最新の研究成果
ケルト伝承が日本のファンタジー系ビデオゲームで変貌 妖精「デュラハン」、蘇る死者へ
2025年9月17日
- 文学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇アイルランド民話の首なし妖精「デュラハン」が、日本のゲーム作品とその関連資料でアンデッドの怪物へ変化した経緯を、豊富な図像分析、文献調査、事例研究を通じて解明。
◇日本のファンタジー作品に登場する多くの怪物が西洋産のゲームを経由して伝来したのに対し、デュラハンは1980〜1990年代のケルト・ブームを通じて翻訳から直接導入された点が特徴で、誤訳や解釈のずれが異文化の再想像・再創造の契機となり、独自の文化的ハイブリッド※1なキャラクターの定型を形成。
◇日本で再創造されたデュラハン像は、韓国や中国のゲーム・小説に取り入れられるなど、国際的に影響を及ぼした。
概要
大阪公立大学大学院文学研究科のエスカンド・ジェシ准教授(研究当時、早稲田大学高等研究所講師)は、アイルランド民話において「首なしの死を告げる妖精」として知られる「デュラハン」が、日本のファンタジー系ビデオゲームと関連資料のファンタジー事典においては、ゾンビのようなアンデッドや蘇る死者のモンスターへと変容した過程を民俗学と情報メディア学を横断して明らかにしました。
多くの怪物が西洋TRPG※2を通じて受容された一方で、デュラハンは1980~1990年代のケルト・ブームを通じて翻訳から直接日本のファンタジー作品に導入されました。アイルランドの詩人W. B.イェイツ(1865~1939)の著作とその邦訳に見られる誤解を起点として、ファンタジー事典や初期国産RPGが像を定着させました。このように誕生した日本独自の「アンデッド・デュラハン」は、後に韓国や中国の作品へも広がり、文化的ハイブリッド化の仕組みを理解する上で大きな意義を持ちます。
本研究成果は2025年8月3日に国際学術誌「Games and Culture」(オンライン版)に公開されました。
<研究者からのコメント>
異文化に根を張った現代日本ファンタジーが、モチーフの本来の文化圏でも人気を博しているのは、それらの文化圏では発想し得ない再想像を提示しているからだと思われます。意図的な転覆であれ、不本意な曲解の結果であれ、歴史的意識に縛られない日本の創作者たちは、世界の伝承と想像の世界をまたがって奇抜なアイデアを提供しています。日本のコンテンツが世界的に流行している現状を踏まえると、その学術的探究は喫緊の課題であると言えます。
掲載誌情報
【発表雑誌】Games and Culture
【論 文 名】The Dullahan, From Fairy to Undead Tracing the Cultural Hybridization of Irish Folklore in Japanese Games and Their Paratexts
【著 者】Jessy Escande
【掲載URL】https://doi.org/10.1177/15554120251362923
資金情報
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究活動スタート支援「現代日本ファンタジーにおける文化の盗用研究」の研究助成を受けて行われました。
用語解説
※1 文化的ハイブリッド:異なる文化的背景をもつ要素が交差・融合した結果として生じる、新たな文化的形態。
※2 TRPG:テーブルトークロールプレイングゲーム。参加者が会話で物語を共同的に進める形式のゲーム。ボードゲームと即興演技を組みあわせたものとも説明できる。1970年代のアメリカにホビーとして生まれ、1980年代の後半から1990年代の前半の間に日本において一時的にブームを起こした。
研究内容に関する問い合わせ先
【研究内容に関する問い合わせ先】
大阪公立大学大学院文学研究科
(研究当時:早稲田大学高等研究所 講師)
准教授 エスカンド・ジェシ(Escande Jessy)
E-mail:escande.jessy[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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