最新の研究成果
アルツハイマー病治療前後の脳をMRIで比較 脳の老廃物排出機能は短期間では改善しない可能性
2025年10月23日
- 医学研究科
- プレスリリース
ポイント
◇アルツハイマー型認知症患者のレカネマブ治療開始前と3か月後においてMRIを用いてDTI-ALPS index※1を算出。
◇治療前後の比較でDTI-ALPS indexに有意な変化はなく、統計学的に同等と判定。
◇レカネマブによりアミロイドβが減少しても、脳の老廃物を排出する機能の低下は短期間では回復しないことを示している可能性。
概要
アルツハイマー型認知症は脳内にアミロイドβという蛋白質が蓄積し、脳の老廃物を排出するグリンパティック・システム※2と呼ばれる機能が低下することが病態に関与するといわれています。アミロイド標的治療薬のレカネマブは、アミロイドβを除去し認知機能低下を抑制することが期待されていますが、グリンパティック・システムへ与える影響はまだ分かっていません。
大阪公立大学大学院医学研究科放射線診断学・IVR学の大浦 達史大学院生(博士課程3年)、立川 裕之講師らの研究グループは、アルツハイマー型認知症患者13人を対象にレカネマブ治療開始前と3か月後において、MRIを用いてグリンパティック・システムを反映する指標のDTI-ALPS indexを算出しました。治療前後のDTI-ALPS indexの比較では、有意な変化は認められず、統計学的に同等と判定されました。本研究結果は、レカネマブによりアミロイドβが減少しても、グリンパティック・システムの機能低下が短期間では回復しないことを示している可能性があります。
本研究成果は、2025年9月8日に、国際学術誌「Journal of Magnetic Resonance Imaging」にオンライン公開されました。
本研究では、レカネマブ治療により脳内アミロイドβが減少しても、少なくとも3か月という短期間では既に進行した神経障害や グリンパティック・システム の機能低下が速やかに回復しにくい可能性が示唆されました。今後は観察期間を延長し、年齢・病期・血管リスクなどの背景因子別に層別化解析を目指します。
大浦 達史大学院生
掲載誌情報
【発表雑誌】Journal of Magnetic Resonance Imaging
【論 文 名】Unchanged Early Diffusion Tensor Imaging Along Perivascular Space Index After Amyloid-Targeting Disease-Modifying Therapy in Alzheimer's Disease: A Preliminary Study
【著 者】Tatsushi Oura, Daisuke Horiuchi, Hiroyuki Tatekawa, Hirotaka Takita, Akitoshi Takeda, Taro Shimono, Ayako Omori, Daiju Ueda, Natsuko Atsukawa, Yoshiaki Itoh, Shu Matsushita, Yukio Miki
【掲載URL】https://doi.org/10.1002/jmri.70118
資金情報
本研究は武田科学振興財団(研究課題番号:02y123g31)および日本学術振興会(JSPS)科研費(研究課題番号:25K19115)の助成を受けています。
用語解説
※1 DTI-ALPS index:Diffusion Tensor Image Analysis Along the Perivascular Spaceの頭字語。脳の老廃物を排出する機能であるグリンパティック・システムに関連する情報をMRIから間接的に捉える指標。
※2 グリンパティック・システム:Glymphatic system。脳脊髄液が動脈周囲の血管周囲腔から細胞間隙に流入し静脈周囲の血管周囲腔を介して中枢神経外に流出する、グリア細胞が関与する脳の老廃物排泄経路。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院医学研究科
大浦 達史(おおうら たつし)
TEL:06-6645-3831
E-mail:sx23812o[at]st.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
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