最新の研究成果
日米のライバルグループが協力してニュートリノ研究を推進
2025年10月23日
- 理学研究科
本研究成果のストーリー
- Question
素粒子ニュートリノには3種類ありますが、それらがどのような質量の順序で並んでいるのか、まだわかっていません。また、ニュートリノが粒子と反粒子で異なる振る舞いをするのか、が残された別の謎です。ニュートリノが飛行している途中でその種類を変える「振動」という現象を使って、これらの謎の解明を目指しています。 - Findings
日本のT2K実験と米国のNOvA実験が初めて共同解析を行い、ニュートリノ振動の精密測定の結果を英科学誌Natureに発表しました。質量の順序は未解決ながら、その順序によって粒子と反粒子の振る舞いの差に大きな制限がかかることを確認しました。また、質量の二乗差の測定精度を向上させました。 - Meaning
異なる特徴を持つ2つの国際大型ニュートリノ振動実験が、データ統合・解析することで、単独では到達できない精密な測定が可能になりました。また、ニュートリノの粒子と反粒子の振る舞いの差を調べたことにより、宇宙に物質が満ちている理由である「物質と反物質の非対称性」の謎の解明に近づく一歩となりました。
概要
日本のT2K実験と米国のNOvA実験は、データ統合を含む共同解析を実施し、その最初の結果を科学誌Natureに発表しました。両者はいずれも加速器を用いる長基線ニュートリノ振動実験です。この2つの実験が、異なる基線長(ニュートリノの飛行距離)やエネルギー条件を活かした共同解析を実施し、ニュートリノ振動の精密測定を行いました。その結果、ニュートリノの質量の二乗差に関する不確かさを2%未満に縮小することに成功しました。また、3種類のニュートリノの質量順序はまだ不明であるものの、その順序によっては粒子・反粒子間の対称性であるCP対称性の破れの大きさに大きな制限がかかることがわかりました。今回の成果は、ニュートリノのCP対称性の破れや宇宙における物質・反物質非対称の起源を解明する上で重要な一歩となります。今回の共同解析は、2010年から10年間のT2Kデータと、2014年から6年間のNOvAデータを統合したもので、競合しながらも補完し合う2つの国際共同実験の協力体制を示す成果でもあります。
T2K実験(左)とNOvA実験(右)の概要
研究グループ
T2K実験国際共同研究グループは、世界15の国・国際機関にある76の研究機関から、約560人の研究者が参加する国際共同研究グループです。日本からは、大阪公立大学・岡山大学・京都大学・慶應義塾大学・高エネルギー加速器研究機構・神戸大学・総合研究大学院大学・東京科学大学・東京都立大学・東京大学・東京大学宇宙線研究所・東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構・東京理科大学・東北大学・富山大学・宮城教育大学・横浜国立大学の研究者と大学院生総勢約130名が参加しています。
NOvA 実験国際共同研究グループは、世界8か国49機関から250人以上の研究者が参加しています。


掲載誌情報
【発表雑誌】Nature
【論 文 名】Joint neutrino oscillation analysis of data from the T2K and NOvA experiments
【著 者】S.Abubakar et al. (NOvA and T2K collaboration)
【掲載URL】https://doi.org/10.1038/s41586-025-09599-3
問い合わせ先
大阪公立大学大学院理学研究科
山本 和弘(やまもと かずひろ)
TEL:06-6605-2647
E-mail:kazuhiro[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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