発表雑誌】Free Radical Biology and Medicine
【論 文 名】Systemic aldehyde storm induced by allyl alcohol exposure results in extensive hepatic ferroptosis in Aldh22 knock-in mice
【著  者】Yuki Takami, Jun Nakamura, Mitsuru Kuwamura, Jun Katahira, Toshiya Okada, Yuhei Maeda, Takeshi Izawa

【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.freeradbiomed.2025.07.045

資金情報

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費 基盤研究B(21H03603)、挑戦的研究(萌芽)(24K21921、20K21850)からの支援を受けて実施しました。

用語解説

※1 アリルアルコール:アルコールの一種。
※2 グルタチオン:体内でアルデヒドの解毒や、活性酸素種の除去(抗酸化作用)にかかわる。
※3 アクロレイン:アリルアルコールが体内で代謝されて生じる、反応性の強いアルデヒドの一種。
※4 フェロトーシス:細胞死の一種。細胞内に過酸化脂質や鉄イオンが蓄積することで起こる。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院獣医学研究科
准教授 井澤 武史(いざわ たけし)
TEL:072-463-5346
E-mail:takeshi.izawa[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

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