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糖尿病予備群ラットで血糖値上昇ホルモンの働きを検証 -肝細胞からブドウ糖が過剰に産出される仕組みが明らかに-

2025年10月29日

  • 生活科学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇糖尿病進展の要因として、近年、血糖値を上昇させるホルモンのグルカゴン1の働きが注目されている。

◇糖尿病のモデル動物であるOLETFラット2を用い、糖尿病発症前段階の肝細胞においてインスリン3およびグルカゴンの作用による糖質の利用や産生の変化を解析。

◇グルカゴンが肝細胞に作用することによって、糖新生4に関わる遺伝子のmRNA発現量とグルコース(ブドウ糖)の産生量が顕著に増加。

◇糖新生に関わる遺伝子のmRNAの半減期5が長くなり、mRNAの安定性6が進んでいることが判明。

概要

糖尿病が進行する要因として、血糖値を低下させるホルモンであるインスリンの機能不全だけでなく、血糖値を上昇させるホルモンであるグルカゴンの働きにも注目が集まっています。グルカゴンは空腹時などの血糖値が低い状態の時に分泌され、肝臓での糖新生を促進させることで血糖値を上昇させます。これまで、糖尿病の症状が現れる前段階の肝臓でのインスリンやグルカゴンの異常や、その分子基盤は十分に解明されていません。

大阪公立大学大学院生活科学研究科の出口 美輪子特任助教、福村 智恵教授、金 東浩准教授、東京医療保健大学の細田 明美准教授らの共同研究グループは、糖尿病のモデル動物であるOLETFラットを用い、糖尿病発症前段階の肝細胞においてインスリンやグルカゴンの作用による糖質の利用や産生の変化を解析しました。その結果、グルカゴンの作用により、正常なラットの肝細胞に比べて、糖新生に関わる遺伝子のmRNA発現量が顕著に増加していることが分かりました。また肝細胞内でのグルコースの産生量も有意に増加しました。さらに、糖新生に関わる遺伝子のmRNAの半減期が長くなり、mRNAの安定性が進んでいることが示されました。本研究結果により、糖尿病発症の遺伝素因をもつ場合、発症前段階から、グルカゴンに対する過剰な反応とmRNA安定性の異常が共存し、肝臓での糖新生を活発化させていることが明らかになりました。今後、グルカゴンの作用やmRNA安定性を標的とした新しい糖尿病治療法の開発への貢献が期待されます。

本研究成果は、2025年9月10日に国際学術誌「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」にオンライン掲載されました。

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2型糖尿病は、食生活や運動不足などの生活習慣が深く関わる病気で、さまざまな合併症を引き起こし、医療費の負担も大きくなります。本研究は糖尿病の早期発見や予防に役立ち、健康を保つだけでなく医療費の軽減にも貢献できると期待されます。

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 左から金准教授、出口特任助教、福村教授、細田准教授

掲載誌情報

【発表雑誌】Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
【論 文 名】Augmented glucagon-induced gluconeogenesis in primary hepatocytes from Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty rats
【著  者】Miwako Deguchi, Akemi Hosoda, Tomoe Fukumura, Shigeru Saeki, DongHo Kim

【掲載URL】https://doi.org/10.1093/bbb/zbaf133

資金情報

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(第23247045号および第19500684号)ならびに大阪公立大学戦略的研究費の支援を受けました。

用語解説

※1 グルカゴン:膵臓のα細胞から分泌されるホルモンで、血糖値が低下したときに肝臓で糖新生を促進し、血糖を上昇させる働きを持つ。
※2 OLETFラット:2型糖尿病研究に広く使われるモデル動物。OLETFラットは自然発症的に糖尿病の症状が現れ、LETOラットは正常対照群として比較に用いられる。
※3 インスリン:膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、血糖を細胞に取り込ませて血糖値を下げる。グルカゴンと拮抗して血糖の恒常性を維持する。
※4 糖新生:絶食時や糖質が不足したときに、脂質・アミノ酸・乳酸などからグルコースを新たに合成する代謝経路。血糖値を維持するために重要な反応だが、過剰になると高血糖を引き起こす。
※5 mRNAの半減期:mRNAの量が半分に減少するまでにかかる時間。
※6 mRNAの安定性:遺伝子の情報を伝えるmRNAがどの程度壊れずに存在できるかを示す性質。定量的に表す指標のひとつとしてmRNAの半減期の値が使用される。近年は代謝異常や疾患との関連が注目されている。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院生活科学研究科
特任助教 出口 美輪子(でぐち みわこ)
TEL:06-6167-1297
E-mail:deguchi[at]omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp

※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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