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絶滅危惧種を多く含む水生甲虫・水生カメムシで環境DNA分析に必要な参照DNA配列を網羅的に整備

2025年10月21日

  • 農学研究科
  • プレスリリース

概要

中濱 直之(兵庫県立大学自然・環境研究所准教授 兼 兵庫県立人と自然の博物館主任研究員)、平澤 桂(アクアマリンいなわしろカワセミ水族館副館長)、加藤 雅也(大阪公立大学大学院農学研究科緑地環境科学専攻大学院生)、渡部 晃平(石川県ふれあい昆虫館学芸員)、倉田 正観(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター助教)、林 成多(ホシザキ野生生物研究所所長)らの研究グループは、日本の水生昆虫、特に絶滅危惧種を多く含む水生甲虫や水生カメムシのDNA配列データベースを整備しました。

近年の外来種の侵入、圃場整備や農薬の使用などにより、日本の水生昆虫の多くは絶滅の危機に瀕しています。そうした状況の中、近年は環境DNAなどの技術の発展に伴い、これまでの野外調査と比較して網羅的かつ簡易に生物相調査が可能となってきました。しかし、環境DNAによる分析では、得られた配列がどの種にあたるのか?を知るための参照データベースが必要不可欠です。魚類などでは参照配列のデータベースが充実している一方で、水生昆虫ではそうした参照DNA配列の構築は、ユスリカなど一部を除いて日本でなされていませんでした。特に、水生甲虫や水生カメムシは水田やため池など、開発や外来種の影響を受けやすい止水環境に多く生息しており、絶滅危惧種を多数含んでおります。そのため、こうした水生甲虫や水生カメムシの参照DNA配列の網羅的な決定は必要とされてきました。

本研究では、日本産水生甲虫・カメムシ類を網羅的に収集し、ミトコンドリアDNAのうち16S rRNA領域の一部の配列を決定しました。その結果、日本産水生甲虫のうち140種(亜種含む)、日本産水生カメムシのうち58種(亜種含む)の配列を決定しました。これは、日本産水生甲虫全種(亜種含む)の35.5%、日本産水生カメムシ全種(亜種含む)の45.3%を占めています。属レベルでは日本産水生甲虫の72.0%、日本産水生カメムシの70.5%を占めています。また、配列決定に用いた個体はいずれも兵庫県立人と自然の博物館、石川県ふれあい昆虫館、アクアマリンいなわしろカワセミ水族館、ホシザキ野生生物研究所に証拠標本として収蔵していることから、今後の分類学的な改訂にも対応が可能となっています。

本研究により、今後の環境DNA分析において、一度に多数の水生甲虫・水生カメムシが種や属などより細かいレベルまで分布の有無を明らかにできるようになることが期待できます。特に水田やため池などは開発や外来種の侵入により突然環境が変化してしまうリスクもしばしばあります。そのため、本研究は環境DNA分析とそれに基づいた保全施策の策定に欠かせない研究基盤として貢献することが期待できます。

本研究成果は2025年9月23日に、国際誌「Zookeys」の電子版に掲載されました。

掲載誌情報

【発表雑誌】Zookeys  1253巻 P.103-119
【論 文 名】Mitochondrial DNA 16S region and voucher specimen collection of Japanese aquatic Coleoptera and Hemiptera for environmental DNA metabarcoding analyses
【論文名訳】環境DNAメタバーコーディング分析に向けた日本産水生甲虫及びカメムシのミトコンドリアDNAの16SrRNA領域配列と証拠標本のコレクション
【著  者】Naoyuki Nakahama, Kei Hirasawa, Masaya Kato, Kohei Watanabe, Seikan Kurata, Masakazu Hayashi
中濱 直之(兵庫県立大学自然・環境研究所准教授 兼 兵庫県立人と自然の博物館主任研究員)、平澤 桂(アクアマリンいなわしろカワセミ水族館副館長)、加藤 雅也(大阪公立大学大学院農学研究科緑地環境科学専攻大学院生)、渡部 晃平(石川県ふれあい昆虫館学芸員)、倉田 正観(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター助教)、林 成多(ホシザキ野生生物研究所所長)

【掲載URL】https://doi.org/10.3897/zookeys.1253.146226

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

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