最新の研究成果
鉄道運賃の補助でヘルシーニュータウンへ ~行動変容に有効なインセンティブを検証~
2025年10月10日
- 生活科学研究科
- プレスリリース
概要
多くのニュータウンが直面する共通の課題の一つは、「車中心の社会がもたらす住民の健康リスク」です。日常の移動を車に頼る生活様式は、意識しないうちに人々の身体活動量を低下させ、生活習慣病などのリスクを高める要因となっています。ニュータウンがこの課題を解決し、人々が健やかに生活し続けられる「ヘルシーニュータウン※1」になるためには、自家用車ではなく、公共交通などのよりアクティブな移動手段への行動変容を促すことが不可欠です。しかし、行動変容に有効なインセンティブは、これまで十分に示されていません。
大阪公立大学大学院生活科学研究科都市科学研究室の加登 遼講師は、堺市役所と南海電気鉄道株式会社と連携し、「へるすまーと泉北※2」のユーザー900人を対象に、ランダム化比較試験※3を実施し、鉄道運賃の補助が行動変容に与える影響について効果検証を行いました。その結果、1,000円分の運賃補助は、壮年世代の歩数を、有意に増加させることを解明しました。この効果は、適切な運賃補助が、泉北ニュータウンをヘルシーニュータウンへ、リ・デザインするための有効なインセンティブであることを示しました。
本研究成果は、2025年9月25日に国際学術誌「Research in Transportation Economics」に掲載されました。
大阪府堺市南区の泉北ニュータウンは、高齢化率が約37%に達しており、急速な高齢化を迎えています。このような高齢化したニュータウンは「オールドニュータウン」と揶揄されてきました。都市科学研究室は、ニュータウンで希望のある新たな将来像として「ヘルシーニュータウン」を提唱して、それに向けたリ・デザインに取り組んでいます。
加登 遼講師
掲載誌情報
【発表雑誌】Research in Transportation Economics
【論 文 名】Effects of a train fare subsidy program on the daily walking steps of prime-aged adults: A randomized controlled trial of the Senboku Rapid Railway
【著 者】Haruka Kato
【掲載URL】https://doi.org/10.1016/j.retrec.2025.101639
資金情報
本研究は、JSPS科研費(24K17421)と日立財団倉田奨励金(1622)の支援を受けて実施しました。
用語解説
※1 ヘルシーニュータウン:急速な高齢化が進むオールドニュータウンにおいて、住民が自宅や地域で健康的に暮らし続けられるよう、都市環境の再整備や健康増進を目的とした活動を通じて、持続可能なまちづくりを目指すコンセプト。イギリスでは、2015年以降、国民保健サービス(NHS)が中心となって「Healthy New Towns」プロジェクトを推進しており、ICTを活用した健康支援や都市環境整備など、世界的にも先進的な取り組みが行われている。日本のオールドニュータウンでも、地域の特性を踏まえた新たな取り組みが自発的に広がりつつある。
※2 へるすまーと泉北:泉北ニュータウン地域の住民および来街者を対象に、運動及び計測の習慣づくりを行うことで生活習慣病等の予防と行動変容を促すスマートフォンアプリ。歩数に応じて貯まったポイントを、泉北ニュータウン地域の飲食店や南海泉北線のデジタルきっぷ、南海バス割引券などに交換できることや、日々のポイントランキングの更新により、ユーザーの健康に対するモチベーション向上に繋げる。なお、「へるすまーと泉北」のユーザー数は、2025年9月時点で1万2千人に達しています。
※3 ランダム化比較試験:参加者を無作為(ランダム)に「介入群」と「対照群」に分け、介入の効果を科学的に検証する方法。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院生活科学研究科
講師 加登 遼(かとう はるか)
E-mail:haruka-kato[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
該当するSDGs