最新の研究成果

⿂の精⼦はどのように競争するのか?〜精⼦の寿命とタンパク質が進化のカギ〜

2025年10月28日

  • 理学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇どのような成果を出したのか
繁殖行動の観察、精子の運動解析、そして精子タンパク質(SPP120※1)の遺伝子発現解析を統合することで、精子競争※2の強さが雄の精子寿命やタンパク質発現と関連することを明らかにしました。

◇新規性
野外の行動観察と分子生物学的手法を組み合わせ、精子競争と精子の質の関係を実証的に示した世界初の成果です。従来は「オス同士の闘争」や「精子数の多寡」が注目されてきましたが、本研究は「精子の質と遺伝子発現」という新しい側面から精子競争の進化を明らかにしました。

◇社会的意義/将来の展望
体内受精と体外受精の両方に似た戦略を一種の魚で観察できる点は、哺乳類や鳥類など他の動物群にも通じる「繁殖戦略進化の共通原理」を探る手掛かりになります。

概要

琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設の守田昌哉准教授、京都大学、大阪公立大学大学院理学研究科 安房田 智司教授らのグループによる研究成果が、進化生物学分野の学術雑誌「Evolution」に掲載されました。本研究では、アフリカ東部の古代湖タンガニイカ湖に生息するカワスズメ科魚類(シクリッド※3Ophthalmotilapia ventralis を対象に、オスの繁殖競争の指標として着目した「精子競争」の程度に応じて精子形質や運動能力、さらに精液の拡散に関与するタンパク質の遺伝子発現が変化することを明らかにしました。これらの変化は、メスによる「精子選択行動」に対抗する戦術として機能し、雄の繁殖成功を高めている可能性があります。

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掲載誌情報

【発表雑誌】Evolution
【論 文 名】Variation in sperm motility and seminal plasma protein expression is shaped by pre- and post-mating sexual selection in the mouthbrooding cichlid (Ophthalmotilapia ventralis)

【著  者】Masaya Morita*, Shun Satoh, Takeshi Ito, Masanori Kohda, Satoshi Awata *責任著者

【掲載URL】https://doi.org/10.1093/evolut/qpaf196

資金情報

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費17K07414、21H05304、19H03306、20KK0168、23H03868の支援を受けて行われました。

用語解説

 ※1 SPP120:精液中の液体部分は「精しょう(seminal plasma)」と呼ばれる。SPP120とは“Seminal Plasma Protein 120”の略で、日本語では「精しょうタンパク質120」という。SPP120は精しょう中に多く含まれる糖タンパク質の一種。このタンパク質は糖鎖をもつことで精液の粘り(粘度)を高めるだけでなく、精子の運動を一時的に抑えて精子同士を凝集させる働きをする(Morita et al., 2018)。この働きにより、精子は放精後に時間をかけて徐々に活性化していくと考えられている。

※2 精子競争:複数のオスの精子が、同一のメスの限られた卵を受精する機会をめぐって競い合う現象を指す(Parker 1970)。このような状況では、オスは他のオスとの競争に勝つために、より多くの精子を産生したり、精子の運動能力や形態といった精子形質を進化的に変化させることが知られている。

※3 シクリッド: カワスズメ科に属する魚類で、多様な繁殖様式を持つ。中でも、本研究で扱った種は、卵を一旦放出し、その卵を口に咥えて、孵化後も口内で保育する口内保育を示す。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院理学研究科
教授 安房田 智司(あわた さとし)
TEL:06-6605-2607
E-mail:sa-awata[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

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